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這えば立て

睦は仕事が終わってから家に来るのが普通になった。もちろん毎日というわけじゃないし、いつも会うのは私の家だし夜中だけど、それでも私は幸せだった。


「お仕事お疲れさま」

営業の仕事が終わるのはだいたい8時から9時。私は5時が定時なので帰り道に買い物をしてご飯を作り、ビールを冷やして睦が来るのを待っている。

「あ、どうもありがとう」

狭いテーブルをはさんで睦が微笑む。

幸せな時間が流れる。

今日の仕事でこんなことがあった、とか睦の話を聞くのは楽しい。それに睦は聞き上手だからつい私のこともいっぱい話してしまう。


空っぽになったお皿がテーブルの上に並んでいる。

私たちはベッドの中。


そんな日が続いた。睦は毎日じゃなくても2日に一回は来てくれる。いつ来るなんて約束はしていない。

約束なんていらない。二人がつながっていること。それが一番大切なこと。


それはわかっていた。


でも幸せって慣れてしまう。

会えるだけでいい、睦がそこにいるだけで私は幸せ。それは今でも変わらない。ずっと一緒にいられるなら

私はいつだってどこにだって睦についていく。


それは言うまでもないことだけど、ある日のことだった。その日は睦が来ない日だった。

私はぼーっとテレビを見ていた。ご飯を食べながらテレビを眺めている。バラエティの喧噪が過ぎてドラマの時間になった。

大して面白くないな、と思いながらもなんとなく見ている。

主人公の女の子が片思いの相手と初めてデートをする、という展開になった。

どんな服を着ていこうか、どんな話をしようか、どきどきしながら迎えたデート当日。

休日の青空の下、二人は待ち合わせをしていた。


私はご飯を食べるのも忘れて見入っていた。

これだ。

私がしたいことってこういうことだ。


私の家でご飯を食べて体を重ねる、それはとても幸せなことだ。睦と一緒の時間を共有していると思うと

私は天にも昇っていくような気持ちになる。

もしかしたら人は現状に満足しないようにできているのかもしれない。

睦とデートというものがしたい。

仕事終わりじゃなくて一日休みの日、夜空にぼんやりと照らされているマンションの廊下の電気の下ではなく

さんさんと晴れた青空の下、生活感たっぷりの私の家ではなくどこかおしゃれなレストランとか

そういうデートをしてみたい。


「そっか」

睦は少し困ったような顔をした。

「私は、今のままでもじゅうぶん幸せなんだけど・・・たまには一日中ずっと一緒にいられたらなって。」

「休みの日っていろいろ予定が入ってたりするんだよね。」

「予定?」

私と会う以外の予定があるというのが意外だった。睦と私はつながっている。いつでも一緒のはずなのに

私が関わらない予定なんてあるのか。

「うん。ほら、父親のこととかもあるしさ」

父親・・・私の会社の会長。

そうか、きっと社長になるための勉強とかをやっているんだ。それなら仕方ない。

そうなると、私ってやっぱり玉の輿なのかもしれない。私と結婚することを考えて仕事にも力を入れてくれているなんて、やっぱり睦は私の運命の人だ。この人と一生一緒にいるんだ。

「ありがとう」

私は睦の首に手を回してキスをした。

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