第九十一話 幼馴染
旅の途中
陸虚はふとヴァルゼリナに尋ねた。
「ところでさ、君と氷竜王アイスって、どうやって知り合ったの?」
するとヴァルゼリナは誇らしげに胸を張って答えた。
「うむ、我ら竜族は元々仲がいいの。アイスとは生まれて500年の頃からずっと一緒に遊んでたの。あの子、妾のことが大好きで、いちばんお気に入りだった宝石をプレゼントしてくれたかしら!」
「プレゼント?まさか……」
陸虚が半信半疑で尋ねると、ヴァルゼリナの視線が一瞬泳いだ。
「え、ええ!そうよ!プレゼントよ、ちゃんと!」
「ふーん……」
なんとなく嘘くさいな、と内心で思いながらも、陸虚はあえて突っ込まず話を聞き続けた。
「で、そのあとアイスは200年かけて6級に達して、竜王の座に就いたの。妾はというと、ちょっと自分が怠けてる気がしてかしら。火山にこもって修行することにした!」
「……修行?というより、ずっと寝てたんじゃないの?」
陸虚が鋭く突っ込むと、ヴァルゼリナはバツが悪そうに目を逸らしながらむくれた。
「な、なんじゃその言い方!修行も寝るうちに入るわよ!気づいたら300年経ってただけなんだかしら!」
「……そりゃあ長い昼寝だな。」
「.......!妾だって本気出せば強いんだかしら!」
こうして軽口を叩きながら、二人は氷竜の棲む氷原へと足を進めていった。
陸虚はふと納得したように頷いた。
「なるほど、そういうことだったのか……ん? でも、そうなると百年前の大災厄って……」
「大災厄? それはなんの話かしら?」
(……そうだ、時間によると聞き逃してたのか?)
陸虚は一瞬戸惑ったが、すぐに気付く。
(なるほど、そういうことか。なら、言う必要もない。封印された歴史を口にすれば、この人まで“やつら”に目をつけられてしまう。6級とはいえ、この人じゃ……いや、ちょっと心許ない)
「いや、なんでもないさ。ちょっとした勘違いだった」
陸虚は何気ない様子で言葉を濁した。
「それより、目的地はもうすぐか?」
ヴァルゼリナは足取り軽やかに歩きながら振り返った。
「ふふん、もうすぐよもうすぐ。そろそろ着くはず──」
ドンッ!
「いったぁああっ!?!?」
突如として何かにぶつかった音と共に、彼女は額を押さえてその場にうずくまった。
「な、なによこれっ……」
陸虚は一歩前に出て、静かに空中を撫でるように手を伸ばす。
「……結界か。けっこう強い魔力だな……」
その様子を見たヴァルゼリナは、むくっと立ち上がると結界に向かって両拳をドンドンと叩き始めた。
「ちょっとアイス! アンタこんなやり方で客人を迎える気!? さっさと出てきなさいっての! あと、美味しいもの全部用意しておきなさいよねー!出さないと帰らぬ!!」
陸虚はこめかみを押さえながら、深いため息をついた。
「……頼むからやめてくれ。恥ずかしいから……」
ヴァルゼリナはまだ額をさすりながら、結界をじっと睨みつけていた。
「ふん……こうなったら仕方ないわね。ちょっとブレスの一発でも──」
「待て待て待て待てぇええぇっ!!」
陸虚は大慌てで彼女の前に飛び出し、両手を広げて止めに入った。
「お願いだから落ち着いてくれ! あんた何考えてんの!? これ、7級の結界だぞ!? 一発でも攻撃したら、反動で僕たち丸ごと吹っ飛ぶんだよ!? 僕はまだ死にたくないんだってば!」
「……ふーん、そんなに言うならやめてあげる」
ヴァルゼリナは渋々腕を下ろすと、ふと困ったように首を傾げた。
「それで? どうすんのよ、結界開かないならここから先には進めないじゃもん」
「それこっちのセリフなんだが!? “氷竜王とは昔から仲が良い”って、さっき自分で言ってなかったっけ?」
「えー……だって、前に来たときはこんなのなかったもの~。それに……」
彼女はお腹をさすりながら、しれっと言い放った。
「お腹空いたかしら。なんか食べたい……」
「……」




