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024 時計塔の中

 時計塔の中は少しひんやりと涼しいみたい。なんでだろう。


 1階は天上が高い、広さ50メートルくらいのホールになっていて中にはパイプオルガンが置いてある。

 音が響いてよく聴こえるから、時々音楽会をやるらしい。

 音楽会をやる間は時計塔の鐘は止めるんだって。


 ホール入り口の手前に上の階層へ続く階段がある。

 2階は”時計塔の歴史”という展示コーナー。

 なになに……。


「この時計塔は30年前に建てられたもので、一度も止まること無く時を刻み続けています、だって」

『へー』


 いい雰囲気だと思ったけど、割りと新しいんだね。

 時計塔建築中の様子のスケッチ画や、建築方法の説明も展示されている。


「この時計塔はアブラハム=ピゲ・コンスタンスの初期の名作と言われ、これからもダントンの街に時を知らせ続けるでしょう」

『すごいんだね、そのアブラハムって人。こんなおっきな時計を作っちゃうんだもん』

「うんうん」


 子どもたちもルシィも、そして僕も、時計塔には興味津々。

 そして3階からいよいよ時計内部の機構だ。


「すげー!」『すげえ!』


 真っ先に大きな感動の声を上げたのは男子諸君。

 分かる、分かるよー。大量の歯車が複雑に噛み合って静かに軋み、大きな振り子がゆっくり動いている。

 これにワクワクしない男子はいないでしょ。


 一方の女子は圧倒されてちょっと怖がっている子もいるかな?


「なんか、すごいね」

「うん……」


 ルシィは隣りにいたロマーヌと思わず腕を組んでおっかなびっくり。

 ソレニィは男子寄りで、立ち入り禁止のロープまで身を乗り出して、目を爛々と輝かせながら歯車の動きを追っている。


「これから最上階へ行きます。しっかりと手すりを掴んで、慌てずにゆっくりね」

「はい!」


 11人の子どもたちが元気よく返事して、いざ最上階へ。

 4階部分はなくて吹き抜け。壁沿いに作られた2メートルの幅の階段は手すりが付いているからあまり怖さは感じない。それよりも階段の真横に見る歯車の数々に胸が熱くなるね。すごい仕組みを考えたもんだよ。

 最上階は5階の時計盤の部屋。


「おっきい!」


 今日は特別に時計盤を内側に引き込んでメンテナンス状態にしてある。

 大人の身の丈よりも少しある、本当に大きい時計盤だ。


 最上階は11人の子どもと大人二人が入ってちょうどいい広さ。

 外から見るよりも少し広い印象。


「こちらの方がこの時計塔の管理をしているジュスタン=オルロージュさんです。ここでジュスタンさんの話を聞きますよ」

「はーい」


 ジュスタンさんは白髪の入ったおじいさん。

 どうやら毎日時計塔の見回りをして、メンテナンスしているらしい。


 うーむ。素晴らしいね。この時計塔見学遠足ってやつは。

 機構部分は一般公開していないらしいけど、小中学校には特別に公開するんだって。

 こういう街のシンボルをしっかりと伝えていくことが、郷土愛を育てていくことにもなるんだろうなあ、と勝手に納得。


 でもって、部屋をぐるっと見渡していると、僕はぎょっとした。


『あれって……』

「?」


 妖精の祠で見た、紋章が壁に彫り込まれている。

 つるが絡みついた丸い円のような紋章。

 嫌な予感がする。

 ルシィがまたおかしなことにならなきゃいいけど。


『あの、ルシィ?』


 なに?と言わんばかりに腰元に固定してある僕を手に取る。


『なんともないよね?』

「?」


 様子に変わりはないようだ。よかった。

 と思ったら、ルシィの隣にいたアンテュールの様子がおかしい。

 少し足元がふらついている。


「アンテュール、大丈夫?」

「すこしめまいが……」


 すぐに気づいたルシィが心配そうに声をかけた。


「大変。少し休もう?」

「うん……」

「先生、アンテュールが少しつらそう」


 ルシィは手を上げた。


「あら大変。大丈夫?」

「はい、少し休めば大丈夫だと思います」


 高さに酔ったのかな?

 その様子を見たジュスタン老人も声をかける。


「だったらあそこに腰掛けがある。少し休んでいくといい」

「はい……」


 腰掛けの真上、壁に例の紋章がある。

 またちらりと嫌な予感がしたけど、あの時みたいに青白く光っているわけじゃないし、ルシィの様子もおかしくなさそうだし、今はとにかくアンテュールを休ませよう。

 ジュスタン老人の案内で、ルシィもアンテュールの腕を取って腰掛けに座らせる。


「よっと」


 バランスを崩したルシィが壁にタッチ。

 その手の平の先に紋章――。



 その瞬間に視界が変わった。



 ――地上30メートルの気持ちのいい風が一瞬にして固まり、ジメッとした空気が辺りを包み込む。

 周りには誰もいない、ルシィと僕、1人の少女と1本だけの暗闇の世界。


「……」

『……』


 えーっと……。


『ねえ、ルシィ』

「な、なあに?」

『なにをした?』

「なにもしていないよ……」

『……じゃあこれはなに?』

「こっちが聞きたいよ。ペントなら分かるでしょ」

『僕にも分かることと分からないことがあるね』

「……それは困ったねえ、あはは……」


 ルシィのおでこから頬に、冷や汗がタラリとひとしずく。

 こんな所でトラブルが発生するなんて、思いもしなかったよ……。

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