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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第八十一話 陸虚の試合

「第一試合、オレリス魔法学院・陸虚 対 メイヴレーナ融合魔法学院・メヴィア――!」


アナウンスが響き渡り、試合場に雷鳴が轟くような期待のざわめきが広がる。


「ふふ、坊や……顔がいいわね。そんなに可愛いと、姉さん、つい甘くなっちゃうかも?」


水龍族の魔導士・メヴィアが、涼やかな笑みを浮かべながら手をひらひらと振る。


美しい蒼髪と揺れる鰭耳が観客の視線を引きつける中、陸虚は微笑んで応じた。


「お褒めいただき光栄です、でも――手加減なんていりませんよ」


「へぇ、やる気満々じゃない。なら、姉さんも遠慮なく……!」


試合開始の合図とともに、メヴィアの周囲に巨大な水柱が巻き起こる。


宙に浮かぶように身を委ねると、手から無数の水刃が放たれた。


「《波刃乱舞(はじんらんぶ)》!」


空間を切り裂くような鋭い水の刃が、陸虚の周囲を一気に包囲――だが、瞬間。


「……遅い。」


バチッ、と音を立てて陸虚の足元から雷光が走る。


水刃が触れる寸前、彼の身体は稲妻のように消えた。


「《雷歩(らいぽ)》……!」


「.......? 消えた?!」


メヴィアが目を見開くと、背後から雷の轟きが迫る。


「《陰陽雷(いんようらい)雷閃(らいせん)》!」


ドン、と空間が震えた。


雷撃が渦を巻き、メヴィアの結界が激しく軋む。彼女はすぐさま水の盾を張る。


「《深海の壁》!」


水の防壁が展開され、雷光を飲み込む――が、次の瞬間その防壁が真っ二つに割れた。


「な、なに……!? 高級魔法?大魔法使いじゃない……魔導士……?こんな年?」


雷光に混ざる不穏な陰気。それはまさに、極限の静寂と爆発を併せ持つ異質の雷。


メヴィアが怯む一瞬の隙を突き、陸虚は雷を纏った拳を振るった。


水龍族の鱗に覆われた腕と雷の拳がぶつかる。


激しい衝撃の中、メヴィアは大きく吹き飛ばされ、地面に膝をついた。


「ぐっ……っはは、強いわね。さすが雷属性の魔導士、こりゃ、姉さん完敗かも……!」


その瞬間、アモロンは椅子から勢いよく立ち上がった。


「なっ……ありえん! あの子……まさか魔導士だと!?」


オグドンはにこにこと微笑みながら、口元に手を添えて言った。


「さて、もう試合は始まってますからね……今さら反悔はナシですよ、アモロンさん?」


「これは今まで隠れた原因が……ぐっ……!」


アモロンはしばし言葉を詰まらせた後、渋々と席に腰を下ろした。


「魔導士だろうがなんだろうが……うちの教師が負けるとは限らん!」


勝者組に進出した陸虚の次なる対戦相手は、アウロラ錬金魔法学院の教師だった――いや、見た目は人間に見えるが、よく見るとそれは人ではなかった。


「ふっふっふ、見たかオレリスの皆さん! これぞ我が学院の最先端造物教師、《マークW》! 9核魔導士級の戦闘能力を持ち、授業では秒単位の計算力で生徒を導く完璧な教師だ!」


アモロンが得意げに胸を張って紹介する。


「へぇ、なるほど。造物なんだ? ……あれ、それって教師じゃなくて“道具”なんじゃないの?」


と、オグドンがニッコリとしたまま、意味深な一言を放った。


「ご、誤解だ! あれは立派な教師だとも! 講義機能も備えてるし、生徒からの評価も高いし、全自動で点呼もできるし……!」


慌てて言い直すアモロンだったが、オグドンの落ち着きぶりに、内心で冷や汗をかいていた。


(な、なんだこの老木……まったく動じてないぞ……!? )




「決勝試合、オレリス魔法学院・陸虚 対 アウロラ錬金魔法学院・マークW」


アウロラ錬金魔法学院が誇る自律型造物教師――マークW。その腕部に仕込まれた多重魔導砲が唸りを上げ、次々と雷鳴のような爆音を響かせながら、陸虚へと猛攻を浴びせる。


「……っ、速い上に威力も規格外か……!」


陸虚はギリギリのタイミングで防御を展開しつつ、戦場を飛び回る。だが、機械的精密さをもつマークWの追尾砲撃は隙を与えず、雷系の結界すら穿ちかけていた。


「このままじゃジリ貧だな……なら――」


彼の瞳が光を宿す。瞬間、周囲の空気がビリビリと震えた。


「――《奥義・陽雷龍(ようらいりゅう)》!」


彼の背後から陽光の如き金色の雷がうねり、龍の形を成して天を駆ける。巨大な雷龍は咆哮と共にマークWに突進し、その身を包み込んだ!


轟音と光の閃きが戦場を覆い、一瞬、全てが静止したかに見えた――


観客席の上段、アモロンが、椅子の背もたれにどっかりと体を預けながら話した。


「……ったく、よく隠してたもんだな、オグドン、まさかシフに続いて、もう一人“奥義魔導士”がいたとはな。」


隣のオグドンはにこにこと茶を啜っているだけで、何も言わない。


アモロンは苦笑から一転、勝ち誇ったような顔を見せた。


「――だが、想定外のカードを切ったって無駄だぜ。よりによってあの若い先生の奥義が“雷属性”。うちの造物教師マークWには最も通じない相手だ。はは、運が悪かったな!」


その言葉に、メリーとカミロも「確かに……」と頷きながらも、どこか含みのある視線で陸虚のフィールドを見つめていた。


オグドンはやはり黙って微笑んでいた。


「……未だ機能正常。破壊力、閾値以下。」


煙の中から現れたマークWは、ほとんど無傷で立っていた。


「雷に耐性があるのか……それとも造物特有の絶縁構造か。なら、奥義すら通じないってわけだな……」


だが、陸虚は口元をわずかに緩めた。


「……でも、奥義は囮だよ。こっちが本命だ――」


掌の中に浮かび上がったのは、黒と白が渦を巻く不安定な魔力。


「《陰陽(いんよう)混沌斬(こんとんぜん)》」


陰と陽、静と動、相反する力を無理やり重ね、極限の不安定状態で放つ一撃。陸虚が編み出した、“未完成”の規則干渉型魔法。


「……!?」


わずかな一閃。


それは雷でも、炎でも、土でも、水でもなかった。


光と闇、陰と陽、その両極を内包しながらも、何か“それ以上”の――世界の底に触れるような気配。


その刹那、マークWの演算回路が悲鳴を上げた。


「エラー……演算不能……システム、崩壊……!」


混沌の斬撃がマークWを貫いた瞬間、外装が裂け、内部の魔導機構がスパークを上げながら崩壊していく。


「戦闘不能を確認。勝者――オレリス魔法学院、陸虚!」


場内が沸き立つ中、陸虚は肩で息をしながら呟いた。


「……今の、まさか……」


メリーが思わず口元に手を当てた。


カミロの表情からも、いつもの余裕が消えていた。


「……あれ、ただの魔法じゃねぇな。おいおい、まさか“規則の領域”に踏み込んでやがるのか?」


「まだ未完成……いや、未成熟だが……確かに、あれは――」


アモロンが眉をひそめ、口元を噛む。


そして最後に、オグドンが目を細めて静かに呟いた。


「……やれやれ、とうとうここまで来たか。僕が育てたってわけじゃないけど……ちょっと誇らしいね」

四人の魔導学院長が、言葉を失いながらも同時に感じていた。


――これはもう、“ただの大魔法使い”ではない。

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