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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第七十四話 アラセリアとシオン

「……これが、今回の素材です」


陸虚は、慎重に包んだ“白玉”を校長の机の上に置いた。


オグドン校長はそれをじっと見つめ、そして微笑む。


「よくやった、陸先生。これで鼎の準備は万端だ」


「……いえ、そんな……」


「だが――」


校長は一瞬声を潜め、椅子から身を乗り出してきた。


「……実は、この試合の前に陸先生に頼みたいことがある」


「……なんです?」


校長は周囲を見回し、小さな声で陸虚の耳元に顔を寄せる。


「――実はな……」


(……!?)


陸虚の目が見開かれた。


「そ、それはちょっと……」


後ずさりしながら、思わず声をあげる。


「それ……本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫大丈夫!」


オグドン校長はニッコリと笑いながら、胸を叩いた。


「ああしなきゃ、あの古狸ども、絶対に宝物庫を開けやしないからな」


「……そ、そういうものなんですか」


「そういうものだ」


「……分かりました。校長がそう言うなら、従います」


(なんか、嫌な予感しかしないんだけど……)


陸虚は内心でため息をつきつつも、渋々うなずいたのだった。




一方、エルフの里。


シオンは、陸虚から送られてきた純陽素材を手に、王宮の研究室で大規模浄化陣のテストを続けていた。


だが──思った以上に進展は芳しくない。


「……はぁ」


椅子に腰掛けたまま、シオンはぼんやりと天井を見上げた。


脳裏には、どうしてもあの男の顔が浮かんでくる。


(……帰ろうかな、いったん)


頬がほんのりと赤く染まる。


だがすぐに首を振って打ち消す。


(……ダメ、まずはこの浄化陣の完成が先。最低限、これを仕上げてからじゃないと)


そう決意したその時だった。


──隣の部屋から、不穏な魔力の波動が走った。


シオンの目が鋭く光る。


これは、女王陛下の私室からだ──しかも、この波動……知らない。


(……妙ね。あそこには誰も入るはずがないのに)


即座に立ち上がり、静かに扉を開ける。


そして、目に飛び込んできたのは──


黒い肌のエルフが、セリス女王の背後からその身体を両腕でがっちりと抱き締めている光景だった。


シオンの表情が一瞬で引き締まった。


目の前の存在から感染者特有の瘴気は感じられない。だが、その外見──明らかに、感染を受けたエルフ。


(感染者……?でも、魔力の質が違う……!)


シオンは頭を高速で回転させつつ、ポケットの中で陸虚から託された符をそっと指先に挟んだ。


その動きを察知したのか、黒皮のエルフが振り返り、まるで面倒くさそうに言った。


「お嬢ちゃん、その手、やめといたほうがいいよ。動いたら──この子、食べちゃうよ?」


そう言って、ぐっと顔をセリスの耳元に近づける。


シオンの顔が強張る中、セリスが慌てて声を上げた。


「こ、叔母上、もう冗談はやめてくださいっ……!」


黒皮のエルフ──アラセリアは、ふわりとあくびをして肩をすくめた。


「ちぇー、ノリ悪いなあ。ちょっとからかっただけじゃん。あんた、昔はさぁ──」


「それ以上はダメっ!」


セリスが慌ててアラセリアの口を手でふさぐ。


「ご、ごめんなさいシオンちゃん。この方は、わたしの叔母上なの。数年前に感染して姿を消して……私たち、ずっと……」


「──死んだと思ってたんだろ?」


話の続きをアラセリアが勝手に受け取って言い放つ。セリスは気まずそうに視線をそらすと、話題を変えるように言った。


「でも……それも、陸先生が助けてくれたおかげなの。あの方が送ってくれた符で、叔母上は今だけ汚染を遮断して、こうして戻ってこられたの」


シオンは思わず眉をひそめた。


陸虚の名前が出ただけで、胸の奥がざわつく自分に気づき、そっと唇を引き結ぶ。


それを見逃すアラセリアではなかった。にやにやと笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。


「ふーん? なんか顔赤くない? もしかして……もしかしてぇ……♪」


「……な、なんでもないですっ」


焦ったように答えたシオンに、アラセリアはわざとらしくため息をついた。


「助かったのよねぇ〜、ダーリンのおかげで。もう、ほんと感謝しかないわ。暗いところばっかりだったから、今こうして自由に動けるのも――全部、ダーリンの……お・か・げ♡」


「……ダーリン、って……」


シオンの目がぴくりと反応したのを見て、アラセリアはしたり顔でふっと笑った。


「どうしたの? もしかして君も、ダーリンのこと好きだった? あ〜あ、残念♡ もう全部、やっちゃったのに」


「……~~っ!!」


たわわな胸をわざと押しつけながら、アラセリアが耳元で囁く。


「ねぇねぇ、こういうの、君にはまだ無いわよねぇ……♡」


「オ、オレリスに戻りますっ!!!」


顔を真っ赤にしたまま、シオンはアラセリアの腕を掴み、そのまま引きずるように出口へ向かう。


「ほらほら、そんなに怒らないで。私、ダーリンにちゃんと誘われたんだし〜。もしかして今ごろ……私のこと恋しくてたまらなかったりして?」


「……陸虚……っ、あのバカ!!」


その瞬間。


遠く離れたオレリス魔法学院で、ちょうど資料を読んでいた陸虚が、ぶえっくしょん! と派手なくしゃみをした。


「……誰か、僕の噂してる?」

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