第24話 はじめて、とまどう。
あっというまの連休だった。
結局、あのあと。
すっかりトウゴの家に行きにくくなってしまい、初日だけの自宅訪問となってしまった。
あたしが行かないからといって、シロの世話をしないようなひとではないと分かっていたし、そこは信用していたので心配はしていなかったのだけれど。
どうにも、顔をあわせずらい。
「しずまれ、しずまれ」
いつものごとく、校舎裏。
プレハブ小屋の前で、胸をおさえてくり返す呼吸。
思い出すだけでもんどりうってしまっていた休日。
耳に、まだあの声が残っている。
いったい、どういうつもりであんなことをしたのかは知らないけれど。
悪ふざけにもほどがある。
あくまでも、彼は学校職員。
あたしは生徒。
シロの飼い主が彼。
拾ったのがあたし。
ただ、それだけ。
呪文のようにくり返した言葉は、残念ながらこの鼓動を静めてくれそうになかった。
会いたくない。
そう、思っているのは間違いないのに。
連休中、ずっとトウゴのことばかり考えてた。
あの部屋で受けた甘い毒は、あたしをめぐり続けたまま。
一向に終わりが、みえない。
気まずい。
会いたくない。
だけど、顔が見たい。
「た、たのもう!」
どこの道場破りなのか、自分でもわけのわからないあいさつだと思いながら扉を押した。
軋む音。
その向こう側の、薄暗くてきったない用務室。
「あれ?」
ペンキや木材のにおいがする部屋のなかには、ぬいぐるみのような猫が一匹。
あとは、だれもいなかった。
「シロ、おはよう」
手を伸ばせば、鈴の音。
かけよってくるシロの首には、これまでなかった赤い首輪がついていた。
抱き上げれば、銀の鈴が鳴り響く。
飼い主のいない、小屋で。
緊張感が風船のように抜けていく。
残念だなんて思っている自分は、ほんとうにどうかしている。
「シロを置いてどこにいったんだろうね。ひどい飼い主もいたもんだわ」
ちいさなカラダを抱きしめたまま、つぶやく。
その言葉は、ぽっかりと穴のあいた胸を満たしてはくれなかった。
結局、予鈴が鳴り響いてもトウゴは戻ってこなくて。
作ったお弁当を作業台において、教室へと向かった。