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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第六章 氷原
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第八十七話 平和な日常生活?

 小花の錬成が成功したことで、他の三つの学院も順々に帰路についた。


カミロ校長はもう言わずもがな、すっかり陸虚とも仲良しで、最後まで名残惜しそうに手を振っていたし、


メリー校長も「時間があれば、ぜひうちの学院にも遊びに来てね」と優雅に笑っていた。


そしてアモロン校長はというと、なぜか妙にニヤニヤしながら陸虚に耳打ちしてきた。


「実はさ……アウロラ錬金魔法学院で、ちょっとした“ビッグプロジェクト”を進めてるんだ。君にもぜひ協力してもらいたいと思ってね。」


「ビッグ……プロジェクト?」


首をかしげながらも、陸虚は興味津々の表情で笑った。


「で、そのプロジェクトって、具体的にどんな内容なんですか?」


そう聞いた陸虚に、アモロン校長は口元をにやけさせながら──


「それはね、ナイショだよ。君が学院に来た時のお楽しみってことで。」


「……」


呆れたようにため息をつきつつ、陸虚は足元にすり寄ってきた例の茶トラ猫をぽんぽんと撫でた。


普段ならシャーッと威嚇してくるくせに、今日はやけに大人しい。これも“小花効果”ってやつだろうか。


その後、陸虚はみんなに別れを告げ、日常へと戻っていった。


──オレリスに戻った陸虚は、オグドン校長が主導する「学院財政立て直し計画」に正式に参加。


彼の担当は、毎月一度の「高級丹薬の錬成」。


それらは公侯貴族に高額で売られ、その収益で学院の台所事情は劇的に改善された。


おかげでオグドン校長も久々にゆっくり自分の研究に没頭できるようになり──


こうして、しばしの間、陸虚の穏やかな日々が始まったのだった。


平穏な日々が続く──はずだった。


だが、予想外の出来事というのは、いつだって突然やってくるもので──。


昼下がり、家で昼寝をしていた陸虚は、突然の激しいノックの音で目を覚ました。


「……誰だよ、こんな時間に……」


眠そうに扉を開けると、そこ站っていたのは息を切らしたミリナだった。


「ミリナ?君、兄さんやシフ教頭と一緒に王都に戻ったんじゃなかったのか? どうしてまた……?」


「陸先生……!お願い、叔父様を助けて……っ、シフ叔父様が……!」


ミリナは涙声で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


陸虚は一瞬驚いたが、すぐに表情を引き締めた。


「落ち着いて、ミリナ。シフ教頭がどうしたんだ? 順を追って話してくれ」


「叔父様……ひどく怪我して、今はティアリアに……校長が、陸先生を呼んでって……!」


「リセルには知らせたのか?」


「次兄は先に向かいました……!」


「わかった。なら、僕たちもすぐ向かおう」


そう言って、陸虚はミリナと共に急ぎ足で学院へと向かった。


ティアリアの上層にたどり着くと、そこには人の姿となったティアリアをはじめ、校長、リセル、カミラの姿があった。


彼らは皆、ベッドに横たわり意識を失っているシフ教頭の周囲に集まっていた。


陸虚の姿を認めると、皆が無言で道を開ける。


静寂の中、陸虚はシフ教頭に近づき、彼の胸に手をかざして魔力の流れを探る。


「……これは……」


陸虚の眉がぴくりと動く。


シフ教頭の体内を巡る魔力は異常に乱れており、まるで複数の火属性が衝突し合っているようだった。

そんな中、オグドン校長が重々しい声で言った。


「陸先生……どうだ? シフの症状は非常に特殊で、私でも軽々しく手を出せなかったのだ……」


しばらく沈黙が続いた後——


陸虚はゆっくりと首を横に振りながら、低く呟いた。


「……毒火どくかだ。」


「毒火?」


校長が驚いたように聞き返す。


陸虚は頷きながら、慎重な口調で説明を続ける。


「非常に珍しい異火の一種です。実際に見たことはありませんが……文献によると、その特徴とシフ教頭の症状は完全に一致しています。」


オグドン校長が眉をひそめる。


「詳しく説明してくれないか。」


陸虚は目を細め、シフ教頭の胸元に視線を落とした。


「この毒火、普通の人にとってはそれほど強力なものではありません。多少触れても、簡単に浄化できる程度です。しかし……火属性の魔力を持つ者にとっては別。特に、シフ教頭のように強化された炎魔法の使い手には、これは“死”と同義です。」


「……なぜだ?」


「この毒火は、魔力の根源そのものを汚染するんです。」


陸虚の声が低くなる。


「今、教頭の体内の魔力は……時間が経てば爆発する、時限式の爆弾と化しています。」


陸虚の言葉を聞き終えたオグドン校長は、しばし考え込んだ後、ふと何かを思いついたように手を差し出した。


「……なるほど。ならば、純粋な木属性の力で、毒火の拡散を一時的に抑えられるはずだ。」


そう言うと、指先に緑の魔力を集中させ、小さな奇妙な植物を具現化させてシフ教頭の枕元にそっと置いた。


するとどうだろう。


先ほどまで暴走していた魔力が、徐々に穏やかに、静かに落ち着いていくのが感じられた。


「……さすがです、校長。」


陸虚は感心したように頷いた。


「ですが――抑えることはできても、治すには“極寒の力”が必要です。」

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