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人外領主の自由なLife  作者: 紙片
第1章 勇者と勇者
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第4話 激突

 「開・門せよ!」

 ネネの地鳴りの様な低く重みのある声を合図に巨大な門がゆっくりと開き始める。通常時は正門横の通行門より出入りする為余程の大型種の来訪や大規模な軍勢が通る事が無い限り開く事は無い。造られた当初は何も無い門だったが、シキの友人である複数の大型種が巧みな意匠を施してくれた。それ故に門が開く様子は幻想的であり又、独特の高潔さも感じ取れた。誰もひと言も発さぬままそれが開く様を見続けていた。


 「さて諸君、敵は目の前数にして3千名加えて今代の勇者までおり今までに無い戦力で来ている。しかし、それがどうした?高々3千の兵など諸君にとっては物足りないくらいだろう。勇者もまだ若く力は確かに強力だがそれだけだ。何も恐れる必要など無い!諸君らには私が付いている!大儀は我等にあり!ゆくぞ!!進撃開始!!!」

 「「「おおおおおおーーーーー!!!!!」」」

 総勢5百名の軍勢が雄たけびと共に戦場へと向かって行った。


 



シキ率いる軍勢が正門を出て、防御壁から離れた所それを見計らったように聖王国側から魔術の嵐が飛んで来る。

 「魔術部隊攻撃開始!」


 統率された火の、水の、土の、風の自然を司る魔術をそれぞれの効果を打ち消さないよう計算しシキの軍勢に浴びせ掛ける。それも複数の魔術師が協力し合成し混合された特大クラスの非常に強力な物となり放たれる。勿論その中には勇者の放った純粋に魔力を込めただけの魔法も含まれている。側から見るそれは暴力的な美しさを見せており、しかし明らかに有利な側が行う攻撃としては過剰なものであった。


 「や、やったか!」

 魔術に魔法の連撃が収まった頃、騎士の誰かが声に出す。

 辺りは土煙に覆われており、攻撃の音と衝撃で予め保護魔術を掛けていない者は感覚が狂っていた。


 「どうなっている!?確認報告急げ!!」

 騎士の頭に装備された魔道具が音を擦れさせながらも隊長らの声を流す。思いのほか攻撃による余波が大きかったのか軽傷者だけでなく、吹き飛ばされ重量のある騎士同士がぶつかり合い重傷者まで出していた。

 聖王国にとって特別な意味を持つ都市ディファレア侵攻作戦、長年の経験あるベテラン騎士までもが戦場独特の緊張や高揚感に包まれており場はとても雑然としている。


 「慌てるでない!お前達まで新人みたいな動きでどうする!まずは落ち着き情報の整理が出来次第司令部に届けよ!!」

 大司教の喝が入り漸く一定の騎士は落ち着きを取り戻し始める。現場はまだ混乱してはいるものの、状況判断が出来る様になった者が隊を纏め始めた為何とかなってきていた。


 司令部には各隊の被害状況の報告と指示を仰ぐ者とで混雑し慌しさを見せ始めていた。次々と寄せられる怪我人に救護用テントも既にパンク寸前まで溢れていた。


 「た、大変です!」

 偵察に出していた騎士の1人が司令部に駆け込んで来る。

 

 「何か分かったのか!?」

 「は、はい……。敵軍勢被害無し、今だ健在此方に真っ直ぐ攻めてきます!!。」

 内部に動揺が走る。シキの軍勢が防御壁を出た頃合を見計らっての魔術による奇襲作戦、全滅しても可笑しくは無いレベルの量だっただけにその衝撃は計り知れない。

 

 「何が起きたんだ!?何故敵の軍勢は無傷で……。」

 錯乱しかけた隊長を大司教が眠らせる。老いたとはいえ何の力も無く成れるほど大司教の地位は甘くは無い。かつては武闘派として恐れられたその力は健在だった。


 「先ずは、報告が先じゃ。見たこと収集できた事を伝えよ!」

 一時は騒然としかけた司令部だったが大司教の威光により静まる。


 「敵は1箇所に固まり特殊な魔道具を大量に使った陣を張っていました。さらに領主シキの力も合わさり我等の奇襲作戦は失敗に……終わりました。」

 意気消沈とした様子で報告する騎士悲壮感漂う雰囲気に場は暗くなる。


「何を沈んでおる、情けない。敵の強大さは今に知った事ではなかろうて。それこそ過去幾多の教皇様が討滅出来ないでいた者をそう簡単に倒せる訳がないのは重々承知の上じゃ。お前らが今成すべき事はたった一度の作戦が失敗しただけで落ち込んでいる事なのかのう?あんなものただの挨拶代わりの攻撃でしかないわ!全部隊、騎士に伝えよ!我等が神の元敵を討ち滅ぼせと。ゆけい!!」

 大司教の命令と激が飛び司令部にいた面々は素早く行動に移ると共に今一度己らの信仰する神に祈りを捧げる。聖王国が信仰する神は唯一神ではなく、人を創り人を愛し人を導く各神々を崇め讃える多神教である。その為まず自らの信仰する神に、その後全ての神々に祈る様式を採用している。


 「各隊に通達!急ぎ陣形を整えよ!」

 「魔力にまだ余裕の有る者を集めよ!土系魔術で壁を造りこちらの陣を隠せ!」

 「はっ!壁に関しては既に勇者様のお力によって出来ております。騎兵隊も現在所定位置に向かっています。」

 「傷ついた物も姫巫女様と勇者様の治癒術で回復、前線に復帰しています。」

 通常の治癒術では傷は治せても体力までは回復出来ず又、重傷は治るまでに時間が掛るため直ぐには復帰出来ない。しかし、勇者が使う魔法は広範囲かつ、重傷者までも一瞬で回復させる事が出来る。姫巫女も勇者程の魔力は無いものの似たような術により回復させていた。勇者の無尽蔵と言っていいほどの魔力により溢れかえる位に居た怪我人もあっと言う間に戦場へと復帰して行った。


 「司令部へ!各隊配置に付きました!」

 「よし、合図が上がり次第作戦に移れ!」

 「はっ!」

 通信用魔道具を介して指示が伝えられる。作戦内容に関しては傍受される危険がある為予め全騎士に説明がなされていた。通信用魔道具を使えば少ない魔力で広く相手に情報を伝えられるものの敵にも漏れる危険があり、念話の精神系魔術は機密性は高いが距離と伝える人数により使う魔力が桁違いに跳ね上がる為基本少人数向けとなっていた。


 魔法で造られた壁の内側には勇者を先頭に重装騎士隊が展開敵を引き込み取り囲む様な形を採っていた。右側の密林にはスレイプニルに騎乗した重騎兵隊が敵の背後から奇襲を仕掛ける為に潜んでいる。通常の騎兵隊は訓練された軍馬を用いるが精鋭には特別に調教された魔獣スレイプニルが与えられる。このスレイプニルは魔獣と言う事もあり軍馬では機動力が落ちてしまう重装備でも軽々とした動きをし、尚且つスレイプニル自体も非常に強力な魔獣の為一騎当千の戦力を誇っていた。更に左手の丘陵には隠蔽魔術を施した魔術隊が敵へ打撃を与える為に気付かれない様に詠唱の準備に入っていた。

 このどの隊もが選りすぐりの精鋭でこれ程までに精鋭を集め大規模な作戦を展開出来るのは単に聖王国が大国の1つであり、人気を博しているからだろう。


 シキ率いる軍勢が作戦決行予定位置に差し掛かったとき突如として前線である重装騎士隊がざわつき始める。それは司令部から見ても明らかなほど隊列が乱れ動揺が広まっていた。すぐさま統括騎士長が状況を問いただそうと連絡を入れるがしかし、通信用魔道具は一向に繋がらない。

 「こちら司令部!第一騎士隊何があった?至急隊列を戻せ!!敵は直ぐそこまで来ているぞ!どうぞ。」

 「ザ……ザザ……ザザザザ。」


 全体に通信しても、隊長に個別に掛けてもまったく繋がる気配が無く耳障りなノイズが走るだけだった。統括騎士長は緊急用の念話を発動すると漸く隊長に繋がる。


 「どうした!?一体何が起こってるんだ!」

 「はっ!先程突然壁の一部が崩れ奇襲を受けました!!至急応援を求みます。どうぞ。」

 重装騎士隊からなる聖王国第一騎士隊、常に前線において敵の猛攻を受ける彼等は如何なる時も鉄壁の守護たれと言う訓を元にちょっとやそっとの事では乱さない様厳しい訓練をして来た。そんな彼らが敵のそれも数は少数の部隊に翻弄されていた。


 「詳しく説明しろ!状況が掴めない。どうぞ。」

 「現在、我々は砕鬼のネネの襲撃を受けています。勇者様が作戦位置に移動した時に襲撃を受けた為部隊はかなりの被害を被っています!このままでは壊滅してしまいます。至急おうえ……。」

 「おい!どうした!大丈夫か!?応答せよ!どうぞ。」

 念話の相手である隊長が気を失うか死亡したのかして通信が切れる。統括騎士長が勇者を直ぐに戻るよう指示を出そうとするが、大司教がそれを制する。

 

 「待たれよ、今勇者様を戻せば作戦は決行不可全てが水の泡とかす。このまま作戦続行させよ!」

 非情な命令が大司教より放たれる。聖王を君主としそれよりも下の役職は聖王によって任命されるもので、聖王、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭、侍祭の順に位が高い。その中で統括騎士長の権限は司教クラスの下位に当てはまり自分よりも位が上の大司教それも枢機卿の椅子が用意されている実力者を前逆らえる者などいなかった。統括騎士長は苦渋の表情を浮かべながらも各隊に作戦続行を指示する。又、勇者本人にこの事を伝えれば戻る事は明白なので勇者には一切伝えずに作戦は進められた。


 しかし、作戦前に前線現在砕鬼のネネの襲撃を受けている場所から爆音と強い衝撃が響き渡る。何事かと司令部に居た面々は外の様子を確認する。そこにはネネを相手に戦闘を仕掛けている勇者の姿があった。騎士を守るように互いの武器と武器、拳をぶつけ合う姿は正しく勇者その者であった。勇者が現場を離れた事により時間が稼げずシキの軍勢が予定ポイントまで来てしまう。その為後方から奇襲を仕掛けるはずのスレイプニル重騎兵隊とシキの軍勢との距離が開いてしまい対応をされてしまう。


 「ええい!どうなっておる!?これでは作戦が全て台無しではないか。勇者はなぜあそこにおるのだ!騎兵隊の方はどうなっておる!?」

 「はっ!現在スレイプニル重騎兵隊は敵後方より突撃しかし足止め役の勇者が居ない為、敵の軍勢が先に進んでしまい距離が開いたため発見これに対応した陣をとられています。その為成果は今1つ、敵損害が確認できないまま前線へと向かってきます。」

 「統括騎士長!大変です!魔術部隊より報告。現在我々はザ・キラーの襲撃を受けている、応援求むとの事です!どうしますか?」

 「撤退せよと伝えろ!援軍は出せない。」

 もはや奇襲を仕掛けるどころか逆に奇襲を受けてしまい各隊が分断されている状況だった。肝心の重騎士隊はネネの襲撃により少なくない被害をだし勇者もネネに釘付けにされている。魔術部隊も相性の悪い接近戦タイプのザ・キラーが猛威を振るっている為当てには出来ない。一気に形勢が不利に傾き始めていた。

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