そらきみ
白い雲が、速いスピードで空をすべる様に流れていく。
草原のど真ん中。一面、緑、緑、そして所々に咲く鮮やかな花の色。
背中に感じる草の感触。緑の匂い。時々、風が花の淡い香りも連れて。
太陽は、流れる雲に隠されたり、顔をだしたり、なんだか忙しそう。
私は、そんな様子をずっと眺めている。あの雲は、風は、どこに行くのだろう。そんな事を思いながら。
雲は止まらない。どこまでも、どこまでも、流れ続けてゆく。風も、私の鼻をくすぐって、そのまま急ぎ足に過ぎてゆく。
ふと、立ち上がる。広がる緑のど真ん中。そして、空に向かって両手を伸ばす。雲に触れたくて。
両手は、宙を掻く。
分かっていた。空に手が届くはずなんてない。
私はそれが無性に切なくて、悲しくなった。でも、それと同時に、どこか嬉しくもあった。
「羽由。」
羽由。私の名前。そして、貴方の声。
振り返れば、貴方の姿。
「由真。」
由真。貴方の名前。優しい、優しい、私の大切な人。
笑ってみせれば、微笑みで返してくれる、とても温かい人。
「なにか、いいことあった?」
私に微笑んで、そして穏やかに問う。
「ううん。ただ、空が広いなって。」
「空が?」
不思議そうに首を傾げる貴方。
「そう。」
空を見上げる。手をかざす。指と指の間から漏れてくる陽が眩しくて、少し目を細めた。
「そっか。」
手はそのままに、ちらりと貴方の様子を伺えば、貴方も、空を眺めてる。
そんな、穏やかな時間。
空は近くにあるようだけど、遠くて、どんなに手を伸ばしても届かないけれど、
ここには、優しい世界があるから、寂しくなんてない。
優しく包み込んでくれる人が、ここに居るから。
そんな、幸せ。
初投稿です(ドキドキ
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
今日の雲の流れが速かったということから始まったこの超短編小説(と言えるのかも謎ですが……)、いかがでしたでしょうか?
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まだまだ未熟な私ですが、何卒よろしくお願いします。
2007.10.8 鹿伽 紅梨