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第11話 はじめて、あんしんする。





「お前、バカだろ」



 聞き慣れてきたセリフは、あっさりと無視することができた。







 ホームルームの終わりを告げる鐘が鳴って、教室を出た瞬間に廊下を走りぬけた。

 人目を気にする余裕なんて、いっさい持ち合わせていなかった。


 とにかくあの視線のいばらから抜け出したくて。

 いますぐあのやわらかいカラダに触れたくて。


 それだけで、このきたないプレハブ小屋まで走ってきた。


「シロシロシロー」


 休み時間は十分。

 移動時間約二分。

 戻り時間を差し引いて、残りわずか六分。


 抱き上げて、なでまわして、息をつく。

 さっきまでのふるえと痛みはなんのその。


 急速回復した自分がゲンキンすぎて笑える。


「あたしがいなくてさみしかったでしょう? ごめんね」


 自分でも気味の悪いセリフだったけれど、こうでもいわないとやってられない。


「寂しいわけねえだろ、まだ三十分もたってねえのに」

「だれも、あんたになんて言ってないでしょ」


 作業台でなにかを書いているらしい男から、すかさず突っ込みが入った。

 その言葉に、あたしもすぐに応戦する。


 でも。


 すごく、かなり。

 いや、とてもつもなく不本意だけど。


 いまはこのいやみな言葉でさえ、安心する材料になっているのは事実。


「あー、もーやだ。なんかもうすごいモノみたいな目で見られるし」

「自業自得だろうが」

「昨日、うっかり廊下でぶつかった子はいるし」

「それはよかったじゃねえか」


 シロにこぼしていたグチが次々に拾い上げられていく。

 けれど最後の言葉の意味がわからなくて、確認するように柏木を見た。


 よかった?

 なにが?


 点呼が終わった後、笑いかけてきたあの子が怖くてしかたなかったのに?


 目の前に自分を突き飛ばした人間がいて。

 しかもそれが、いつもいない行方不明のクラスメイトで。


 そんなの絶対、いい印象を持つわけがない。


「なにがいいのかわかんないんですけど」

「お前は、救いようのないバカだな」


 昨日からいったい何度この男にバカ呼ばわりされればいいのか。

 いいかげん慣れてきたけれど、腹が立つのには変わりない。


 とくに、そのため息が。


「次の時間、あやまってこい」


 柏木の手が止まった。

 そのきったない指が持ち上がって、あたしに向けられる。


「きっと、いいことあるぜ。だから、さっさと行ってこい」


 またあの命令口調。

 指先はあたしから用務室のドアへ移動していた。


 時計の針は、残り二分。


 行きたくない。

 立ち上がりたくない。


 このままここにいて、ぼんやりしながらモノクロの空をながめていたい。


 

 だけど、これはいっしょにいるための条件。



「シロ、またすぐ来るからね」



 やわらかい毛に指先をうずめて。

 ごろごろと鳴るノドに名残惜しさを覚えつつ、重い腰をあげた。






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