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傲慢王子とヒカリダマ

作者: 原田 和





 「――この非道な悪行の数々、全く持って許し難い!貴様のような性根の腐った女に、王妃たる資格はない!!よって婚約破棄を言い渡す!即刻この場から立ちさばばばばばばぶぱぁぁぁっっ???!」


 「?!?」


 「ぎゃあぁぁぁっっっ?!??!!きたなぁぁぁい!!やだドレスに血がついたぁぁぁ!!」


目障りな婚約者を排除し、愛くるしく天真爛漫な運命の娘と新たな道を共に進む筈だった。

なのに気付けば私は、己の口から血を迸らせ、大広間に血の海を作り上げてしまった。それまではとても健康体だったのに。

薄れゆく意識の中、私を見下ろす父の顔が……やけに、優しかった。










 「ここは、どこだ…?」


広がるは、真っ白な空間。何もない。上も下も、右も左も、全部白く染め上げられ、何の音もしない。

私は悟った。


 「そ、うか…。私はあのまま死んで……天国に来てしまったのがっはあぁぁ」


 「何抜かしてやがる傲慢野郎が」


突然の顎への衝撃に耐えられず、私は白い空間でひとり、アーチを描いて叩き付けられる。

理解が追い付かない。


 「この程度で寝んな。起きろ弱々しい下衆が」


先程から無礼まみれの相手に、私は鋭い眼光をくれてやった。

私は顔がいい。周囲も羨む美形だ。だからこそ、怒りを発すると迫力があるのだっ!さぁ恐れ戦き跪けっ!!


 「っっ……、………。……」


しかし。目の前にあったのは、ふよふよと漂う光の玉。人ですらない。

私は思わず手を伸ばし、光玉に触れる、


 「触んなクソガキ」


……前に、思い切り顔面に突進された。顔がめり込んだかと思う程であった。当然、物凄く痛いのでもんどり打つ。高速で。


 「顔がぁっっ!?顔があぁぁぁぁっ??!」


 「私はヒカリ・ダマ。ダマ様と呼べ。此処は私が作り上げた空間、その名もクローズド・サークル」


 「この状態を放置で名乗るだと?!貴様、私を誰だと心得る?!」


 「クローズド・サークルとは何か、だと?説明してやろう。外界から隔離された閉鎖空間。つまり今、此処には私と、能無しアンポンタン王子のお前しか居ないという事」


 「誰が能無しか!!アンポンタンとは何ぞ??!いや言うな馬鹿にされている気がする!!」


 「ミステリーの女王も頭抱える完全隔離。真実はいつも一つな探偵も、じっちゃんの名にかける孫探偵も、そのじっちゃんの助けもない、そして誰もいなくなったをガチでできる。それが私のクローズド・サークルだ。覚えておけ」


 「一体誰だそいつらは?!そんな得体の知れん者共に借りなど作るものか!私はこの国の王子だぞ!」


 「黙れ小僧!!!!」


 「っっ、」


ヒカリ・ダマからとんでもない威圧が迸る。

私は王子だ。ゆくゆくはこの国の頂点に立つべき、唯一無二の美しい存在。それが私。なのに、あんな玉に怯まされ、屈しようとしている…!いやダメだ、私はこいつより上!今こそ王族の力を見せる時!!










 「そいつらも大概女好きで、あちこち目移りしては鼻の下伸ばしとるわ。だがなぁ、いざって時になると己の持ちうる能力全力駆使して、本命守ってんだよ!!なんやかんやで本気なんだよ!!テメェより全然誠実だわ!!ひれ伏せ!!堂々と浮気してます宣言して何が真実の愛だ!!!笑いか?テメェは笑いを取りに来てんのか?!」


 「……、い、イイェ…」


 「声がちいせぇ!!!」


私は今、延々と続く階段を上っている。駆け足で。

先が見えず、さりとて下も見えず……。私は何処まで駆け上がればよいのか…。もう、足が限界だ。だが此処で転がり落ちれば、私は……。

私は何をさせられているのか、だって?これはね、ダマ様が言うには、『すてあくらいみんぐ』っていう競技らしい。超たっかい塔の階段を駆け上がって頂上までの時間を競うんだって。何の為にそんな苦行を?とは、言ってはいけない。人は、何に魅力を感じ、心を奪われるか分からないものさ。

でもね、私は……。


 「も、……もう、だめで、す。ダマ様、御慈悲、を……」


 「あ?てめぇ、人の心を傷つけておいてこの程度で終わんのか?オラオラオラ、まだ頂上も見えてねーじゃねーか。婚約者いる身で堂々と裏切りかましてたあの時の余裕はどこ行ったー?あぁ?」


 「ぐふぅぅぅぅ……っっ!」


流石ダマ様、適格に精神的ダメージを与えて且つ、抉る。


 「まだ立ててんだろうがよ。本気の駄目はもう転がり落ちてんだよ。足動かせ足ぃ!!甘えなんざ捨てろ!!できねぇなら絶対に追いかけてくるアレを投入してやろうか!!」


 「イヤアァァァァァァァァ!!!!!」


ダマ様の声が本気だ…!アレは、アレは嫌だ!!生理的嫌悪が拭えない!!

私は本気で爆速した。延々と続く階段を、ひたすら駆け上る。前だけを見据えて、ただただ頂上を目指して……。

……思えば、私は今まで生きてきて、本気になった事はあっただろうか。

見た目だけではない。私は全ての能力においても、完璧だ。教えられればすぐに理解できたし、モノにできた。できない者が理解できなかった。

だからだろう。こんなにも、私が傲慢になってしまったのは。人を見下し、それでも寄り添おうとしてくれた婚約者でさえも、私は……。


 「………私は、愚か者、です」


 「そうだな。私も何度埋めてやりたいと思った事か」


 「……えぇ。うめ、え?!埋める??!」


 「まだ、まだ大丈夫と己に言い聞かせ耐え忍んでいた。そんな私の期待と希望を見事に打ち砕いてくれたな。スゲェよお前。あの時の絶望と煮えたぎる怒りを、この程度で晴らせると?許せると?各方面に多大なるご迷惑を掛けておいて、愚か者でした、の一言で片づける気か?違うよな?そんなクッソ甘い事、考えてねーよな?オラ、追加だ」


 「ひいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


階段が動き、私を下へと導き始める……!ダマ様の怒りは少しの反省程度では治まらないのだ。私ができるのは何が何でも頂上に到達し、己を見直し且つ、ダマ様に見直される事それのみ!!

私は心を無にし、ひたすら足を動かした……。







 「やるじゃねぇか」


 「…っ、――……。―――、……」


 「あ?なんて?はっきり喋れや」


なんとか到達し、起き上がる事もできず、か細い呼吸をするだけの私。そんな私を見ても、ダマ様は容赦無い。


 「私はお前と違って、約束は守る光玉だ。元の世界に帰してやるよ。その後はどうするか……お前自身でケジメをつけな。いいか、私は必ず見ているぞ。この意味、分かるよな?」


裏切ればまた、無限耐久競技をやらされるのですね分かります。私はひたすら頷いた。

白い空間が割れる。クローズド・サークルが解除されたのだ。同時に、私の意識も薄れていく。


 「あ、忘れてた。お前の真実の愛の女、お前の弟と二股かけてんぞ」


 「――……え、ええ??ちょ、ダマ様それちょっとくわしっっ」


私の意識は、強制的に遮断された。










 「……気分はどうだ、愚息よ」


 「父上…。ええ、少し声が聞き取り辛いくらいでしょうか。愚息と聞こえたような…」


 「気のせいだろう、愚息よ。……ダマ様に、お会いしたのだな。顔つきが変わっておる」


私は自室で目を覚ました。大量吐血の後、私は今までずっと眠り込んでいたらしい。

時折、苦悶に満ちた顔で呪詛のような声を発していたので、何かに取り憑かれたのではと怖がらせていたそうだ。それはすまないと思う。

見舞いに来た父の口から、意外な名が出たので私は食いついた。曰く、父も昔、ダマ様にお会いした事があるという。


 「私もな…お前と似たような事をやらかしたのだよ。その娘は平民出身だが、聖女の能力を持っていた。私は愚かにも骨抜きにされてな。お前の母を裏切ろうとしたのだ」


 「多くの目がある場所で、婚約破棄を…?」


 「いや、私はお前程愚かではなかったから、時と場所は選んだ。だが私が告げる前に、聖女がアグレッシブに動いてくれてな…」


 「アグレッシブに動く聖女とは……?」


 「修羅場になり、私は流れ弾で気絶した。その時にダマ様と出会ったのだ。そうだな……これまでにない程ボロクソになじられ、精神面を鍛えられたと言っておこう…」


 「あの……父上は、どんな苦行を課されたのですか?」


 「あぁ…。私は『さすけ』の『ふぁいなるすてーじ』だ。ひたすら、どこまでも続く綱登りをさせられた。命綱無しで」


それの御蔭で、何が起こっても動じない鋼の心を手に入れた父。到達した時は、何物にも代え難いものを得た気持ちになったという。私と父は、無言で熱い握手を交わした。母が強い理由も知った。


 「父上……私は王の器ではありません。廃嫡してください。ダマ様との苦行で出した、これが私の答えです」


 「なんと思い切りのいい…。愚息よ、お前の決意、しかと受け取った」


 「あと…、弟もあの女と繋がってましたんで、その辺もよろしくお願いします」


 「そうか。あれもいずれ、ダマ様と邂逅するであろうよ…」


王位継承権は、第三王子(まだ三歳)に移る事になった。周囲は混乱するだろうが、父と母が上手くやってくれるだろう。


 「私はこのまま城を出て……、まずは彼女に謝ろうと、」


 「それはやめておけ。破棄を受け入れ、顔も見たくないと颯爽と出て行った」


 「そ、そうですか。……では、国を出て……己を見つめ直してきます………」


 「うむ。苦労するだろうが、息災でな……愚息よ」


 「はい。……父上も、お元気で」


父は、やはり愚息と言っていた。

私はそっと涙を拭い、城を後にする。

これから先は、どうなるかは分からない。けれど、何が起ころうともダマ様の苦行に比べれば、大したことないと思える。

私は真っ直ぐ前を見て、未知なる世界へ一歩踏み出した。







 「あの美形、めっちゃ足速くね?」


 「うを、スゲェ速ぇ」





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