一章 三話
「…君は…エルフなんだよね?」
その言葉を聞いて、少しアリスは肩を揺らす。
「まあ…そうだけど」
そっけなく答える彼女は、弥涛を睨んだ。
「えっ、あ、なんかごめん。」
アリスはプイッ、と顔をそらしマントをとり羽織ると、外にまた出ようとするが、開けた扉の向こうを見て顔を顰めた。
「…雨…ハァ…」
マントをまた壁にかけ、ボフンと椅子に座る。そして、アリスはポツリと呟いた。
「…お腹…すいたな…」
「俺でよければなんか作るけど…?」
「…じゃあ何か作って。僕は魔導書読んでるから」
「じゃ、ちょっと待ってて。」
それから十数分後・・・。
「はい。こんなんでどう?」
皿にのってでできたのは、からりと揚がった鳥のから揚げだった。
「…いただきます」
恐る恐る、アリスは口にそれを入れる。
濃厚だがカラッとした味に、肉汁が少し出てきた。
「…おいしい」
少しポカーンとした顔で、アリスは次々と食べる。
「お口にあったようでよかったよ。」
弥涛が嬉しそうに笑った。
「…だからと言って、僕は君を完全に信用するわけじゃないよ。」
どこか不信な顔で弥涛を見るも、アリスの目に敵意はもうない。
「わかってるよ、アリス。」
「…フンッ」
また顔を背けると、アリスは魔導書に目を通し始める。
「ところでさ、君は他の世界に興味はない?」
「…他の世界?興味ないね、僕はここでただ生きていくことしか考えてない。」
「……うらやましいな。」
誰にも聞こえないような小さな声で、弥涛がつぶやいた。
「…羨ましいの?僕はただこの魔法を使ってここで生きる、それだけだよ」
アリスは足元に巨大な魔法陣を広げる。それを消すと、弥涛をまた見た。
「そうだね。まあ、感性はそれぞれだからさ。」
どこか悲しげに笑い、弥涛はアリスから視線を逸らす。
「…ここは案外平和だけど、他の国はそうでもない。」
そう切り出すと、ゆっくりと弥涛が語りだした。
「戦争をしてたり、ひどい飢饉になってたり……。中にはこんなふうに話せる人が一人もいない国だってある。」
「…ふぅん…僕が分かることはこの魔法で天界の様子を見ることはできる。けど、神々の世界なんてたまにしか見ないからね。」
「天界?」
「君には関係ないことだよ。それで?」
「それでって、まぁ、これだけなんだけど…。」
「あっ、そう。じゃあ僕は寝るから。」
そう言って、アリスは個室の扉を開けてその中に入って行ってしまった。
その姿を見送り、弥涛は一つため息を吐く。
「…これから、どうなるんだろうか…?」
そのつぶやきは誰の耳にも止まることなく、静かに部屋に溶けていった。
続く 次回執筆:暁那