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【三題噺】サルスベリ・入浴・料金別納郵便

作者: 佐藤サム

三題噺です。お題はサルスベリ、入浴、料金別納郵便です。

 僕は案内状をせっせと作っている。印刷された案内状を三つに折り、封筒に宛名を書き、切手を貼った封筒に入れて封をする。単純な作業だが、どうにも量が多い。友人の頼みだったのもあり、軽い気持ちで手伝いを引き受けたのだが、こんなにも膨大な量になるとは思っていなかった。

 これは昼飯くらいおごってもらわないと割に合わないなと、山積みになっている封筒の束を見渡す。二百通だ。そして後まだ半分残っている。どうせこんな量になるのだったら、最初から料金別納郵便にすれば良かったと思う。宛名だって封筒に直接印刷してしまえばもっと短時間で済ませられただろう。

 ペンを置いて首をゆっくりと回す。筋肉がばきばきと音をたてる。

 やれやれ、いったいなんでこんなものに四百人もの人が集まるのだろうかと、案内状のコピーを見つめる。案内状のタイトルはこうだ。

『講演・サルスベリの名称変更を望む ~サルはサルスベリを滑らず登る~(サルの人権擁護団体)』

 何度読んでもため息が出る。そもそもサルの人権ってなんなんだろう? サル自身が人権を主張したりするのだろうか。まさかサルだって、サルスベリなんていう名前が木に付けられていることに腹を立てているわけでもないだろう。

 案内状にはこんな風にも書かれている。

「我々は実際にサルがサルスベリをするすると登って行く動画の撮影にも成功しました。もちろんこのサルは特殊な訓練を受けたわけでもなく、特殊な道具を用いているわけもありません。ごく普通の、どこにでもいる、ありふれたサルです。今回の講演では大画面のスクリーンでこの動画の放映を予定しております。また、その講演後、動画をYouTubeなどの動画サイトに順次アップしていく予定です。いつでもどなたでも、この動画はご覧になれます。サルはサルスベリに登ることができないと信じ込んでいる方々の認識を、これで正していくことができます。ぜひ、皆様も今回の講演と動画でもって、この、サルスベリという、サルの人権を度外視した名称を改称させ、サルの人権を広く世間に知らしめていこうではありませんか。」

 たとえ動画があろうがなかろうが、サルが滑ろうが登ろうが、サルスベリはサルスベリのままで良いと思う。もともとは、木登りが得意なサルでさえ滑ってしまいそうなほど、つるつるした表皮を持つ木だからそういう名前がついたのだろうと思う。だから別にサルをけなしているわけじゃなく、むしろ木登りが得意だという代名詞にサルが使われているという点では、サルを過大評価しているんじゃないだろうか。

 どちらにしろ、僕にとってはどうでも良い話だ。しかし、こんなことに対して熱心な関心を寄せている人が四百人もいることの方が僕には一大事に思える。サルの人権を考える以前にもっとやることがあるだろうに。サルが好きなのは分かるけれども度が過ぎると思う。

 さらにこの団体は、サルスベリ以外にも今後はこんなことに対しても訴えていくそうだ。

 

 ・「猿回し」の名称を廃止し、ヒトとサルはあくまで対等な立場で芸を行うこと。

 ・「猿真似」とは、知恵の浅い者が、うわべだけ真似ることを指しているが、あくまでそれは下手な真似をする人間が浅はかなだけてあって、実際にサルがヒトの行為を真似るのは高等なことであると認識をすること。

 ・温泉に入浴中のサルをみだりに撮影してはならない。

 ・サルはヒトと最も近い親戚だということを認識し、常にヒトに対して抱くのと同じように、彼らを尊重しなければならない。

 ・サル避けの電流柵の設置はいかなる理由があろうとも許されず、すでにある物については全て撤去されなければならない。

 などなど。読んでいるうちにだんだん腹が立ってきた。こんな案内状は全部燃やして捨ててしまった方が世の為になるんじゃないだろうか。そんな葛藤を抱えつつも僕は、見ざる、言わざる、聞かざるの精神で四百通の案内状を作成し終え、発送した。


 後日、依頼元の友人から一通の礼状が届いた。そこには簡単な謝辞と、URLが記載されていた。迷ったが僕はそのURLをパソコンに打ち込んでサイトを確認した。そのサイトには案の定、するするときれいにサルスベリを登るサルの動画がアップされていた。

 もちろん、僕はそれを見てもなんの感動も覚えなかった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます。

くすりと笑ってもらえるような、そんな楽しいお話になっていればと思います。

感想をお聞かせいただけると嬉しいです。

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