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016 足元の星空

「ぐるる……」


 ああ、やっぱり。

 獣道があったってことは、森の住人がいるってこと。

 しかもとびきり危険な……。


 どうすればいいんだろう……!

 寝ているルシィを起こしても、逃げられる相手じゃないのは確実だ。


 俺の能力でどうにかなるのか?

 どんな願い事を書けば撃退できるんだ!?


 考えろ、考えろ、考えろ!

 ヒィ! 駄目だ! 全然考えがまとまらない! っていうか思いつきもしない!

 パニック! パニックですよお!


『ルシィ、起きて! 起きるんだ!』

「すうすう……」


 駄目だこれ! 起きる気配がない!

 ああ!

 獣です! 獣が見えてまいりました!

 完全に獣であります! 狼と思われますッ!


 口元から鋭い牙が見えておりますッ!

 寝ているルシィをガン見しておりますッ!


『ルシィは痩せているからそんなに肉はついていないよ! 美味しくないよ!』


 と激しく主張してみますッ!

 あ、全然聞こえていないようでありますッ!

 お腹がすいてるなら俺を先に食え! 鉛筆だけどな!

 ああ、匂いを嗅ごうとするなッ!


『離れろー! 俺のルシィに近づくんじゃねー!!』


 ……!

 ……。

 ……あれ? ……寝ちゃってるんですけど、この狼的な獣。

 ぴったりとルシィに体を押し付けるように……。


 ガサッという音にまた俺はギクッ。

 またなんか来るの? もう涙目なんですけど。

 あ、今度は尻尾が体よりも長いもっふもふのリスみたいな小動物が出てきた。

 待って待って。あなたの天敵っぽい先客がいますけど。

 ……うん。何一つ躊躇することなくルシィの首元で丸くなったね。


 立て続けにカサカサ、という音。

 今度はなんだよ。……おや、うさぎ? その横にはイタチ? 狸っぽいものまで……。

 続々と現れる野生動物。そして次々とルシィの周りに集まって、その身を寄せていく。

 いつの間にか、祠の入り口にフクロウっぽい猛禽類がまるで辺りを監視するようにいるし。

 なんだこの動物園状態。


 でもまあ、ルシィはとても温かいと思う、これ。

 ああ、助かった……。これで寒い思いをしなくて済みそうだ。


 俺もなんかドッと疲れて眠い感覚が……。


 *

 *

 *


 夢を見た。


 鉛筆に転生してから、寝るっていう感覚がなかったんだ。

 ぼーっとして無意識になることはあったけど。

 なんて言うのかな”あ、これって夢だよね”っていう感覚は本当に久しぶりだった。


「おはよ、えんぴつさん」

『あ、おはよう』

「えへへ」


 なんだかご機嫌ですね、ルシィさん。

 そんな薄ら寒そうなワンピースで平気なんですか。


「あのね、あたしには夢があるの」

『へえ。なんだい?』

「ほら、見て」

『おお』


 ふと周りを見渡せば星空が広がっている。

 360度?

 いやいや、足元まで星空だ。

 全天球ってやつだ。


 銀河、星団、彗星、遠くに太陽。

 地球は見当たらないなあ。


『キレイだね』

「でしょでしょ」


 ニコニコって笑うルシィはいつも以上に、なんか可愛いな。


『それで? 夢って?』

「えっとねえ」


 もったいぶるように上目遣いのルシィ。

 おいおい。どこでそんなキュートな高等テクを覚えたんだ?


「あたしの夢はね……」

『うん』

「……えんぴつさんのお嫁さんになること!」

『ほほー。そりゃあ嬉しいね』

「えへへ!」

『でもさあ、ひとついい?』

「なに?」

『鉛筆と人間が結婚ってのは無理じゃないか?』

「えー」


 いや、可愛く頬を膨らませるのはいいんだけど、常識で考えようよ。

 ルシィには素敵な男性がきっと……。


 *

 *

 *


「うう……おひゃよ……、えんぴつしゃん……」

『ああ、おはよう』


 いつの間にか朝になっていた。

 マズイな。今日は月曜じゃないか? 学校があるじゃん。


「おなか空いた……」

『ですよね……』


 昨日の昼から何も食べてないもんなあ。


「なんか臭い……」

『うん、まあ詳しいことは後で話すよ。今はとりあえず小川で顔を洗おう』

「うん」


 顔を洗って、また少し水分を補給して……。


「どうしよっか。まだ待ってみる?」


 ちょっと危ない賭けだけど、この小川の下る方向に沿って、歩かせてみる?

 この小川は、バミィ川に繋がっていると信じるかい?

 ……でもなあ。女の子の体力を考えると、アテもなく移動するのも……。


『うーん。とりあえず火を起こそう。あと、食べ物が用意できないか、試してみよう』

「……分かった」


 今度は意外と素直だね。

 俺の思いが通じてくれているといいんだけど。


 ――火よ、付け


 ……あれ。何も起きない。


「??」

『……あー! だめじゃん!』

「え!?」

『同じ願い事は叶わないんだ!』

「あー……」


 失敗したなあ。必死すぎて、完全に失念していた。


「仕方ないね」

『うん。ごめん』

「いいよいいよー」


 くぅ、と空腹を訴える可愛い音。

 とりあえずお腹を満たす方法を考えよう。

 この願い事が叶う能力で。

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