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婚約者(男)が幼女になった

作者: 井上さん
掲載日:2026/10/07

名前を借りました

 婚約者のラジアンが幼女になった。


何を言っているのか分からないだろう。

自分でも、何を言っているのか分からない。


 とにかく、今、目の前にいる幼女は、私の婚約者(男)だ。


簡素というか、機能的というか、使わない物は置かない主義のラジアンの部屋。

幼女は、ラジアンのシャツを着せられて、ちょこんと座っている。が、ダボダボだ。ワンピースのようになっている。袖から手が出ていないから、袖は半分以上捲くられている。



あら、ちょっと可愛い。



 この家には令嬢がいないから、幼女が着るドレスは無い。


今、メイドが買いに行っているらしい。




 私は聖女のファラド。




幼馴染のラジアンと婚約して10年経つが、まさか婚約者が幼女になるとは思いもしなかった。


 幼女になったラジアンは、今までの記憶はあるらしい。


 ラジアンの部屋のソファに、ちょこんと座っていた。

足に膝掛けが掛かっている。


「何故幼女になったんですか?」


 呼び出された私は、聞いた。


「知らん」


 真顔で答えるラジアン。


「え?」


「知らん」


 声も見た目も幼女なのに、話し方はラジアンそのものだ。


「知らないんですか?」


「朝起きたらこうなっていた」


「朝起きたら…」


 それは、誰だって驚くだろう。


「お前は聖女だから、これが魔法か呪いか分かるのではないかと思って呼んだのだ」


 ドヤ顔のラジアン(幼女)。


「なるほど…」


 確かに私は聖女だが。


「どうだ?分かるか?」


「…」


 寝起きだからちょっと機嫌が悪い。私は朝が弱いのだ。


仕方なく、幼女の身体に手を翳す。


「…」


 呪いを掛けられたが、以前私がラジアンに掛けた加護により反射されて、中途半端な状態になっていた。


「呪いか?解呪できそうか?」


 せっかちに聞いてくるラジアン。


「呪いです。ただ、私の加護が邪魔をして、完全に呪いが掛かっておらず、中途半端な呪いなので、解呪できるか分かりません」

 

 私は、本当の事を言った。


「そうか…」


 ラジアンは考え込んだ。


「何の呪いなんですか?」


 ラジアンの側近のカンデラが聞いた。


「もう少し調べてみないことには…」


「すまないな」


「いいえ…私の加護のせいで、中途半端になったので、解呪が難しくなってしまって…すみません」


「君のせいじゃないよ。君の加護のお陰で、生きていられるのかもしれないし」


「…」


 即死の呪いもあるのだ。

それを考えれば、良かったのかもしれないが。


 しかし、起きたら幼女になっていたのなら…


「寝る前に、何かしましたか?」


「うん。手紙を読んだ。すぐに眠くなって…」


 何やて?


「その手紙はどこに?」


「誰からの手紙ですか?」


 私とカンデラが詰め寄る。


「名前は無かった」


 平然と言い放つラジアン。


「「何故そんな手紙を開けたんですか!?」」


 私とカンデラの声がハモった。


「す…すまん…」


 幼女はショボンとした。


ちなみに、その手紙は消えていた。

呪いが掛かったら、消える仕様だったのかもしれない。




 ラジアンは急遽、魔獣の討伐遠征に行った事にして、幼女は親戚から預かっている事にした。



 執務室の大きなイスに座り、書類を処理する幼女。


シュールな光景を眺めながら、私は考えていた。



どうやって呪いを解除する?


誰が何の目的で呪いを掛けた?


元の呪いはなんだったのだろう?




 ラジアンは、公爵家の嫡男である。


婚約者の私がいるのに、令嬢から秋波を送られている。


自分のものにならないなら…と呪いを掛けたのか?



王子の側近で優秀だから、ライバルを蹴落としたいから…と呪いを掛けたのか?




呪いの痕跡を辿っていると。


「あっ!ちょっとこれ、返せそう」


 私は集中した。 


「呪い返し!!」


 そして叫んだ。


「力技!?」


 ラジアンは目を丸くした。




呪い返しに成功して、ラジアンは幼女になって3日後に元の姿に戻った。




 呪いを掛けた人物は、呪いが返ってきているはずだ。


令嬢なら、急病になったと言い、隠しているだろう。


ライバルなら、急に仕事を休んだ人物が犯人だ。






 調べたら、ラジアンの部下の男が、休んでいるという。


 部下といっても、学園で同じクラスだった男だ。

成績優秀だったラジアンが王子の側近になり、その部下に配属された男。


 男はラジアンをライバル視していたが、ラジアンには遠く及ばないから、ただのクラスメイトとしか見られていなかった。


それも屈辱だったのだろう。



 掛けられたのは、老人になる呪い。

ラジアンがいなくなれば、王子の側近になれるとでも思ったのか。


 とにかく、その男に事情聴取しようとしたら、老人になっていたらしい。






 元の姿に戻ったラジアン。


「ありがとう。さすが私の婚約者」


「戻って良かったです」


 呪い返しをしたから、疲れた。帰って寝よう。


「お礼に、王都で有名なお菓子を贈ろう」


 ラジアンが言った。


「その前に寝かせて」


 お菓子より睡眠だ。


「客間で寝ると良い。寝ている間に用意しよう」


 キリッとした顔で言うラジアン。さっきまで幼女だったとは思えない。


「買って来るのは俺ですがね」


 カンデラも言った。


「そうする」


 客間で寝かせてもらった。




起きてから、カンデラが買ってきたお菓子の9割を食べるのだが、それは別の話。



読んでいただきありがとうございます

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