第十話:コミュニティと魔法使いの敵
話が脱線した…………。
しかしながら今この場は魔法や魔法使いに関することについての話をする場である。
その辺の紹介は後にすると庚輔は岬に伝えると、ちょうどいいからとコミュニティの説明を簡単にだが行うことにした。
「じゃあ、コミュニティという名称が出たから魔法を学ぶ前に簡単に説明するが、いいか?」
「はい」
「コミュニティというのはその名の通り魔法使いが集まったグループのことだ。基本的に同じ魔法系統、召喚術士なら召喚術士の集まりのようになって集まっており、それぞれに縄張りが存在する。まぁ、そのことを考えるとイメージしやすいのはヤ○ザか」
ヤ○ザという言葉が出てきたことで岬は少し引き気味になる。
一般人からしたらヤ○ザというのは近寄ってはいけない代名詞のようなものだ。
もっとも、一般人が近寄ってはいけないという観点だけを見れば魔法使いも似たようなものであながち間違っていないところが皮肉ではある。
「まあ、その辺の意識については置いといて、基本的にという言葉通り夜天の灯台のように様々なタイプの魔法使いが所属しているコミュニティも存在する。まぁ分野をまとめてオールマイティにしているか、分野を分けて特化にしているかの違いだ。コミュニティサイトのように使われたり、共同社会という語源の通りだったりと様々な活動形態がある」
「あ~……」
最後に付け加えられた言葉に岬は思わず納得の声を上げる。
何の意味がと思わなくもないが、研究者という観点から見れば確かに意味はある。
一点で突き詰めていくか、様々な観点から攻めていくかの違いなのだ。
無論コミュニティという言葉の通り、ただの仲良しグループが集まったものも存在する。
夜天の灯台もある意味でそういうタイプのコミュニティであった。
「じゃあ、バランサーというのは?」
「バランサーというのはバランサーコミュニティの略で、魔法社会と現代社会のバランスを取るコミュニティのことを言う。昔の言い方だと天秤だな。例えば掟を破った魔法使いがいた場合、それを捕らえ、魔法使いとしては生きていけなくさせて現代社会の司法にかける。所謂魔法社会の警察的な存在だ」
なるほど。確かに掟というものが存在するということはそれを裁く存在が必要となる。
そして掟を破った魔法使いを捕らえるとなるとそれ相応の戦闘能力と状況対応能力が必要となる。
夜天の灯台が研究系じゃなく、戦闘系のコミュニティである理由はそこにあるのだろう。
だが、一番大きな理由は実のところそこではない。
「そしてもう一つ。俺達の所属する夜天の灯台を始めとしたバランサーコミュニティの存在理由として魔法使いを敵から守護するというものが存在する」
「敵? 守護?」
庚輔の意味深な言い回しに岬も首を傾げる。
岬からしてみれば魔法使いは超常的な力を持つ存在。
その力の差は赤子と格闘家くらいのものであろう。
そんな魔法使いに敵がおり、その敵から守護するというのは一体どういうことなのだと思うのは仕方ないことである。
「そうだな。始まりはどこかしらの宗教の異教徒弾圧からだろうな。詳しい歴史は俺にもわからんが、ひとつだけ確かな記述があって、魔女狩りの始まった頃から名前が出てくるようになった」
「名前って?」
「魔祓い師。俺達魔法使いの敵で、今現在魔法使い全体、いずれ世界全体が抱えることになる問題の根源だ。まぁその問題については後だ」
庚輔のいう問題が何かについてはひとまず納得の意を示した岬だったが、魔祓い師という言葉に岬は聞き覚えを感じていた。
どこだったけと頭を捻る岬に円は口を出す。
「多分岬ちゃんには新興宗教の勧誘って言えばいいかな?」
「ああ! それそれ」
円の言葉にようやく思い出せた岬はすっきりした表情になる。
よくある新興宗教の勧誘に紛れて「悪魔払いませんか?」というように勧誘する白い服を着た人を岬は通学途中に何度か見かけていたのだ。
ある意味で特徴的な勧誘だったために岬は覚えていたが、これが普通の勧誘だとその他大勢と同じように分類されていたであろう。
なお、岬が聡い子だった事や、イリスと菖蒲が岬の物心着くまでの間に世界の状況を把握して、岬に黙っているようにしていたからこそ岬はこうして普通に育ってこれたのだが、もしこれで岬がイリスと菖蒲の事をよく喋るような人間だったなら両親は何かしらの宗教に嵌っていたに違いない。
「その話は置いといて。魔祓い師ってのは俺達のような魔法使いを、というか魔法に関係する者を世間を混乱させる悪魔だとかそういう風に認識している民間団体のことだ。もっとも、魔女狩りの頃ならともかく、現代では化物という認識以外でどういう認識になっているかは俺にもわからないが、ぶっちゃけ連中の方が世間を混乱させてると思うんだがな。とにかく魔法を忌み嫌う団体だ」
「対抗しているってことはそれだけの何かがあるってことよね?」
「まぁな。さっき話した祈祷魔法、連中は祈祷術といったっけな。それを使って対抗してる」
「魔法を忌み嫌ってるのに魔法を使う?」
これまでのような今までの常識を覆す説明には一切馬鹿にしたような態度をとらなかった岬も、さすがに今回のような矛盾を孕んだ言葉には呆れ果てる。
魔法を忌み嫌っているのに、先ほど魔法に分類したものを使っている。
これに呆れ返らないわけがない。
庚輔もその辺は同感らしく、岬と同じように呆れながら肩を竦める。
「連中にとって祈祷術は修行の末に選ばれたものが使える神の奇跡なんだって。ぶっちゃけ《媒介》がどのような系統かを始めとした原理については既にさっき庚輔が説明した系統別レベルくらいには魔法使いが解明して魔法と同じものだと証明してるし、何が応えてくれるかは運次第、『お願い』というあやふやな指示で結果はお願いした対象の気分次第という不安定さ、何よりそれがマイナスだった場合尋常じゃない被害でるようなもの使おうとする気がしれないよ。何の為にわたし達魔法使いが禁忌にして研究も何もかも凍結にしていると思ってるんだか」
「所謂、ロシアンルーレット大爆発版。ちなみに尻拭いは俺達魔法使い。被害者は主に一般人。被害範囲は最低でも街半分。ま、例外を除いてほとんどが取り返しのつかない存在へアクセスする能力を持ってないから今まで無事なんだが」
怒涛の理詰めで最後にアホらしいと一蹴した円の言葉に岬は顔を引きつらせる。
円が喜怒哀楽の激しい人間だと岬も分かってはいるが、ここまではっきりと毒づくとは思っていなかった。
だが、それ以上に分かりやすく、その驚異度と迷惑度が明確にされた庚輔の例えには岬も引き吊った笑みを一瞬で引っ込めてしまう。
同時に「もう、マジで滅ぼせばいいのでは」という物騒な考えが思い浮かんだ。
「滅ぼしていいなら、簡単に滅ぼせるなら三年前に庚輔が、十年近く前には三彦さんが滅ぼしてるよ」
そんな岬の心を読んだかのような円の言葉に岬もわかってたというように肩を落とした。
円は最前線に立つコミュニティにいるからこその理解で、岬は宗教関係の意味での理解である。
大抵こういう団体というのはかなりしぶとく、潰しても潰してもどこかしらから沸いてくる。
それこそGと呼ばれる虫並で、昔からとなるとその生命力?は異常なものだ。
一個人、一団体が潰せるような存在ではない。
「そんな感じで魔法使いと魔祓い師の抗争があるわけだが、当然魔法使いも魔法で対抗するのはわかるな?」
「ええ、力には力。特にそれが超常の力などであれば」
「そうだな。だから話を戻すぞ?」
大幅に脱線した話を元に戻しながら庚輔は、いつの間にか机に突っ伏して寝ていた愛成に毛布をかける。
持ってきていることには気づいていたが、なるほどこのためだったかと苦笑を浮かべる岬。
元々学校でも朝は眠そうにしているのを見ており、朝弱いんだろうなとは思っていたが、思っていた以上に朝に弱いらしい。
まるで猫のようだと考えたところで、そういえば愛成は猫の耳と尻尾を持ってことを思い出して「猫か」と一人納得して庚輔の話を聞く体制に戻った。
そんな岬へ庚輔は一度頷くと口を開いた。
「さて、さっき説明した通り魔法には様々な系統があるわけだが。今回覚えてもらうのは…………わかるよな?」
ニヤリと笑みを浮かべながら試すように尋ねてくる庚輔の真意を岬は理解する。
ここに来た理由。そして自分の現状を鑑みて、自分が今何の魔法を覚えるべきかのか。
それを岬の口から改めて確認しようというのだ。
しかし、岬にとってそれは改めて確認されるようなことでもない。
岬は庚輔の質問に一拍置いてから毅然と答える。
「ええ、今の私が覚えるべき魔法。それは召喚魔法よ」
愛成の話についてはちゃんとしますので、許して。