第七十八話 四大学院
一週間後
オレリス魔法学院――試合開幕を前に、その門前はかつてないほどの熱気と活気に包まれていた。
「わっ……すごい人……!」
学院の正門前、通学生の一人が思わず声を上げた。
普段は静かだった石畳の通路が、まるでお祭りの縁日さながらの賑わいを見せていた。四大魔法学院の生徒・教師・関係者たちが続々と到着し、それぞれの個性を煌めかせている。
まず目に入るのは――
アカデミア・カラン魔法学院。
黒と紅を基調にした制服の生徒たちは、全員が背筋を伸ばし、整列して行進してくる。まるで軍隊のような統率の取れた歩調と無駄のない動きに、周囲の視線が自然と集まる。
「おぉ……あれが噂のカランか。聞いただけで胃が痛くなるわ……」
「でもカッコいいよな。戦うための学院って感じだし……」
続いて到着したのは――
アウロラ錬金魔法学院。
荷車や浮遊式の魔導装置を引き連れ、背中には巨大な薬瓶や機械装置を担いだ生徒たち。装備のせいで一見ごちゃついて見えるが、各人の目は理知的な光を宿している。
「ねえ、あの背中で光ってるやつ……あれ、自動調合装置じゃない?」
「マジか……魔法じゃなくて装備で勝つ気かよ、アウロラらしい……」
彼らの足元には小型ゴーレムや自走式錬金箱がついてきて、道ゆく人の足を何度も止めていた。
そして――
メイヴレーナ融合魔法学院。
彼らの行列は、まさに多種多様。クラブマン、マーロック、リザードマン、バードフォーク、セイレーン、ロブスタリアン、さらには人魚の車椅子型魔法装置に乗った海族までもがいる。
「わあ……! 本当にいろんな種族が……」
「えっ、あれ本物の人魚!? すげぇ、初めて見た!」
種族間の壁を越えて肩を並べる彼らの姿は、まさに「融合」の象徴。中には魔力の波動が種族ごとに異なり、観る者を圧倒するような輝きを放っていた。
そして、最後に――
主催校オレリス魔法学院。
すでに学院中に張られた特製結界が、全体を優しく包み込んでいる。木造の校舎の間に飾られた彩旗が風に揺れ、生徒たちは慌ただしく来賓を案内しながら、緊張と誇りを胸に動き回っていた。
中央広場には既に四校の巨大な紋章が揃い、開幕式を待つのみ。
「これが……五年に一度の四学院試合……!」
「……やっぱり、俺たちの学院って、すげぇんだな」
その時、遠くからドン、と何かの爆発音が響いた。
「アウロラのやつ、また試験装置暴発させてる……!」
「メイヴレーナのセイレーンがカランの子と口論始めたぞ……!」
どこもかしこも騒がしく、どこを見ても事件の香りがする。それでも、どこか誰もが楽しげだった。
まるで、これから始まる壮大な物語の第一章のように――。
オレリス魔法学院の主会場。
見上げるほど高い観覧席の最上段には、帝国四大魔法学院の校長たちが一堂に会していた。まるで空の上に築かれた王座のようなその場所からは、数千人の観衆で埋め尽くされた会場全体を見渡せる。言葉こそ交わされていないが、そこに座する四人が放つ魔力の気配だけで、空気は一気に張り詰めた。
最初に姿を現したのは、オレリス魔法学院校長、「世界樹の代弁者」オグドン。木属性の魔導師であり、長い白髪を肩に垂らし、緑の葉と蔓で編まれた法衣をまとっている。その佇まいはまさに森の賢者。席に着くと静かに目を閉じ、まるで地の深奥に広がる魔力の流れすら感じ取っているかのようだった。
続いて現れたのは、アカデミア・カラン魔法学院の校長、「熔炉」の異名を持つ火属性の魔導師カミロ。赤銅色の戦衣を身にまとい、炎のように逆立つ赤髪をなびかせながら堂々と現れる。ドワーフ種族ので背が低いが、座るだけで周囲の温度が上がったように錯覚させる熱気を纏い、見る者すべてに圧倒的な存在感を刻み込んだ。
三人目は、ひときわ異彩を放つ上品な老人。アウロラ錬金魔法学院の校長「移動城塞」の異名を持つ土属性の魔導師アモロン。彼は肩から腰にかけて、奇妙な錬金装置や不思議な機械仕掛けをこれでもかと装備し、頭にはふてぶてしい顔つきの大きな茶虎猫が乗っている。その猫は来場者の視線に「ハァーッ」と威嚇する始末。アモロンはそれに慣れた様子で鼻を鳴らし、「静かにせい、ワシの昼寝の邪魔だ」とぶつぶつ呟いた。
最後に登場したのは、まるで貴族の舞踏会から抜け出してきたかのような一人の女性。メイヴレーナ融合魔法学院の校長、「水龍巻」の異名を持つ風・水の二属性魔導師メリー。年齢こそ他の三人と変わらないはずだが、その容姿は若々しく、身のこなしには優雅な気品が溢れていた。青銀の魔導ローブをひるがえしながら微笑をたたえ、軽やかに席に着くと、他の三人に丁寧な一礼を送った。
こうして、帝国の最強人間を代表する四人の魔導師が揃い踏みした瞬間、会場全体がざわめきに包まれた。




