第八十二話 リブイ先生の逆転
一方その頃、もう一つの決勝戦も最終局面を迎えていた。
リブィ先生 vs アウロラ錬金魔法学院の造物教師。
派手な攻撃魔法こそ不得手だが、緻密で繊細な木属性魔法の使い手――リブィは、場にある植物を瞬時に操り、根と枝と蔦を編んで相手をがんじがらめに縛り上げた。
「……これはもう決まったな」
オグドンが満足そうに頷き、隣のアモロンに手を伸ばした。
「さあ、出してもらおうか。機械の心臓」
「ちょ、ちょっと待て!」
アモロンが焦って叫ぶ。
「まだ決着はついてないだろう!?」
「いやいや、もう見るまでもないよ。我がオレリスの教師、どっちが勝っても――総合点では一位。君の造物は優秀だったが、今回は僕たちの勝ちってわけだ」
「くっ……だが、並んだだけじゃ意味ないぞ。お前ら、最初に言ってたじゃないか。『一位』って! 並んでたら、それは“勝ち”とは言わねぇだろ!」
「いいじゃないか、同率一位だって十分すごいぞ」
カミロが笑って肩をすくめる。
「お前……オグドンの勝ちを期待されそうだ…まさか……」
アモロンが目を細める。
「お前もオグドンとグルだったな? 最初からこっちを嵌める気だったんだろ!? ったく……やっぱり怪しいと思ってたんだよ、お前ら二人で妙に話を合わせてさ……」
「さてさて……でも、僕だって無策でここに来たわけじゃないよ?」
アモロンがニヤリと笑う。
「……ふっ、俺がこのまま何もせずに終わると思うなよ。こっちだって“奥の手”は残してあるんだ」
「言っただろう? こっちはまだ手を残してるってさ――!」
アモロンの号令と同時に、フィールド中央に立つ造物教師の身体が、ギィィ……と異様な音を立てて変形を始めた。
重厚な装甲が一枚、また一枚と剥がれ落ち、その下から現れたのは――
「えっ、同じ顔……?」
観客席からどよめきが走る。
そう、現れたのは先ほどルクスと戦った“マークW”とまったく同じ顔をしたもう一体の造物だった。
「ふっふっふ、驚いたか? こいつは“マークM”! 我がアウロラ錬金魔法学院が誇る双子造物! WとMで完全なシナジーだ!」
アモロンが得意満面で両手を広げると、マークMが目を赤く光らせ、轟音と共にリブィの植物の蔦を力任せに引きちぎり始めた。
「や、やばい……!」
リブィが慌てて後退しながら、防御の木壁を次々と立てるも、マークMの鋼鉄の拳はそれを次々粉砕。
リブィは逃げ回るしかなく、完全に劣勢に追い込まれていく。
「ハーッハッハッハ! さあ、オグドン! さっきの威勢はどうした? そろそろ俺に“琥珀”を差し出す時間じゃないのかぁ?」
「……はぁ……」
オグドンがため息をつき、ぽつりと呟いた。
「本当はもう少し秘密にしておきたかったんだけどなあ……仕方ないか」
そう言って立ち上がり、場内拡声で一言。
「リブィ先生、もういいよ。“本気”を出してくれ」
その言葉を聞いた瞬間、逃げ回っていたリブィの動きがピタリと止まる。
「――了解しました、校長」
リブィが静かに呟き、地面に手を当てた。
ぶわっ、と空気が震え、魔力の波動が一変する。
「なっ……これは……!」
大地が割れ、巨大な根が隆起する。そして次の瞬間、大地から生え出るようにして、全身を木と樹皮に包まれた巨人が姿を現した――
「木の奥義、《森王樹ヴェルドラ》、召喚!」
その巨体はマークMを軽々と持ち上げ、バキバキと音を立てながらブン投げ、地面に叩きつける。
「うおおおおおお!?」
観客席にいた陸虚は、ノアからもらった水を思い切り吹き出した。
「げほっ……っ、な、なに!? リブィ先生って、奥義魔導士だったのかよ……!」
シオンも目を丸くしながら、口を手で覆う。
「信じられない……あのリブィ先生が……まさか……!」
こうして――
今回の教師試合は、まさかの結果で終わった。
勝者は、歴代下位常連だったオレリス魔法学院。




