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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第八十六話 煉丹

 その圧倒的な霊気に反応したのか、さきほどまで白目をむいて倒れていたオグドン校長が、ゴホッゴホッと咳き込みながら意識を取り戻した。


「……こ、ここは……ああ、できたのか……やっと……やっとか……」


彼はふらりと上体を起こし、小花から放たれる玄妙な気配を感じ取り、安堵の息をついた。


だが、その表情には疲労の色が濃く残っている。白髪は乱れ、肌はやつれ、まるで燃え尽きたかのようだった。


その姿に、陸虚は思わず眉をひそめる。


「オグドン校長……」


胸が痛んだ。これまで彼がどれだけ尽力してくれたか、陸虚にはよく分かっていた。


「そうだ……今なら……!」


ふと、陸虚の頭に閃きが走った。


「……鼎は完成した。材料もある。なら――今、ここで丹を煉成すればいい!」


彼はそのままくるりと振り返り、集まった四人の校長たちに笑顔で言った。


「ちょうどいいです、皆さん。せっかく小花ができたんです、使い心地を……お見せしましょう」


そう言って、左手を軽くひと振り。


「――起焰(きえん)。」


シュッと音を立てて、澄んだ紅蓮の火が空中に咲いた。火焰はまるで精霊のように揺らめきながら、小花鼎の底に滑り込む。


陸虚はそのまま、準備していた材料を一つずつ丁寧に投入していく。


小花の内部は、既に小花によって導霊の陣式が起動しており、陸虚はただ火加減と流れを整えるだけでよかった。


それは、まさに“人と鼎の一心同体”。


オグドン、アモロン、カミロ、メリー――誰もが黙ってその様子を見つめた。


そして、二時間後。


ふわりと香る、瑞々しくも清らかな草木の香り。


「……できた」


陸虚は蓋を開け、湯気の中から取り出したのは――鮮やかな緑に輝く一粒の丹薬。


命そのものが凝縮されたかのような、生気に満ちた珠。


陸虚はそれを持ってオグドンの前へ進み、にっこりと微笑んだ。


「校長先生、どうか召し上がってください」


「……え? ワシに……?」


「はい。オグドン校長のために作った丹薬です。受け取ってください」


しばし躊躇したあと、オグドンは静かに頷き、丹薬を口に運んだ。


――そして、奇跡が起きた。


その身に流れ込んだ生気が全身を駆け巡り、オグドンの白髪がみるみるうちに艶やかな黒に染まり、やつれていた頬がふっくらと戻っていく。


「なっ……!」


メリーが思わず声を上げ、カミロが目をむく。


アモロンは額に手を当てながらポツリと呟いた。


「……若返ってる……? いや、これはこれって、すり減った本源が戻ったってことか?……」


オグドン本人も自分の髪に触れ、鏡代わりの水面を覗き込んで、ぽかんと口を開けた。


「こ、これは……ワシ……なのか……?」


陸虚は軽く笑った。


「校長、これからは無理せず、ちゃんとお身体を大事にしてくださいね」


小花の火焰がゆらりと揺れて、まるで満足げに喉を鳴らす猫のように、ほのかに「ニャー」と鳴いた――ような気がした。


丹薬の錬成を終えた小花は、再び三毛猫の姿に戻った。見るからに疲れた様子に、陸虚はそっと陰陽金丹の本源霊力を取り出して、小花に与えた。


「よく頑張ったな、小花。」


小花は


「にゃあ」


と鳴きながら陸虚の手の中で気持ちよさそうに目を細める。その光景を見ていた他の三人の学院長たちは、あからさまに羨ましそうな視線を送っていた。


そんな三人を一瞥した陸虚が、少し悪戯っぽく微笑んで言った。


「この『帰元丹(きげんたん)』は、消耗しきった本源を補うための薬ですから。皆さんのように本源に問題がない方が飲んでも、あまり意味はありませんよ。」


三人の学院長は顔を見合わせ、バツが悪そうに乾いた笑いを漏らす。


そのとき、メリーがどこかそわそわした様子で口を開いた。


「オグドンが言ってたんだけど……あなた、若さを保つ丹薬も作れるって本当?」


「作れなくはないですよ」


と陸虚は軽く頷いた。


「でも今日は小花がかなり疲れていますからね……。そうですね、メリー校長がオレリスを発つまでには、きちんと錬成してお渡しします。」


「……ありがとう。」


メリーはどこか安心したように小さく微笑んだ。


再び小花を抱き上げた陸虚は、隣のオグドンに向き直って言った。


「小花は、僕と一緒にいるうちにどんどん強くなっていきます。いずれは外錬金丹の成功率も、ぐっと上がるはずです。」


オグドンは満足そうに頷いて、静かに答えた。


「……陸先生以上の主人なんて、いないさ。」


そのとき、小花が陸虚の腕の中からふっと身を翻し、ぴょんっと床に飛び降りた。


「ん?小花?」


陸虚が首を傾げる間に、小花はすたすたと歩いていき――アモロンの膝の上にいる、あのいつも不機嫌そうな茶虎猫の前でぴたりと止まった。


そして――じぃーっ。


小花はまるで初めて見る生き物のように、茶虎猫の顔をまじまじと覗き込んだ。対する茶虎猫はというと、いつもの威嚇の「フーッ」もせず……ただその場で固まっている。


「……動かない?」


アモロンが目を丸くして言った。


「こいつが他の動物にフーしないの、初めて見たな。……これが“天敵”ってやつか?」


アモロンのひと言に、場の空気が緩む。


「ぷっ……」


「はははっ……!」


どっと笑いが起き、さっきまでの緊張も吹き飛ぶような空気になった。


小花はというと、満足げに「にゃーん」と一声鳴くと、今度は茶虎猫の横にぴたりと座り込んだ。まるで王者のような風格すら感じさせるその姿に、皆が再び笑い声をあげた。

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