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にせ者王女の政略結婚  作者: 夢想花
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ヌスランを返さなきゃ

 キーカードの件が終わるとエメルダはすぐに国王に会いに出かけた、ヌスランを返さないといけない。ブリジットが国王の部屋まで案内してくれる。

 国王の従者が部屋に通してくれたがさすがに緊張する。さっき食堂で平気で国王と会話していたのが嘘のようだ。あの時は親しくしないといけない状況だったのでそうしたが、なんと言っても国王だ、エメルダのような貧乏人にとっては雲の上の人だ。

「やあ、ラルリア」

 国王が奥の部屋から笑顔で出てきた。

「何か用かね?」

「はい」

 そう言いながらエメルダは軽く会釈した。

「じつは、さっきのヌスランの事なんですが、ヌスランが何かを知らなかったんです……」

 エメルダはすぐに要件を切り出したが、国王が口を挟んだ。

「そうだ、それはちょうどよかった。ちょうど君に相談しようと思っていたところなんだ。まあ、こっちに来なさい」

 国王はエメルダを誘うと奥の部屋に入って行く、エメルダは予想外の展開に戸惑いながらも国王について奥の部屋に入った。

「まあ、座んなさい」

 国王は大きなソファーにゆったりと座ると向かいの椅子を手で示す、エメルダは緊張しながらも向かいの椅子に座った。

「君たちは結婚したらヌスランに住むつもりかね?」

 国王があらたまった感じで聞く。

「はい… それは、そうらしいです、ランダスさまがそうおっしゃっていました」

「いや、君はどうするつもりなのかを聞きたいんだが?」

 国王は真面目な顔で聞く。つまり、私がランダスの意向に逆らう事があるとでも思っているのだろうか。

「いえ、それは… ランダスさまがそうおっしゃるんですから……」

 エメルダは自分がランダスの意向に従うのは当然の事だと思っていた。

「じゃあ、君には意見はないのかね?」

 しかし、国王はかなり厳しい口調で聞く、エメルダはちょっとあわててしまった。そう、私はラルリア王女なのだ、あのわがままで有名なラルリア王女なのだ。だからランダスが言う事がすべてだ、みたいないい方はまずいのかもしれない。

「いえ、私はどこに住んでもいいと思っていましたから、特に反対する必要もないと思って……」

 なんとか苦しい言い訳をした。

「王宮に住むのと、王宮から離れた場所に住むのでは意味がまったく違う。ランダスは次期国王だし、君は次期女王だ。だから権力の中枢である王宮に住むべきだと思うが、どう思うかね?」

「はあ……」

 なんと答えていいのかわからない、そんな王家の問題など考えたこともなかった。

「王宮に住むべきだとは思わないかね?」

 国王がもう一度かなり強い口調で聞く。

「はい…」

 エメルダは苦し紛れでそう答えてしまった。彼女に国王の言う事に反対する勇気などあるはすがなかった。

「そう思うかね?」

 今度は諭すような口調で聞く。

「はい」

 もう仕方なかった、そう答えるしかない。

「それはよかった。だったら君に頼みがある。ランダスをここに住むように説得してくれないか」

「説得! 私が……」

 エメルダは悲鳴のような声を出してしまった。それは絶対に無理だ、私はランダスにとってはただの家臣なのだ、いや奴隷と言ってもいい、同盟の話を壊さないためだけに必要な人間、ただのにせ者なのだ。私が偉そうな事を言ったらどうなるか、殴られるか鞭で打たれるかするだけだ。

「いえ、あの、その、説得など…… だって、ランダスさまはあのご気性です。私が何かを言ったら怒鳴りつけられて殴られるかもしれません……」

 エメルダはなんとか言い逃れようと必死だった。

「いやいや謙遜しなくていい。きのうランダスがあなたを怒鳴りつけた所をわしははっきりと見ておったのだ。この目でな。最初こそ驚いて泣きそうな顔になったが、どうしてどうして、怒鳴りつけるランダスを臆することなく立ち向かっておった。しかもランダスの方が言いまかされている風だった。そして、最後は、なんとあのランダスが笑顔であなたと歩きはじめおった。どう言ったのかは知らんがさすがはラルリア王女だと思ったぞ。噂では人を自分の思い通りに動かすのが非常に上手だと聞いておる。すばらしい才覚の持ち主じゃ。だから住まいの件をぜひお願いしたい」

 才覚などと、ラルリア王女のその噂は解釈がまったく間違っている。彼女は泣き叫んで暴れるから最後は誰もが妥協してしまう事を言っているのだ。

「ランダスはわしの言うことなどまったく聞かん、ヌスランには住むなと言っておるのだがまるで相手にしてくれん。何度言ってもだめだ。次期国王になるのだから政権の中枢にいなきゃだめだと言っておるのだが、あんな田舎に引込みおって」

 国王は残念そうに頷く。

「あのう… 私では無理かと…」

 エメルダはなんとかこのとんでもない任務を断りたかったが、国王は意に介しない。

「なに、ランダスが何を言おうとヌスランはあなたの物なのだから住む事を許可しないと言えばいい。それで決着だ」

「ヌスラン!!」

 エメルダは突然、本来の用件を思い出した。

「いえ、ヌスランはもらえません。ヌスランはランダスさまの家も同然の所です。これではランダスさまの家を横取りするみたいなものです」

「まさか、ヌスランはランダスの家などではない。かってに住み着きおっただけだ。泥棒猫みたいなものじゃ。だから、まったく気にする必要はない」

「そうは言っても私は困ります」

「ラルリアさん、よく考えて下さい。あなた方夫婦にはぜひ王宮に住んでいただきたい。それが次期国王になる人と次期女王になる人の責任というものだ」

「私には無理です」

「無理とは思わん。驚いたことにランダスはあなたに一目置いておる。あのランダスがじゃ。あなたはたいしたもんじゃよ」

「無理です」

 エメルダは最後の手段で泣きそうな声を出したが国王は手を振った。

「ところで、何かわしに相談があると言っておったがなんじゃね?」

「いえ……」

 もうこんな相談が無理だってことはわかりきっていた。



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