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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第八十四話 煉器

大試合は幕を下ろしたものの、他の三大魔法学院は「学術交流」の名目で、引き続きオレリスに一ヶ月くらいの滞在を申し入れた。


その裏では、四人の魔導師たちが連日顔を揃え、一つの目的に向かって――「鼎」の錬成に取り組んでいた。


そして、陸虚はその間ずっと、ティアリアの根元にある結界の中で、静かにその“進化”の兆しを見守り続けていた。


──四十九日目の夜。


ティアリアの上空に、ついに重たく黒い雲が湧き始める。まるで空が押し潰されそうなほど、濃密な雷雲だ。


陸虚は静かに呟いた。


「……劫雲(こううん)、来たか。ついに、“その時”が来たんだな」


それは、上位の法宝(ほうほう)が完成する直前に降りかかる“天の審判”――天劫。


法則が含まれた威力は全力でその法宝を潰れている


だが――


「……もし落ちてくるなら、僕が代わりに受け止める」


陸虚の目に一切の迷いはなかった。必要であれば、彼は全ての雷をその身で引き受ける覚悟があった。


──しかし、次の瞬間。


雷は……来なかった。


黒雲は、天の頂を覆い尽くしたかと思えば、まるで潮が引くように音もなく静かに消えていった。


「……失敗、か?」


陸虚は眉をひそめる。


だがその直後、ティアリアの頂きから、まばゆい七色の光が放たれた。


七条の光は、まるで天空の階を刻むかのように、ひとつひとつ異なる法則の痕跡を纏いながら、夜空を染め上げていく。


「……七道? まさか……」


陸虚は、思わずその場で呟く。


先天(せんてん)……霊宝(れいほう)……っ!」


それは、ただの法宝などではない。


“世界の理”に選ばれた、天地に一本しか存在しない究極の存在。


複数の珍宝で作ったの鼎は、ついに――


「……完成した!」


陸虚は顔を上げ、風にたなびく外套を翻しながら、一直線にティアリアの樹頂へと駆け出した。


しかし――部屋に入った陸虚を迎えたのは、


期待に満ちた歓声でも、成功を称える拍手でもなかった。


そこにいた四人の魔導師たちは、なぜか全員そろって気まずそうな顔をしていた。


オグドン校長でさえ、腕を組んで目を伏せたまま、何も言おうとしない。


「……え? どうしたんですか?」


陸虚は思わず立ち止まった。だが次の瞬間、


足元に一匹の三毛猫がすり寄ってきた。


「お、猫?」


陸虚は反射的に猫を抱き上げながら、テンションを切り替えて言った。


「でも、すごいですよね! 僕、外にいても分かりましたよ。あれは確かに“成功”の気配でした!」


そう言って、彼は猫を片手にアモロンの肩をポンポン叩いた。


「アモロン校長! さすがは“アウロラ錬金魔法学院”! 先天霊宝まで錬成できるなんて……もう、百聞は一見に如かずってやつですね!」


満面の笑みで言う陸虚に、アモロンは顔を手で覆いながら、なぜか一言も返さなかった。


「え? ……ちょっと待って? まさか失敗したんですか?」


急に不安になった陸虚は、腕の中の猫を見下ろしながら首を傾げた。


「そんなはずは……あの“霊宝の波動”は確かに感じた。じゃあ、どこに……?」


彼は慌てて視線をオグドンに向けた。


「オグドン校長、まさか本当に……?」


オグドンは椅子にどっかりと座ったまま、腕を組んで目を閉じていた。


何も答えない。


――その沈黙を破ったのは、アモロンだった。


彼は、深いため息をつきながら、指を一本――陸虚の腕の中へと差し向ける。


「……それだ」


「え?」


陸虚はキョトンとしながら、自分の腕の中を見下ろした。


三毛猫は、ふにゃっとした顔で「にゃー」と鳴き、


尻尾をフリフリと振っている。


「……これが、鼎?」


陸虚はじっと猫を見つめた。


「…………………………うん?」


陸虚は言葉を失い、そのまま固まった。

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