エスカレート
睦があの笑顔を私に向けてくれたから、それだけで私は頑張れる。
あの日以来、睦が家に来ることはなかった。来ないまま一週間が経ち二週間が経ったけれど私はずっと忙しくしていた。
いつ睦が来てもいいように、21歳と言わずもっと年下になりたい。
できれば高校生くらいがいい。人間、やる気になれば何でもできる。睦と出会って私は知った。本当の年は変えられないけれど見た目や雰囲気なら頑張り次第でなんとでもなるのだ。
高校生を対象とした雑誌を買い、隅から隅まで読む。
休みのたびに渋谷に服を買いに行く。
身も心も私は高校生のギャル。
「大野さん、ほんと最近変わったけど何かあったんじゃない?」
主任と顔を合わせるといつも同じことを言われる。
「は?」
「いや、もしかしてお金に困ってたりとか・・・」
「お金?なんでですか」
「あぁ、なんでもない。ごめんね。」
主任は慌てたように仕事に戻っていった。
お金に困ってる?意味がわからない。もし本当に困っていたらこんなネイルはできないし服だって髪だってものすごくお金をかけているのに。
米山さんたちが前に話していた。給料を全部服に使ってしまうって。あの時私はそんなの理解できないと思っていたけど今ならわかる。だって今の私がそうだから。
睦を愛する準備はいつでも整っているのに、睦は一向に来ない。気付けば一ヶ月が経とうとしていた。
電話をしても出ない。メールは返ってこない。私はいよいよ不安になってきた。もし事故や病気なら職場に情報が回ってくるのでそういうことはないと思う。それなのになぜ連絡が取れないんだろう。
「何度も電話やメールしてごめんね、大丈夫?もし無事なら連絡ください」
とだけ書いてメールした。これで返ってこなかったら警察に届けるしかない。
二日後、メールが来た。
「連絡できなくてごめんね。最近忙しいんだ。また連絡するね。」
たったそれだけのメールなのに嬉しくて涙があふれた。無事でよかった。私のことを忘れてくれなくてよかった。




