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第18話 はじめて、むきあう。




「明日から連休に入るわけだが、羽目を外すなよ。来週、元気な姿をここで俺に見せてくれ」


 そんな締めのあいさつで、クラスは解散となった。





「じゃあね、りこ」

「うん」


 ロングホームルームのあと。

 全員で掃除を済ませてしまったために、今日は散るのが早い。

 一瞬にして教室がカラになる。


 教壇にいる担任に、さっきのことを抗議しようと進み出れば。

 先に名前を呼ばれて、手招きされた。


「なんですか。というか、あたし委員会の件、納得してないんですけど」

「そうカッカするなって。実は柏木に頼まれてたんだよ。お前を緑化委員に任命してくれってな」

「は?」


 なんでそこでトウゴの名前が出てくるのか。


 予想外のことに、あいた口がふさがらない。

 そんなあたしの様子を見て、先生はてのひらをあたまにのせてきた。


「緑化委員を実質取り仕切っているのは柏木なんだ。それにあいつは元教え子でな。俺に頼みごとなんてめったにしないもんだから、強引な手を使わせてもらった。すまん」


 まるで子どもをあやすかのように、軽くたたかれる。

 それでもふくれっつらを解かずにいれば、大きな声で笑われた。


 豪快な笑い声が耳にひびく。

 なのに、不思議と腹はたたない。


 それは、きっと。

 先生のまなざしが、ひどくやさしいものだったから。


「聞いたぞ、用務室で猫飼ってるんだってな。バレないようにしろよ」


 髪をなでていく大きな手。

 片目を閉じて合図を送ってきた先生に反応することができなかった。


 ふつうに考えて、この場面は怒られるのが当然。

 なのに、この先生は楽しんでいるように見える。


 先生なんてイキモノは、マニュアルにのっとった対応をするものだと思っていたのに。


「学校に来ても、すぐ姿を見せなくなるお前を、俺はどうしてやることもできなかった」


 やさしいまなざしは、その音に揺れる。


 目は口ほどにものをいうと、だれかがいっていたけれど。

 いまたしかに、先生の目はココロの底から謝っているのだとわかった。

 

 言葉よりも、もっと。

 まっすぐに。


 あたしがここに来なかったのは、先生のせいじゃないのに。


「だけどな、俺はお前の手助けをしたかった。これだけは信じてくれよ」


 ここに来なければ。


 こうやって、向き合っていなければ。

 その想いを知ることはできなかった。


 触れて。

 視線を合わせて。

 

 想いを知る。


 ただ、通り過ぎてきたもの。

 モノクロセカイで耳をふさいでいたあたし。


「柏木はいい奴だろう? 口は悪いけどな」


 だれもいない教室。


 窓の外。

 落ちていく夕日は、赤。


 ずっとこの場所であたしを待っていてくれた先生。


 あのときも。

 こうして、だれかと向き合っていたのなら。


 入院していたあのベッドに、だれかが来てくれていたのかもしれない。


「勝見先生」

「なんだ?」


 離れていく手。


 赤い顔。

 その目にうつる自分。


「委員会、やりますから。よろしくお願いします。それと」


 あのとき。

 背中を押してくれた、あのひと。


 この夕焼けの色は。


 トウゴがいなければ、しらないままだった。



「あの口の悪さを、本当になんとかしてください」



 気持ちとはうらはらに飛び出した言葉。

 やっぱりそうカンタンに、素直になんてなれない。


 赤く暮れていく教室。

 先生の豪快な笑い声が、響いた。







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