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第22話 はじめて、おじゃまする。―うとうと?





「ハラへった。メシ」


 重なるようにして鳴くシロの声。

 拷問のようなドライヤーが終わって、シロのブラッシングをしようとした矢先のヒトコト。


 もう逆らう気にもなれず、ブラシを持つ手を引っ込めてキッチンへ向かった。





 作ったのはスパゲティとコンソメスープにサラダ。


 めんを茹でて、いためた具材とあわせて、市販のソースにからめるという単純なモノ。


 サラダは切ったりちぎったりすればいいだけ。

 スープだって、お湯を沸かして固形コンソメを入れた料理とはいえないようなメニュー。


「はい、どうぞ。苦情は受け付けないから。シロはこっちにおいで」


 さっさとテーブルに運んで、次はシロの食事の準備。

 というか、あたしにとってはこっちがメイン。


 台所の端に用意されていたエサ皿に軽くフードを流していれば。

 テレビもつけず、音楽も流さず、そして文句もいわずに料理をかき込む姿が見えた。


 どうせ、大したものじゃないし。

 きっとこんなの料理じゃないっていわれるだけだろうと思っていた。


 なのに。

 あんなにがつがつ食べてもらえると、ちょっと、かなりうれしい。


「ねえ、おいしい?」


 ちいさなカラダのくせによく食べる子猫に向けて、声を発した。

 でも本当は、テーブルにいるあの背中に向かって問いかけた。


 両方とも返事がないことくらい分かっていた。

 けれど。


「ああ」


 なぜか、もう一方から愛想のない返事。


 あんたにいったわけじゃない。

 そういってやろうと、思ったのに。


 満たされていくものにめまいがして、声がでなかった。






 食事を終えた皿を片付けようと、テーブルに手をかける。

 いつのまにか、ひざで丸くなっていたシロから軽い寝息がもれていた。


「シロ?」


 満腹になったためか、このやわらかい日差しのためか。

 指でつついても、ちっとも目をひらかない。


 起こしてしまうのはあまりにもかわいそうで。

 それに、寝顔がかわいくてしかたなかった。


「トウゴ、お皿洗ってきて。シロが寝ちゃったから立てないの」

「あー? んなもん、後ででいいだろ」

「だめ。せめて水につけておいてよ。汚れ落ちなくなるでしょ。それくらいやって」


 テーブルに片ひじをついて新聞を広げていたトウゴに、お皿を突き出す。

 しぶしぶといった様子で立ち上がった彼は、自分の食器とまとめてキッチンに運んでいった。


 水が流れる音を聞いて安心していれば、襲いくる眠気。

 ひざ上のぬくもりがいとおしくて、まぶたがおちていく。


 うとうととまどろんでいると、ふいに水音が消えた。

 足音が、聞こえる。


 近づく音に反応できなくて、ぼんやりとしたまま首だけを動かした。


「ト、ウゴ?」


 いつのまにか目の前に立っていたトウゴは、あたしのひざからシロを抱き上げた。

 いったいなにをするつもりなのかと思って、目をこする。


「交代」


 ひざの上に、重み。

 そして熱。


 眠気なんて一瞬で吹き飛んで、驚きのあまり声も出なかった。


 しっかりとシロを抱きしめた彼は、真っ赤な顔をしているだろうあたしに手をのばしてきた。

 毛先をつままれて、軽くひっぱられる。


「おやすみ」


 指先をはなされて、はらはらと舞う髪。

 まるで魔法にかかったみたいに、うごけない。


 これは命令じゃないのに。

 だから、この頭をたたいて逃げてもいいのに。


 ふせられていくまぶた。

 いままで、聞いたこともないようなかすれた声。


 耳から流し込まれた甘い毒は、あたしのなかで音を立ててめぐる。


 わずかにあいていた窓の外から、花のにおいがした。

 花は空を染めて、この胸をもあざやかに染めていった。






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