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にせ者王女の政略結婚  作者: 夢想花
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多額の報酬

 部屋へ戻ると一騒ぎ起きていた、ウエディングドレスがないと言うのだ。ブリジットがウエディングドレスをどんな梱包にしたか知らないかと聞くがそんな事知るわけがない。

 もし、ウエディングドレスが見つからなかったら結婚式はひどい恥さらしになってしまう。結婚式を延期するわけにはいかないし、わずか三日ではドレスを作るのは無理だ。だったら普通のドレスを来て結婚式に出るしかない。私はラルリア王女なのだ。国中のテレビが実況するだろう、そんな中を普通のドレスで結婚式をやらないといけない。


 エメルダは居間の椅子に座って途方に暮れていた。侍女やロボット達が総出でウエディングドレスを探している。

 騒ぎを聞きつけたのか、ランダスが部屋に入って来た。

「ウエディングドレスがないのか?」

 ランダスはひと事のような口調で聞く、エメルダはランダスを見上げると軽く頷いた。

「そもそもドレスは作ったのか?」

 ランダスが聞く。それもあり得る。ラルリア王女は結婚する事をあれほど嫌がっていたのだからドレスなど作っていないかもしれない。

「知りません」

 エメルダはぽつんと答えた。

「知らない事はないだろう、仮縫いなどをするから作ったかどうかはわかるだろう」

 ランダスが奇妙な事を聞く、エメルダは不思議に思ってランダスを見上げた。

「私、ラルリア王女じゃありません」

 ランダスがしまったと言うように小さな声を上げた。

「すまん、うっかりした。つい、君がラルリアだと勘違いした」

 それから、ランダスは向かいの椅子に座った。

「心のどこかで君がラルリアならいいのにと思っているからかな… だから、間違えたんだ」

 ランダスはその大柄なからだに似合わない愛おしそうな目でエメルダを見つめている。

 しかし、エメルダはランダスの今の言葉にショックを受けてしまった。今ここに座っているのが私ではなくラルリア王女だったらどんなにか良かったのに、とランダスが思うのは当然の事だと思った。本来なら今ここにはラルリア王女が座っているはずだったのだ。だから、つい私のことをラルリア王女と間違えてしまった。にせ者が嫁いでくるなんて、ランダスの身になってみればなんとひどい事だろう。あり得ないくらいひどい事だったに違いない。

「すみません……」

 エメルダは小さな声で謝った。

「今、言ったのは本当の気持ちだ。このままいつまでも君がラルリアでいて欲しいと思っている」

 ランダスはエメルダが勘違いしていることに気が付かず、エメルダの手を握った。

「四日後には君と結婚式を上げるが、俺は君と本当に結婚するつもりだ」

 ランダスは真剣な目でエメルダを見つめている。しかし、エメルダにはランダスの言う意味がわからなかった。

「申し訳ありません。にせ者と式を上げるなんて… なんとお詫びしていいかわかりません」

 ランダスはじっとエメルダを見つめていた。エメルダの言葉の意味がわからずしばらく考えていたが、やがて握っていたエメルダの手を離した。

「ところで、キーカードをもらったか?」

 話がうまく通じてないと思ったのか、ランダスは話題を変えた。

「ええ…」

「預金口座も作ってもらったか?」

「はい?」

「では、セラニルカニアの監督官にメールを送るのだ、収入を君の口座に振込めとな」

「セラニルカニア?」

 ランダスが急に何を言い出したのかわからない。

「君の領地の地名だ。君の領地からの収入を君の口座に振込ませればいい」

 エメルダは息を飲んだ。

「私の領地じゃありません」

「君の領地さ、ラルリア王女は君だ」

「違います。それに、そんなメールを送っても監督官が言うことを聞くとは思えません」

「もちろん、メールには電子署名を付ける、君のキーカードを使ってな。正真正銘のラルリア王女の署名だ。完全な本物の命令書になる、だから監督官は言う通りにするしかない」

「しかし……」

 エメルダは目を白黒させたまま、返す言葉を思いつかない。たしかにキーカードは私が持っているのだからあのカードを使って署名すれば本物の署名ができてしまう。

「でも、でも、やっぱり監督官が疑うでしょう」

「疑うはずはないさ、君がここにいるんだから領地からの収入をここへ送れと言うのは当然のことだ」

「でも、しかし…」

 どう考えてもうまく行くはずがないように思える。

「本物のラルリア王女が監督官に説明したら」

 エメルダがこう指摘するとランダスは上を見上げた。

「まあ、そうだな。この計画の欠点はそこだ。本物が動いて事情を説明し送金を止めさせたら、それはどうにもならない。だから、それまでに送金されてきたお金が君のこの任務の報酬になる」

 なるほど、それなら頷けないこともない。それに送金されたお金で思い出した。

「あの、私の銀行口座にすごい大金があるんですよ、ものすごい金額です」

 エメルダは面白そうに話しだした。

「大金、なぜだ?」

「たぶん、ニレタリアの事務官がラルリア王女の口座のお金をこちらの口座に移したんだと思います。事務官ですら私がラルリア王女だと思っているんです」

 珍しくランダスが驚いた顔をしている。

「金を振り込んで来たというのか?」

 ランダスが腕を組んだ。

「それはあり得んだろう、事務官だけで預金の移動はできん。本人の決済が絶対に必要だ。しかし、本人は嫁がない事を知っているのだから決済するはずがない」

「はあ…」

 エメルダはそう言う事務手続きに関することには疎かった。

「いくらあるんだ?」

「二兆四千億ダルです」

「二兆!!」

 ランダスが口笛を吹いた。

「すごい金額だな、それが本当ならラルリア王女の預金だろうな」

「でも、これは間違いなんです。だからすぐに元に戻されてしまうと思います」

「なぜ?」

 ランダスが不思議そうな顔をしてエメルダを見る。

「だって、まちがいなんですから、いつかは訂正されるはずです」

「しかし、今すでにそのお金は君の口座にあるのだろう、だったら、そのお金をどこかに移動させるには絶対に君の決済が必要だ。君はそんな決済をするつもりかね?」

「はあ……」

 そんな風に追求されるとエメルダは答えようがなかった。こんな場合、事務手続きがどう行われるのかなんて知るわけがない。ランダスは天井を見上げて考えている。

「たぶん、君を身代わりに送り込むことはドサクサ的に決まったのだろう。だからラルリア王女がこの決済をした時には本人が嫁ぐ予定だったのだ。そしてその決済を取り消すのを忘れていたために送金されてしまった。まあ、そんなところだろう」

「じゃあ、このお金は……?」

 ランダスがニヤっと笑った。

「君のお金だ」

「でも、でも、返せと言ってきたら?」

「無視すればいい、まさか返すつもりじゃないだろうな」

「いえ、だって…」

 エメルダは自分がわからなくなってきた、もらっていてもいいような気もするが、しかし、金額が大きすぎる。

「半分くらいは、返すべきかも……」

 ランダスが大声を上げて笑った。

「底抜けのお人好しなんだな、まあ、君の金だ、好きにすればいい」

 そして彼は急に体を起こした。

「ところで、君は自分自身のキーカードは持っているのか?」

「ええ」

 エメルダは自分のキーカードも持って来ていた。

「だったら、自分の口座にかなりの金を移しておけ。もし、君がニセ者だという事が公になってしまったらラルリアとしての口座は使えなくなる。だから自分の口座に大金を振り込んでおくんだ」

「はい……」

「それにお金を宝石に変えておくんだ。いや、嫁入り道具の中にかなりの宝石がある。あれをすぐに持ち出せる所に準備しておけ」

「はい」

 急に緊張する話になってきた。たぶん、数カ月後くらいにそんな時が来るのだ。宝石を持って逃げなければならない時が、でも、たぶん、すぐに捕まってしまう。捕まったら、たぶん、殺される。

 エメルダは急激に不安になってきた。自分の将来がどうなるのかまったく見通せない。

「心配するな、俺が絶対に君を守る。逃げなきゃならんような事には絶対にしない。にせ者だとわかってしまっても、どこかで安全に生活できるようにしてやる」

 ランダスが頼もしい言葉をかけてくれる。

「はい」

 エメルダは本当に嬉しかった。ランダスだけが頼りなのだ。彼にすがって生きていくしかない。

「お願いします」

 エメルダの心からの叫びだった。


「ラルリアさま」

 突然、叫び声が聞こえた。ブリジットの声だ。

「見つかりました。ウエディングドレスです」

 両腕いっぱいに何かを抱えて、うれしそうにブリジットが走ってくる。そして、息を切らしながらエメルダの前まで走ってきた。

「これです、積み上げてあった箱の中に入っていました」

「よかった」

 エメルダは立ち上がった。これで一安心だ。

「これですよね」

 ブリジットが真っ白なドレスを広げて見せてくれる。

「ええ、これよ」

 もちろん、エメルダはこんなドレスなど見たことはなかったが当然の事のように頷いた。

「見つかって本当によかった。これで、恥さらしな結婚式にならなくてすむわ」

 必死の演技だったが、エメルダの正直な気持ちでもあった。

「着てみた方がいい」

 不意に後ろからランダスが声をかけた。

「えっ、なぜです?」

 ブリジットが振り向く。

「いや、いま話していたんだが、ラルリアはこの結婚を悩んでいてウエディングドレスどころではなかったらしい、だから仮縫いもまともにしていないそうだ」

「仮縫いせずにドレスを作ったんですか?」

「そうだ」

 ランダスが太い声で断言する。彼はドレスのサイズが合わない可能性を心配してくれているのだ。本人じゃないのだから合わない可能性は充分にある。

「そうね、すぐ着てみるわ」

 そう言われるとエメルダも心配になった。ドレスが入らなかったら元の黙阿弥だ。

「そうしましょう」

 ブリジットも賛成してくれる。ブリジットはドレスを広げて着替える準備を始めたが、急に顔を上げるとランダスを見た。

「このままここにおられるおつもりですか?」

「いや」

 ランダスはややバツが悪そうに答えるとくるりと振り向いて部屋を出て行った。



 ドレスは少しゆるい程度だった。メイドロボットが縫い直してくれると言う。

 エメルダは一人になると自分の寝室に入りパソコンに向かった。ランダスに忠告されたように自分の口座にお金を移しておいた方がいいと思ったからだ。たぶん、こんな生活がいつまでも続くはずがない、必ずにせ者だとバレてしまって逃げなければならない時が来る。ひょっとしたら一時間後にはそうなっているかもしれない。その時に自由になるお金があったらずいぶんと助かるはずだ。

 ラルリア王女の口座を開いたが、その金額を見るとどうしてもあっけに取られてしまう。あまりに非現実的な金額だった。ランダスが言う通りこの金額の半分を移すととんでもない金額になってしまう。エメルダにはとてもそんな金額を入力する勇気はなかった。

 エメルダはもっと妥当な金額、それでも一生かかっても絶対に手に入らないと思うくらいの金額を入力した。そして振込先に自分の口座番号を入力した。

 さあ、これで、この振込を実行すればこのお金が私の口座に振り込れてしまうのだ。しかし、どこか不正な事をしているような気がして指が震えてしまう。誰かがこの不正を見ているのではないかと思って思わず後ろを振り向いてしまった。

 ラルリア王女のキーカードを取り出すとまず指紋認証をする。認証は難なく通ってしまった。当たり前の事だがなぜか驚いてしまう。

 ドキドキしながら、そのカードで振込の認証をした。ピッと音がして何事もなかったかのように画面が変わる。

 エメルダはあわてて自分の口座を開いて見た。すごい、ものすごい残高になっている。振込が行われたのだ。エメルダはまじまじとその金額を眺めていた、これが私のお金になったのだ。でも、どうしても罪悪感を感じてしまう。ラルリア王女からお金を盗んでしまった。しかし、まあ、ランダスが言う通りこのお金はこの仕事の報酬だと考えればいい、こんな危険な仕事をするんだから当然の報酬だ。


 次は宝石だ。全部とは言わなくても数個くらいは手元に置いておいて持ち出せるようにしておいた方がいい。

 エメルダは寝室を出るとぶらりと歩き始めた。すぐにブリジットが後ろについてくる。

「ブリジット」

 エメルダはブリジットに声をかけた。

「嫁入り道具に宝石は含まれているの?」

 どうでもいいような口調で聞いた。

「はい、含まれております」

 ブリジットがすまして答える。

「見せて」

 横柄な口調で言った。

「はい、こちらです」

 ブリジットはエメルダの前に立って歩き始めると、ラルリア王女の寝室に入って行く。つまり宝石は私の寝室に置いてあるということだ。いわばこの寝室は私の部屋の中のさらに私の個人的な場所になっているらしい。

 ブリジットは綺麗な飾り机の前に立つと引き出しを開いた。それは浅くて横幅が広い引き出しだったが、その引き出し一面にずらりと宝石が並んでいる。

「すご〜い…」

 エメルダは思わずつぶやいてしまった。これだけ宝石があればすごい金額だろう。

「この机の引き出しには全部、宝石が収めれれたいます」

 そう言いながらブリジットは次々と引き出しを開けて見せてくれる。開けた引き出しには全てぎっしりと宝石が並んでいる。

 すごい数の宝石だ。これはたぶん、ラルリア王女が持っていた宝石が全部こちらに来ているのではないだろうか。つまり、嫁入り道具を荷造りした人たちは本物のラルリア王女が嫁ぐと思っていたのだ。だから、彼女の持ち物を全部荷造りしてしまったのだろう。だったら、たぶん、これも返せと言ってくるだろうがこれを返すのは難しい。こんな物をどうやってニレタリアまで送ればいいのだ。途中で盗まれたら大変だし、ブリジットはここに宝石がある事を知っているのだから、この宝石がなくなったら盗難に会ったと思って大騒ぎするだろう。

「ありがとう」

 エメルダは冷たく言った。

「少し、確認したいことがあるから席をはずして」

「承知しました」

 ブリジットが頭を下げると部屋を出て行く。ブリジットが部屋を出て行ってしまうとエメルダは宝石を手に取ってみた。巨大なダイヤモンドが並んだ首飾り、大量のダイヤが散りばめられたティアラ、いったいどれを持って逃げればいいのか見当もつかない。しかし、まあ、その時は何も考えずにどれかを掴んで逃げるしかない。

 エメルダは宝石を鷲掴みにする動作をやってみたが、あまりの非現実的な仕草に思わず笑い出してしまった。




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