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にせ者王女の政略結婚  作者: 夢想花
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歓迎会


 ランダスが行ってしまうとブリジット達の前に取り残されてしまった。エメルダは命令されて動くことに慣れていたので、何も命令しないブリジットの前でじっと立っていた。

「あの、お掛けになりませんか?」

 何も言わないラルリア王女にブリジットの方が折れて声をかけた。

「はい」

 エメルダは従順に腰掛ける椅子を探した。部屋の中央にはおしゃれなテーブルと椅子が置いてあったが、エメルダはそんな椅子には見向きもせず手近の粗末な椅子に腰をおろした。

「あの… その椅子では……」

 ブリジットが驚いていたが、すぐに手を大きく叩いた。侍女付きがやって来る。

「そのテーブルをこちらへ、それとお茶とお菓子を」

 テーブルがエメルダの前に運ばれてきて、さらにお茶とお菓子が置かれた。エメルダはテーブルが運ばれてきて始めて座る椅子を間違えたことに気がついたがもう遅かった。

「慣れない所へお越しになり、さぞや大変だろうとお察しいたします。私、わがままには慣れております。どうぞなんなりとお申し付けください」

 ブリジットがラルリア王女の労をねぎらった。次はエメルダが何か言わなければならないのだが何と言ったらいいのか分からない。しかし、私はラルリア王女なのだ。だから低姿勢ではおかしいのだ。今みたいな失敗はもうできない。

「これから世話になるわ、よろしくね」

 なんとか高慢な感じで言う事ができた。

「お菓子はお気に召しませんか?」

 お菓子に手をつけない王女を見てブリジットが心配そうだ。

「いえ、大丈夫よ。ただ緊張していてお菓子にまで気が回らなかっただけ」

 王女らしく言うのは難しい。どうしても控えめな言い方になってしまう。お菓子と言われてエメルダはテーブルの上のお菓子をつまんでみた。なるほど上品な味だが、エメルダはもっと甘いお菓子を期待していた。

「申し訳ありません、すぐに別のを持ってまいります」

 エメルダの表情を読み取ったのかブリジットがあわてている。

「いえ、これでいいわ。おいしいわよ」

 エメルダはせっかくのお菓子を取り替えるなんてもったいないと思ったが、ブリジットは侍女付きに何やら緊急の命令を出している、侍女付きがすぐに別のお菓子を持ってきた。

 ブリジットがうやうやしくお菓子を取り替えた。

「いかがでしょうか?」

 侍女付きが持ち去っていくお菓子を物欲しそうに見つめながらエメルダは新しいお菓子をつまんでみた。なるほど、こんどのお菓子は十分に甘い。

「お気に召しましたか、よろしゅうございました」

 エメルダの喜んだ顔にブリジットは安堵している。

「お茶が冷えております。新しいのとお取り替えいたします」

 ブリジットがお茶のカップを持ち去ろうとする。

「いえ、猫舌だから冷えてるのがいいの」

 エメルダはあわててカップを抑えた。こうなんでもかんでも取り替えられてたまるか、もったいないではないか、と、エメルダは思った。

 エメルダはお茶を飲みながらお菓子を食べていたが、ブリジットがチラッと時計を見たのに気がついた。そう、五時に歓迎会ならそろそろ準備を始めないと間に合わないはずだ。ブリジットがあせっているのがわかったが、それでも彼女は何も言い出さない。ラルリア王女がわがままだと言う噂はここまで鳴り響いているのだろう。だからブリジットは私に話を切り出すタイミングを見計らっているのかもしれない。

「ブリジット、何か予定があるの?」

 思わぬ質問にブリジットがあわてている。

「はい、あのう…… おくつろぎのところ申し訳ないんですが、お風呂の準備ができております。そろそろ準備を始めませんと……」

 やっとブリジットが切り出した。

「わかったわ」

 エメルダは立ち上がった。

「お風呂はどこ?」


 風呂を終え、豪華なドレスに着替えると、ブリジットに案内されて歓迎会の会場に向かった。

 廊下を進んで行くとやがて大きな扉が見えてきた。綺麗に正装した男が二人、扉の両側に立っている。そしてエメルダが扉の所まで歩いてくると男たちがおもむろに扉を開いた。扉の向こうは歓迎会の会場になっているらしく大勢の人たちが立ち話などをしながら立っている。

 「ラルリア王女のおなり〜」

 いきなり大きな声が聞こえた。扉の向こうにいた従者が王女の到着を会場のみんなに知らせたのだ。当然、会場の全員が一斉にエメルダの方に振り向いた。さっきもそうだったが大勢の人に注目されるってどうしても馴れない。

 ブリジットが手の仕草でそのまま進むように指示してくれる。エメルダはブリジットの指示をありがたいと思いながらも指示されなくてもわかっていたような顔をしてそのまま進んだ。ブリジットがやや斜め後ろからついて来る。エメルダが会場の中央に向かって進むと、人々がうやうやしく頭を下げて道を譲ってくれる。

 しかし、エメルダは徐々に不安になって来た。このまま進んで行けば会場の反対側に着くだけだ。たぶん途中で何かをしなければいけないのだろうが何をすればいいのかまったくわからない。ブリジットに小声で尋ねてもブリジットはまさか王女が何も知らないとは思っていないらしく何も説明してくれない。王女なら普通にわかっている事なんだろうが貧乏な家庭で育ったエメルダにわかるわけがない。

 会場の中央にランダスがいるのを見つけた。助かったと思った。エメルダは夢中でランダスの所に向かった。もう、ランダスだけが頼りだった。ランダスの所にたどり着くと一息つけた。

「きれいだ」

 ランダスが褒めてくれる。しかし、エメルダはそれどころではなかった。

「これからどうなるの?」

「なに、普通の立食パーティーだ」

 ランダスは事もなげに言う。

「で、私はどうすればいいの?」

「気にするな、威張っていればいい」

 ランダスは気楽に答える。どうやら会場の中央に立っていればいいらしい。

 と、不意にランダスが歩き始めた。ともかく彼について行く、絶対に彼から離れられない。もし彼がトイレに向かっていたとしてもついて行くつもりだった。

 ランダスは一人の少年の肩を叩いて来いと合図すると、元の場所に戻ろうとしてエメルダとぶつかりそうになった。

「そこにいたのか… 紹介するよ、弟のムランシスだ」

 その少年はにっこりわらった。

「お会いできて光栄です」

「よろしくお願いします」

 エメルダはにっこり笑った。弟がいると言う話は聞いていた。

「ようこそ、アマルダへ。アマルダはいい所ですよ」

「ありがとう」

 感じのいい少年だった。

 それにランダスがなぜエメルダから離れたかも理解できた。弟の姿を見つけて彼をエメルダに紹介しようとしていただけなのだ。

 ふと、エメルダは周囲を見回した。ニレタリアで受けたわずかなトレーニングの情報の中にランダスの妹の話もあったからだ、彼女も周囲にいるのかもしれない。


 しかし、妹を見つける前に従者の大きな声が響いた、国王と王妃がお出でになったらしい。

 ランダスが急に真面目な顔になった。

「ついておいで」

 彼が腕を差し出す、エメルダはその腕をしっかりとつかんだ。この腕は死んでも離さない。

 人々が端によけて会場の正面が大きく開いた。その中を正面に向かって進み始める。正面にはひな壇があって国王夫妻がちょうどひな壇の上にやって来た所だった。ランダスについてそのひな壇を登る。エメルダは自分がこんな所にいるなんて信じられなかった。大勢の人に注目されながらランダスと一緒にひな壇の上に上がった。他にもさっきの少年ともう一人若い女性が登ってきた。どうやら、この台の上にいるのは国王とその家族らしい。

 国王夫妻が中央の大きな椅子に座ると、エメルダはランダスといっしょに国王の右側の椅子にすわった。ムランシスともう一人の女性は左側の椅子に座る。

 会場の全員がこちらを見ている。緊張するが、嬉しくなってしまう。この自分がこんな場所に座っているなんて偉くなったような気分だった。

 どうやら、今から祝宴が始まるらしい。さっきまで会場中央に立っていたのは国王夫妻がやって来るのを待っていただけなのだ。国王より先にこの椅子に座るわけにはいかないし、と言って国王より遅れて会場に入るわけにもいかない。

 国王が立ち上がってラルリア王女を紹介してくれた。エメルダも立ち上がって紹介が終わると丁寧に頭を下げた。会場のみんなが割れんばかりの拍手をしてくれる。にせ者とは言え、こんなに歓迎されるのは嬉しかった。


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