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017 命をつなぐお願い

 俺は考えたんだ。

 この能力は癖、というかルールがある。

 まずルシィに関わる願い事であること。

 ルシィの目の届く範囲であること。

 ゼロから1を生み出すような願い事は可能だけど、多少なり現実的であること。


 枯れそうな花を咲かす、もうすぐ咲きそうな花を咲かせることはできる。

 ただし何もない砂漠に花を咲かせるのは多分、無理だ。

 花が咲きそうな土壌、咲きそうっていう現実的な状況が必要。

 例えば火のない所に煙を立てることもできるんだ。

 ただし、燃えやすい枯れ木があるとか、火が起きた後に維持できる状況が必要。


 だから、例えばここに熱々のコーンスープとシュガーバターをたっぷり塗ったパンを出してって願っても、それは叶わない。

 カップや皿を用意して、パンをカットして……やらなきゃいけない事が多すぎるから。

 あくまでも、単一の願い事じゃないといけないんだ。


 そして同じ願い事は二度はダメ……。

 そう考えると、結構厳しいな、この能力。神様イケズ過ぎぃ!


「ハムエッグが食べたい……」

『うん……』


 あ、卵だ。卵があるかもしれない。


『生卵は食べられる?』

「えっ。うーん……どうだろ」

『用意できるかも』

「ほんと?」

『たぶんね……』


 ここは森の中だ。鳥の巣がある。

 しかも春だ。繁殖期の鳥がいるかもしれない。

 鳥の巣には、卵があってもおかしくない。


『ルシィ、上を見て。”巣から卵が落ちてきて”。願い事はこれでどうかな?』

「……うん。分かった」


 頼むぞ……。この子の命を繋ぐ、貴重な願いなんだ……。


 ――鳥の巣から、生卵が落ちてこい


 ……カードが光った!っと同時に何かが落ちてくる、すごい音。


「きゃっ!」

『ひえっ』


 首をすくめるルシィ。ビビる鉛筆。

 音がした方を恐る恐る探すと……。ルシィの手と同じくらいの大きさの卵が。


「卵だ……」

『やりぃ!』

「食べられるの?」

『うん。大丈夫。”生卵”って指定したから』

「……?」


 まあ、理由はあとで分かると思う。

 ルシィがそっと卵を拾い上げた。

 よかった、卵が4つもある。よく割れなかったな。落ち葉がクッションになったのかな?

 とりあえず、これでしばらく生きながらえる。


「うう、生卵かあ」


 世界的に見て、生卵を食べる習慣ってあんまりないらしいよね。


『でも、食べなくちゃ』

「うん……」


 卵を石にそっと叩いて、ヒビを入れて……。


『中身を落とさないように気をつけてね』

「うん」


 丁寧に殻を剥いて……。

 元気になってからお母さんの料理の手伝いをするようになったのが幸いした。

 卵をむくお手伝い、やったことあったものね。

 ちょっとだけ穴の開いた卵の殻をじっと睨むルシィ。

 食べるかなあ。


「あーん」


 おう。躊躇せずに、一気にいった。


「……むにゅむにゅ……ゴクリッ」

『どう?』

「……」

『ダメだったら吐いた方がいいよ』

「……うん」


 ぱっと弾ける笑顔。


「……美味しい! なにこれ! すっごく美味しい!」


 よかった。食べてくれた。


 生卵の栄養価は、それ一つの食べ物としては恐らく最強レベルだ。

 もちろん食べすぎや偏食は危険だし、体質にもよるけど、1日1個だけなら全く問題にならない。というよりむしろ推奨できる。


「もう1個食べてもいい?」

『だーめ』

「えー」

『残った卵はさ、お母さんとお兄ちゃんにもあげようよ』

「あ、それいいね!」


 よし。ルシィに元気も出てきたし、太陽も上っている。

 この小川沿いに、流れが下っていく方向に向かおう。きっとバミィ川に出るはずだ。


「こっち?」

『そう、小川沿いに歩くんだよ』

「うん!」


 賭けだけど、もう行くしかない。

 と、思ったら……。あれ?


「ねえ、えんぴつさん」

『うん?」

「あれ、なんだろう」

『……うん。なんだろうね』


 さっきまでいた妖精の祠が、少し青白く光っている。


「大丈夫かな」

『分かんない……』


 ああ、やっぱり止めればよかったかも。

 自然と、ルシィは再び妖精の祠の前に立っていた。

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