婚約者(男)が幼女になった
名前を借りました
婚約者のラジアンが幼女になった。
何を言っているのか分からないだろう。
自分でも、何を言っているのか分からない。
とにかく、今、目の前にいる幼女は、私の婚約者(男)だ。
簡素というか、機能的というか、使わない物は置かない主義のラジアンの部屋。
幼女は、ラジアンのシャツを着せられて、ちょこんと座っている。が、ダボダボだ。ワンピースのようになっている。袖から手が出ていないから、袖は半分以上捲くられている。
あら、ちょっと可愛い。
この家には令嬢がいないから、幼女が着るドレスは無い。
今、メイドが買いに行っているらしい。
私は聖女のファラド。
幼馴染のラジアンと婚約して10年経つが、まさか婚約者が幼女になるとは思いもしなかった。
幼女になったラジアンは、今までの記憶はあるらしい。
ラジアンの部屋のソファに、ちょこんと座っていた。
足に膝掛けが掛かっている。
「何故幼女になったんですか?」
呼び出された私は、聞いた。
「知らん」
真顔で答えるラジアン。
「え?」
「知らん」
声も見た目も幼女なのに、話し方はラジアンそのものだ。
「知らないんですか?」
「朝起きたらこうなっていた」
「朝起きたら…」
それは、誰だって驚くだろう。
「お前は聖女だから、これが魔法か呪いか分かるのではないかと思って呼んだのだ」
ドヤ顔のラジアン(幼女)。
「なるほど…」
確かに私は聖女だが。
「どうだ?分かるか?」
「…」
寝起きだからちょっと機嫌が悪い。私は朝が弱いのだ。
仕方なく、幼女の身体に手を翳す。
「…」
呪いを掛けられたが、以前私がラジアンに掛けた加護により反射されて、中途半端な状態になっていた。
「呪いか?解呪できそうか?」
せっかちに聞いてくるラジアン。
「呪いです。ただ、私の加護が邪魔をして、完全に呪いが掛かっておらず、中途半端な呪いなので、解呪できるか分かりません」
私は、本当の事を言った。
「そうか…」
ラジアンは考え込んだ。
「何の呪いなんですか?」
ラジアンの側近のカンデラが聞いた。
「もう少し調べてみないことには…」
「すまないな」
「いいえ…私の加護のせいで、中途半端になったので、解呪が難しくなってしまって…すみません」
「君のせいじゃないよ。君の加護のお陰で、生きていられるのかもしれないし」
「…」
即死の呪いもあるのだ。
それを考えれば、良かったのかもしれないが。
しかし、起きたら幼女になっていたのなら…
「寝る前に、何かしましたか?」
「うん。手紙を読んだ。すぐに眠くなって…」
何やて?
「その手紙はどこに?」
「誰からの手紙ですか?」
私とカンデラが詰め寄る。
「名前は無かった」
平然と言い放つラジアン。
「「何故そんな手紙を開けたんですか!?」」
私とカンデラの声がハモった。
「す…すまん…」
幼女はショボンとした。
ちなみに、その手紙は消えていた。
呪いが掛かったら、消える仕様だったのかもしれない。
ラジアンは急遽、魔獣の討伐遠征に行った事にして、幼女は親戚から預かっている事にした。
執務室の大きなイスに座り、書類を処理する幼女。
シュールな光景を眺めながら、私は考えていた。
どうやって呪いを解除する?
誰が何の目的で呪いを掛けた?
元の呪いはなんだったのだろう?
ラジアンは、公爵家の嫡男である。
婚約者の私がいるのに、令嬢から秋波を送られている。
自分のものにならないなら…と呪いを掛けたのか?
王子の側近で優秀だから、ライバルを蹴落としたいから…と呪いを掛けたのか?
呪いの痕跡を辿っていると。
「あっ!ちょっとこれ、返せそう」
私は集中した。
「呪い返し!!」
そして叫んだ。
「力技!?」
ラジアンは目を丸くした。
呪い返しに成功して、ラジアンは幼女になって3日後に元の姿に戻った。
呪いを掛けた人物は、呪いが返ってきているはずだ。
令嬢なら、急病になったと言い、隠しているだろう。
ライバルなら、急に仕事を休んだ人物が犯人だ。
調べたら、ラジアンの部下の男が、休んでいるという。
部下といっても、学園で同じクラスだった男だ。
成績優秀だったラジアンが王子の側近になり、その部下に配属された男。
男はラジアンをライバル視していたが、ラジアンには遠く及ばないから、ただのクラスメイトとしか見られていなかった。
それも屈辱だったのだろう。
掛けられたのは、老人になる呪い。
ラジアンがいなくなれば、王子の側近になれるとでも思ったのか。
とにかく、その男に事情聴取しようとしたら、老人になっていたらしい。
元の姿に戻ったラジアン。
「ありがとう。さすが私の婚約者」
「戻って良かったです」
呪い返しをしたから、疲れた。帰って寝よう。
「お礼に、王都で有名なお菓子を贈ろう」
ラジアンが言った。
「その前に寝かせて」
お菓子より睡眠だ。
「客間で寝ると良い。寝ている間に用意しよう」
キリッとした顔で言うラジアン。さっきまで幼女だったとは思えない。
「買って来るのは俺ですがね」
カンデラも言った。
「そうする」
客間で寝かせてもらった。
起きてから、カンデラが買ってきたお菓子の9割を食べるのだが、それは別の話。
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