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にせ者王女の政略結婚  作者: 夢想花
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にせ者王女

遠い遠い未来に二つの国がありました。


一方の国には王子さま、もう一方の国には王女さまがいました。

王女さまはそれはそれは美しく心の優しい方、ではありませんでした。

王子さまは立派な方で心の優しい方、ではありませんでした。


あるとき王女さまは王子さまの元に嫁ぐことになりました。


しかし、王女さまはヒステリーを起こして嫁ぐ事を嫌がり、結局身代わりを送り込むことになりました。

そして身代わりに選ばれたのが、ただ顔が王女に瓜二つであること以外は何もない、貧乏な娘、エメルダでした。


ナイフを突きつけられ無理やり相手国に送り込まれたエメルダ、どうにもならないと思ったのですが、意外なことに王子が事情を知った上で助けてくれるのです。


こうやってにせ者王女の生活が始まります。


 宇宙船はゆっくりとアマルダ星に接近していた。前方にはたくさんの出迎えの宇宙船が浮かんでいる。

 エメルダは宇宙船の窓から出迎えの宇宙船を見つめていた。どれも超大型の宇宙戦艦だ。背後には美しく輝くアマルダ星が見えている。

「従艦はここまでです」

 ロボットが説明してくれる。

 エメルダを護衛してきた宇宙艦隊はここから先には行けない。

 エメルダは思わず後ろの窓を見た。窓からは艦隊が見えていたが、あの艦隊はこの位置で停船したはずだ。艦隊が徐々に小さくなっていくのが見ていてもわかった。いよいよここから先はエメルダ一人になるのだ。

 エメルダが乗った宇宙船は出迎えの艦隊の中に滑るように入って行く。巨大な宇宙戦艦が目の前に迫ってくる。

 エメルダは歯を食いしばった。ここからはラルリア王女として振る舞わなければならない。もし王女でない事がバレたらエメルダが殺されるだけではすまない、たぶん、戦争になるだろう。


 なんでこんなバカな事が起きたのか、エメルダには信じられなかった。すべてはラルリア王女のわがままとその取り巻きの無責任さが原因なのだ。本人の意志を無視しての結婚だとは言え王女なら政略結婚は仕方のないことだろう。それを泣き叫んで嫌がり、結局、身代わりを立てることになったのだ。そしてその身代わりに選ばれたのがラルリア王女と瓜二つの顔をしていた貧しい家庭の娘エメルダだった。

 ラルリア王女の影武者の仕事だと言われてエメルダは宮殿に呼ばれた。ラルリア王女の公務を王女に代わってする仕事だと説明された。報酬が非常によく、また王女が殺される危険などないように思えたのでエメルダは影武者の仕事を引き受けた。全宇宙に知れ渡っているラルリア王女のわがままなな性格から考えて彼女が公務をこなす気がないのは容易に想像できたからだ。

 アマルダ国にラルリア王女の身代わりとして嫁ぐことを説明されたのは二日前、この宇宙船に乗せられてからだった。もちろん絶対に無理だと断ったが、断ったら殺すと脅されて引き受けざるをえなかった。

 この計画はあまりに無謀だと思えた。彼女の国ニレタリア国とアマルダ国とは長らく敵対してきた。しかし、新たな勢力が現れこの強敵と戦うためには協力し合う必要が出てきたのだ。そこで軍事同盟を結ぶためにお互いの王子と王女が政略結婚することになったのだ。しかし、この肝心の政略結婚の花嫁に王女を送らず身代わりを送るとは、この国の責任ある人はいったい何を考えているのだ。結婚するのだから身代わりではいつかはにせ者だと分かってしまう。こんな計画がうまくいくはずがないのだ。すべては王女のわがままから出た行き当たりばったりの結果なのだ。この両国はもともと仲が悪いのだから身代わりがバレたらまず戦争になる。そして両国とも滅んでしまう。


 エメルダが乗った宇宙船は一隻の巨大な宇宙戦艦の前で停船した。

「向こうに移動します」

 ロボットが説明してくれる。

 エメルダはロボットの後ろについて歩き始めたが足が震える。いよいよアマルダの王子と会うのだ。つまりラルリアの夫になる人、そしてエメルダの結婚相手だ。

 宇宙船が軽く揺れた。おそらくあの宇宙戦艦に接舷したのだ。エアーロックの所に着くとすでに扉は開いており、数人の衛兵ロボットが立っている。エメルダは一人でその衛兵の前を通り過ぎて向こうの宇宙船に乗り移った。

 エアーロックを通りすぎるとそこは広い部屋になっていて大勢の人たちが立っていた。エメルダが部屋に入ると全員の視線が一斉にエメルダにそそがれた。エメルダはその場に立ちすくんでしまったが、しかし、気を取り直すとぐっと胸をはり顔を上げた。私はラルリア王女なのだ、ここで気後れしてはならない。

 エメルダはゆっくりと大勢の人々がいる方へと進んで行った。

 正面に三人の人物が立っている。おそらく年配の男女がアマルダの国王とその王妃だ。国王は筋肉質の体をした大男だ。そしてその横に少し離れて立っている冷たい顔をした男が結婚相手のランダス王子だろう、彼も父親と同じ筋肉質のごつい体をした大男だ。

 ランダス王子と目があったがニコリともせず鋭い目でエメルダを睨んでいる。

 エメルダは少し距離を置いた位置で立ち止まった。さあ、今から大勝負をしなければならない。

 やがて、国王がゆっくりとエメルダの方に歩き始めた。

 チャンスは今しかない、きのうから必死で考えていたことだ。国王の足元にすがりついて自分はにせ者だと告白するのだ。もちろん大変な騒ぎになって祖国は滅ぶかもしれないが自分が生きながらえる最後のチャンスだ。身代わりとして無理やりここに送り込まれたのだがら祖国がどうなろうと知ったことではない。しかし、エメルダは迷った。そうはうまくいかないかもしれない、王家の人間は一般人の命など何とも思っていない、だからこの場で殺されてしまうかもしれない。

 国王が目の前まで来た。

 今だと思った。しかし、エメルダが国王の足にすがりつく前に国王がエメルダを抱きしめてしまった。

「よく来た。君を歓迎する」

 響くような大きな声だった。国王の言葉と同時に拍手と歓声が沸き起こった。

 予想外の展開にエメルダの頭は真っ白になってしまった。にせ者だと告白しようと思うが抱きしめられていたのではどうしようもない。

 国王はエメルダをしっかりと抱きしめていたが、やがて手を離すと今度はエメルダの肩をつかんで勇気づけるようにぐっと押した。ものすごい力なので王が手を離すとエメルダは転びそうになった。

「大丈夫か」

 あわてて国王が支えてくれる。

「ええ……」

 エメルダは思わずそう答えた。にせ者だと告白しなければならないと気ばかりが焦るのだが、きのう何度も何度も思い描いた状況とかけ離れてしまって言い出すきっかけが掴めない。

「さあ、おいで」

 国王が手を広げて誘ってくれる。国王の指示なのだからエメルダは本能的に従おうとした。だが、しかし、足がガクガク振るえて歩けない。

「さあ」

 国王はもう一度手を広げる。

 エメルダは散り散りになった勇気をかき集めてなんとか歩き出した。しかし、もう、告白するには遅すぎると感じた。一瞬のタイミングを逃してしまったのだ。今、告白すれば国王の怒りをかって殺されるだろう。もうこのままラルリア王女を演じるしか道がなくなった。

 エメルダは国王が導くままに王子の前まで進み出た。

「わが息子、ランダスだ」

 国王が紹介してくれる。

「ラルリアです」

 エメルダはやっとのことで声を出すとなんとか頭を下げた。ここまでくると真実を告白するよりこのままラルリア王女を演じる方が楽だった。

 しかし、ランダスは鋭い目でエメルダを見つめているだけでニコリともしない。

「ほら、どうした?」

 国王がランダスの不遜な態度に戸惑ったように聞く。それでもランダスはじっとエメルダを見つめている。

「どうした、何か言わんか?」

 国王が少し怖い声を出した。ランダスは値踏みするような目でエメルダを見つめていたが、不意に柔らかい顔になると

「ランダスです」

 今度は丁寧すぎる態度で深く頭を下げた。

「すまん、機嫌が悪いんだ。困ったやつでな」

 国王はいよいよ戸惑って、申し訳なさそうにエメルダに軽く頭を下げた。しかし、国王に頭を下げられるなどエメルダの方が戸惑ってしまう。しかし、これでランダスがこの結婚に乗り気でないことがわかった。たぶん、ラルリア王女の悪い噂を聞いているのだ。たしかにあの王女と結婚したいと思う男などいないだろう。それにランダス王子の悪い噂も本当だとわかった。心の冷たい乱暴者とのもっぱらの噂なのだがたぶんそんなに外れていないだろう。ラルリア王女が彼との結婚を嫌がるのもわかるが、そのおかげで私が彼と結婚しなければならないのだ。

 次に国王は横に立っていた女性に手を伸ばした。

「王妃のマリフェセンスだ」

 やさしそうで物静かな感じの人だった。

「よくいらっしゃいました。仲良くやりましょうね」

 やさしい言葉をかけてくれる。

「よろしくお願いします」

 エメルダも深く頭を下げた。

「ランダスの態度は気にしないでね、いつもあんな感じなの」

「はい」

 エメルダは必死の笑顔で答えた。

「残りの連中は後でゆっくり紹介しよう。ここで始めたらしばらく終わらん」

 国王が広間にいた人たちに向かって両手を広げて笑顔で答えてくれた。

「ランダス、ラルリア王女を控え室にご案内しては?」

 王妃がランダスに声をかける。ランダスは母親に指図されてちょっとムカッとしたようだったがすぐに気を取り直すと前に進み出た。

「ついて来なさい」

 そう言うとランダスは後ろも見ずにどんどん歩いて行く。

 なんでこんなに無愛想なのか意味が分からないがともかくついて行くしかない、エメルダはちょっと王妃の顔を見てから彼の後を夢中で追いかけた。


 ランダスの後について控え室に入った。そこはこじんまりした部屋でとても高価そうな調度品で飾られている。大きな窓があって青く輝くアマルダ星が見えていた。

 ランダスは何も言わずに中央の椅子にドカッと座った。体が大きいから椅子が壊れそうだ。しかし、エメルダには座れとも何とも言わない。この態度にエメルダはちょっとムカッときた。この人にとって私はラルリア王女なのだ、それなのにこの態度はいったい何なのだ。たぶん、この人もラルリア王女と同じなのだ、甘やかされて育っていて自分勝ってなのだ。

 エメルダはランダスを睨みつけると向かいの椅子に思いっきり横柄な態度で座った。しかし、この事がエメルダの心から恐怖心を取り払ってくれた。

 しばらく沈黙が続いた。

「おまえ、誰だ?」

 いきなりランダスが怖い声で聞く。

 誰って、ラルリア王女に決まっているだろう。

「ラルリアです」

 エメルダはきっぱりと答えた。

「ラルリア?」

 ランダスはまるで信じていないような顔でエメルダを睨みつける。

「俺が、結婚する相手の女性を調べなかったとでも思っているのか」

 怒鳴りつけるような声だ。

「……」

 調べるってなんのことだ?

「エアーロックから広間に入って来た時の君は俺が予想していたラルリア王女とはまるで違う」

「ちがう……」

 違うと言われても、彼だって王女に会ったことはないはずなのに。

「王女なら、たぶん、憤慨した敵意に満ちた顔をしてあの部屋に入って来るはずだ。回りに付き添う侍女ロボットと一騒動起こしたかもしれない」

 エメルダは突き飛ばされたような思いだった。そうかもしれない、あの王女ならあの場面ではおとなしくはしていないだろう、癇癪を起こしたかもしれない。しかし、しかし、王女の身代わりをするにはそんな所まで真似しないといけないのか。それは無理だ。王女にまともに会った事すらなのに。それに、そんなトレーニングなど何も受けていない。いや、そもそも王家のしきたりや礼儀作法の教育すらほとんど受けていない。普通の町娘がいきなりこんな所に送り込まれたのだ。

 エメルダはがっくりと下を向いた。所詮無理なのだ。こんな馬鹿げた計画は1分も持たなかった。あの部屋に入った瞬間ににせ者だと見破られてしまった。しかも、これで殺されてしまう。

 しかし、殺されるわけにはいかない。エメルダはきっとなって顔を上げた。

「私のひどい噂を真に受けていらっしゃるようですね」

 エメルダは必死の思いでランダスを睨みつけた。ランダスもエメルダを睨み返しながら何かを考えている。

「まあいい」

 不意にランダスがやさしい声になった。

「ここで騒ぎを起こして同盟をふいにするわけにはいかん、それに俺は妻に家柄など求めてはいない」

「家柄……」

 意味が分からない、エメルダはポカンとしてランダスを見つめた。

 ランダスはやさしい顔でエメルダを見ている。そして、何を思ったか振り返ると窓の外を見た。

「アマルダだ、綺麗だろう。ここは大気に酸素を満たすのに二百年もかかったんだ。宇宙開発の初期に開発された星だからな」

「……」

 宇宙船はすでにアマルダの大気圏に入っていて、雲の帯が長く伸びているのが見えている。

「もうすぐ宮殿がある丘が見えてくる。湖があって綺麗なところだ。きっと君も気に入ると思うよ」

「はい……」

 急にやさしくなったランダスに戸惑いを隠せない、私がにせ者だと言う話はどうなったのだ。

「あのう…… 私の噂の話は……?」

「噂ではない。王女の身近にいる人間からの正確な情報だ」

 また、急に厳しい口調になった。そしてエメルダをじっと見つめている。エメルダは不安でたまらなくなってきた。私がにせ者だとわかった上で私の化けの皮をはぐのを楽しんでいるんだろうか。

「心配しなくていい」

 エメルダが不安そうな顔をしているのが分かったのかランダスはやさしい声をかけてくれた。

「同盟をこわすような事はしない。この同盟は絶対に必要なのだ。ただ……」

 そこでランダスは言葉を切った。何か気になることがあるらしいのだが、それを言うべきか迷っているといった感じだ。

「ただ……?」

 エメルダは催促してみた。

「ただ、君の王位継承権の問題がややこしくなるだろう」

「王位継承権?」

 やはりエメルダには意味がさっぱり分からない。

 そんなエメルダをランダスはおもしろそうに眺めている。

「知らないのか、君はニレタリア王国の第一順位の王位継承権を持っているんだ」

 エメルダは悲鳴を上げた。まさか、まさか、そんなバカなことがあるわけがない。そう、確かにラルリア王女は王位継承者なのだ。しかし、だからと言ってなんで私にその王位継承権が来るのだ。ただ、冷静に考えれば公式には私がラルリア王女なのだ。だから公式には私に王位継承権がある。あまりのことにエメルダはむせ込んでしまった。

「大丈夫か?」

 ランダスは立ち上がると背中をさすってくれる。

「まあ、その心配は先のことだ。ところで行くぞ」

 ランダスは扉を開けるとエメルダを待っている。エメルダはそんなランダスをビックリして見上げた。

「どこへ?」

「宮殿にだ。話をしているうちに着いてしまった」


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