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019 森の散歩道

 散歩をテーマにした有名なアニメの唄があったけど、そんなに楽しいものでもなかった。

 木の根を踏み越えるたびに足を引っ掛けそうになるルシィ。

 ハラハラと心配しながら、それを見守るしかない俺。


 森、林、木。みたいな光景ばかりが続く森の中。

 それでもルシィは時々鼻歌交じりに、歩き続けた。

 小川沿いに、30分くらい歩いたのかな。

 ちょっと変わった風景に出会った。


「すっごいねえ」

『うん』


 小川を挟んで2本の大木が門のようになっている。

 それはもう、とんでもなく太い大木。

 両方とも幹周りは8メートル以上あると思う。ちょっと神秘的なものを感じたり。


「ねえねえ」

『なに?』

「これはあれだよ、妖精の門だよ!」

『へ? そうなの?』


 それもまた初耳だけど。そんなのあったの?


「今、あたしが考えたんだけど!」

『あ、はい』


 想像力豊かですねえ。


「あー、なんかつまんなそう」

『いやいや、そんなことないけど』

「そう?」

『俺はどうしたら帰れるかなーって考えてるの』

「うーん……。まあいいけど」


 ルシィさんは何かご不満なんでしょうかねえ。


『あの木の横、通れそうだよ』

「うん」


 それに、大木の門の向こうが少し明るい。

 行ってみよう。


「わあ、滝だ」

『げぇ、滝だ』


 両者、正反対の反応。


「ねえ、どういうこと?」

『バミィ川に繋がっているって思ってたの』

「ふーん……」


 俺たちが立っているのは滝の上。

 まあ、滝と言っても大瀑布が轟くような滝ではなく、川の延長のような段差に、小川の水がちょろちょろと落ちているような小さな滝なんだけど。


 高低差があるのはちょっと想定外だったな。

 黒い森の地理関係がちょっと分からなくなってきた。


「降りる?」

『足元に気をつけてね』

「うん」


 気をつけていたと思ったけど、苔がへばりついた岩を踏んだ時に足を滑らせて、踏みとどまろうとして蔓を掴んだ。

 ところがその蔓は役に立たず、そのまま前のめりにコケた。


「いったーい!」

『だ、大丈夫?』


 そんな大きな声を出すと焦るんですけど。


「手が痛い!」


 涙目のルシィ。


『見せて』

「うう……、こう?」


 右手の平に、小さな棘のようなものが刺さっている。

 取れるかなあ。


「これ、棘?」

『取れそう?』

「うー……。いたた」


 無理か。力も足りないし、利き手じゃない左手の指先では取れないか。


 うーん。どうしようかな。

 ”いたいのいたいのとんでけー”という願い事は多分、ありだと思う。

 ただ、このオールマイティすぎる最強の願い事は今、使うべきじゃないと思う。

 ”棘が抜けろ”ではどうだろうか。

 うん、やってみよう。


『ねえ、ルシィ』

「うん?」

『”棘が抜けろ”って願ってみようか』

「……いい」

『え?』

「我慢できるもん」


 出たよ、この強情っぷり。

 君はなんだね。天使かなにかかね。


『でも、もしばい菌が入ったら……』

「いいの! 我慢できるったら我慢できるの!」


 あれ? 予想以上の苛立ちようなんですけど。


「こっちでいいよね」

『あ、うん』


 先に続く小川に沿って、また歩き出す。


「……」

『……』


 ちょっぴり気まずい、変な空気の中。

 過干渉を嫌うというやつなんでしょうか。

 俺はルシィにどう向き合えばいいのかな……。


「おなかすいた……」

『卵、割れてないよね』

「うん……」


 良かった、卵がいくつか落ちてきて、本当によかった。

 また1個だけ卵を食べて、少し休憩。


「なんか、疲れちゃった……」


 そりゃそうだよ。

 毎日の登下校、30分くらいがこれまで経験した最大の移動時間。

 それをはるかに超える時間を歩いてるもんね。


『ゆっくり休もうか』

「うん……」


 川の水を飲んで、岩の上に腰掛けて、足を伸ばしたり、縮めたり、ゆっくりお休み。


「ねえ、えんぴつさん」

『うん?』

「さっきはごめんね」

『いいよ、俺もなんかごめんね。ルシィの気持ちを考えてあげられなくて』

「ううん、ありがとね」


 仲直り、できたのかな。


 それにしても参ったなあ。一体ここはどこなんだろう。

 さっきの祠に留まるべきだったのかなあ。

 失敗しちゃったのかな……。


 と思っていたら、遠くに声が聞こえてきた。


「おおーい!」「おおーい! ルシィー!」

「あ……」


 大人たちの声だ……。


「声が聴こえるよ」

『うん、こっちも声を出して』

「うん! おーい! こっちだよー!」

「ルシィ! ルシィの声が聞こえたぞ!」

「笛だ! 笛を吹くんだ!」


 森の中に響き渡る、甲高い笛の音。

 よかった、助かった……。

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