二章 二話
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それは、弥涛がアリスの家に居候してから2週間程経った、ある日のことだった。
「今日の朝ごはんは何にしようかな…。」
そんなことを言いながら、自作の料理本を一枚一枚ページを捲って行く。
アリスは確か、ピンク色の皮で、柔らかい『ピピルの実』という甘い木の実が好物だ。
「…今日はピピルの実を盛りつけたケーキをデザートにしてあげよう。喜ぶかな…」
そんな独り言を呟きながら、弥涛はキッチンに立った。
それから、1時間後。ちょうど朝の八時になった時に―…
―…事件は起きた。
いつも通り、料理を作り終え机に並べる。
アリスを呼ぼうとお腹に力を入れた途端に、家の外へと通ずるドアが開けられた。
「アリスー!様子を見に来…」
そこから現れたのは、少し暗めの紫色で太陽の光が当たるところが銀色に見える、世で言う『紫銀』の髪を一本にまとめ、赤い目をした青年が現れた。
「………」
「………」
二人でしばらく見つめ合う…真顔で。
「んーっ…ヤトーお腹すいたぁ…って、んん?」
青年を見たアリスが目を見開く。知り合いなのか…弥涛はアリスと青年を二度見した。
「あ、あ…」
青年が意味不明な言葉を発しながらアリスに近づく。
尚、弥涛はそれが軽くホラーなので動けない。
そうして、青年はアリスの肩を掴むなりガクガクと揺らした。
「ああああああああ、アリス!!あの、あの男は誰!?私の知らない合間に!?
あと今何歳だと思ってるんだ!?年頃の娘が!!あんな!!不潔な男を!!」
あまりにもの迫力に弥涛は口を開けるも、軽いホラーが重いホラーへと変わった。足がガクガクしてます。
「ちょちょちょちょちょちょちょ…お、おおお、落ち着いてよ秋桐…」
「……………あ」
ホラーに声が出ず、『あ』しか発声できない機械へと変わり果てた弥涛。
「あ、あああ、あと秋桐!そんな気があったら今頃木っ端微塵にして部屋の塵にしてるってばぁ…」
「あ、そっか。」
酷い扱いを受けているにも関わらず、弥涛は相も変わらず謎のホラーにより足の震えが止まらなかった。
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「いやー、ごめんごめん。アリスの面倒を見てくれてありがとう。私は秋桐と申します。」
キリッとした目に眉を持つ…まさにイケメンと言う言葉が当てはまる青年だ。
『あ、いえいえこちらこそ…俺は弥涛と言います。』
と、言うはずが。
「あ、や…あの…えっと…お、お世話して貰ってます(!?)、弥涛です…」
と、あまりにもの緊張にまた意味不明な言葉を発する弥涛。
そんな弥涛を見て、アリスは呆れながら紅茶を入れて向い合って座ってる二人を見た。
「秋桐は僕に色々教えてくれたりとかするんだ。ヤトーも仲良くして見なよぉ。」
アリスに促され、弥涛はまたニコニコしている秋桐を見る。
「よろしくね。私は武闘家であり聖職者なんだ。色々聞いてくれ。
あと鬼族だけどあまり気にしないで。」
「よ、よろしく…」
(なんだ、話して見ると結構いい人じゃん)
なんて弥涛は考えながらアリスをチラッと見た。
アリスは秋桐と色々話したがっている。
それを少し寂しいな、と思いつつ料理本を持つと、借りている部屋に戻った。
それから、秋桐を見てからずっと思っていた違和感を考える。
(…あの人…どっかで見たことがある…?)
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「彼、人間族?」
自分よりも、遥かに身長が小さいアリスに秋桐は問いかける。
「さあ。聞いたこと無い。僕は他人なんて興味ないし。
あ、でもヤトーすっごい料理上手なんだよぉ。美味しいんだぁ。」
「さっきもピピルの実が乗ったケーキ作ってたもんね。
いい料理人じゃないか」
「どうせ僕は料理できませんよーだ。」
口を尖らせて言うアリスに秋桐は笑った。
「…そう…人間族…か…」
(私には彼が人間に見えないけどな…。
それ以前に、彼もアリスのことをハーフエルフと気づいていないのか…?)
そう思いながらも、秋桐はアリスの語りかけることに耳を傾けた。
三話に続く。
次回 執筆担当:暁那