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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第六章 氷原
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第九十二話 リザード族

「……あら?」


ヴァルゼリナが急にぴたりと足を止め、ふわりと鼻をひくつかせた。


「……美味しいものがあるかしら……!」


そう呟くなり、彼女は嬉々として一輪の蓮のような花に近づき、そのままぱくっといきそうな勢いで口を開いた。


「ちょ、待っ──お前なにしてんだぁぁああああ!!」


陸虚は咄嗟に手を伸ばし、咄嗟に掴んだのは……ヴァルゼリナの、尻尾だった。


「きゃんっ!?」


「ちょっと待って!!!!!」


「……ふえぇ、い、痛いもん、もう……。」


陸虚はヴァルゼリナの尻尾を放し、しばらく荒い呼吸で落ち着きを取り戻すと、慎重な足取りでその花に近づいた。


「やはり千年雪蓮、なんでここに?」


「ふむ……そなた、さっきから何をそんなに慎重にしておるのじゃ? この花、そんなに貴重なものなのかえ?」


ヴァルゼリナが、興味津々といった様子で陸虚の肩越しに覗き込んできた。


「貴重かどうかって話じゃない。これは“使える”んだ。っていうか、説明してもたぶんわかんないと思うから……いいや、とにかく協力してくれ」


陸虚は手を止めずに、周囲の魔力の流れを慎重に観察しながら答える。


「協力……というと?」


「お前の火がいる。摘む時にちょっとした処理が必要なんだ。うまくやらないと、この“千年雪蓮”が一瞬で枯れちまうからな」


「ほほう、それはまた繊細な代物じゃのう……よかろう、妾の炎で手を貸してやろうぞ!」


ヴァルゼリナは得意げに胸を張ると、しなやかな指先から淡く揺らめく炎を灯した。


陸虚とヴァルゼリナの呼吸がぴたりと合い、幾重にも絡み合う魔力の流れを調整しながら、ついに――


「よしっ……取れた!」


「ふふっ、見事じゃったのう!」


二人の手の中には、まばゆい白銀の光を放つ“千年雪蓮”が、傷一つない状態で静かに咲いていた。


その時だった。


「そこの者、動くなっ!」


鋭い声と共に、周囲の茂みから武装したリザードたちがぞろぞろと現れた。彼らは陸虚とヴァルゼリナが抱えている“千年雪蓮”を見て、目を剥いた。


「盗人だ! 薬材を盗もうとしておるぞ!」


「ちょ、ちょっと待て! 知らなかったんだって! 持ち主がいるなんて思わなかったし、返すから落ち着けって!」


陸虚が両手を上げて弁解するが、リザードたちは全く聞く耳を持たず、じろじろと彼を見つめる。


「……待て、こやつ……肌の色、耳の形……これは、ア、ア人じゃない! 人間だ!!」


「な、何ぃ!? 本当か!? 人間がこんな所にいるだと!?」


「逃がすな! 捕らえろッ!!」


ざわざわと騒ぎ始めたリザードたちが、一斉に武器を構え包囲の輪を縮めてくる。


「ふふふ……妾の出番じゃな!」


ヴァルゼリナの目がぎらりと光り、両手を広げて天を仰いだ。


「解き放て、古の焔——『紅焉龍顕現』じゃッ!!」


紅蓮の光がヴァルゼリナの身体を包み込み、その姿は一瞬にして巨大な紅き龍へと変貌した。地鳴りのような咆哮が氷原に響き渡る。


「う、うおおおおっ!?」


「り、龍だ! しかもこの威圧感……ただ者じゃねぇっ!」


リザードたちは恐怖に青ざめ、その場に崩れ落ちるように地面に額を擦りつけ、全身を震わせていた。


「……くく、これぞ龍の威というものじゃ。ま、妾の力を借りずとも、そなたでは無理じゃったろうな」


ヴァルゼリナは満足げに鼻を鳴らすと、ひときわ眩い光と共に人の姿へと戻った。


「ふむ……これでは少し張り合いがなかったのう。せっかくの身体慣らしと思うたのに、拍子抜けじゃ」


「……君さ、さっきまで『妾はダメやつ』とか言ってなかったっけ……?」


陸虚は呆れたように額を押さえながら、地面に這いつくばるリザードたちを見下ろした。

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