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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第七十三話 幻境

次の瞬間。


「……っは、っは……っはぁ……!」


陸虚は地面に片膝をつきながら、荒く息を吐いた。


辺りを見渡すと――


そこは、さっきまでいた“谷の手前”、結界の外縁だった。


だが、自分の右足が、まだ“結界の中”にかかっていることに気づき、思わず呟いた。


「……なんなんだ、これは……」


背後から、能天気な声。


「ん? どうかしたの、ダーリン?」


アラセリアが手を引っ張りながら、全く動揺のない笑顔で見ている。


「引っ張り出してほしい?」


「……いや、待て」


その時。


――ピカァッ。


結界の内側で、白い光が収束し、足元に二つの物体が現れた。


ひとつは、先ほど投げ捨てた**“白玉”**。


もうひとつは――


紫水晶のように輝く巨大な結晶体。


「っ!」


「きゃあっ、ダーリン見て見てっ!」


アラセリアが目を輝かせて走り寄る。


「素材、勝手に出てきちゃったよ!? これはもう、運命としか♡」


嬉しそうに白玉を拾い、ポイっと陸虚の手に押し込む。


「はいっ、これ、ダーリンに♡」


「…………」


陸虚は、ずるずるとその場に腰を落とした。


全身の力が抜けていく。


(……あれが、“幻境”か)


たった一瞬のことだった。


けれど、確かにあの時、自分は――“呑まれた”。


それを思うと、自然と胸が締めつけられる。


「……ダーリン? 顔色悪いよ? 大丈夫?」


アラセリアが心配そうにしゃがみ込んできた。


彼はふと、彼女の顔を見て――


ぎゅっと、抱きしめた。


「……無事で、よかった……」


「っ……♡」


アラセリアの耳がぴくぴく動く。


そして、次の瞬間――


「……ん?」


――ぺろっ♡


「ちょ、おま――どこ舐めて……っ!! 手っ、そこ違――やめろ!!」


次の瞬間。


「帰る!!」


バシュン!


アラセリアが見事な勢いで背後の岩壁へ吹っ飛ばされた。


「いったぁ~いっ……ダーリンひど~い……でも好きぃ……♡」


変異者の集落に戻ってきた陸虚は、すぐには帰還せず――


静かに筆を取り、符を描き始めた。


(……あの幻境の中で感じた“反応”――)


(外界の“陽”が、変異者を焼く。変異者の“陰”が、周囲を汚す)


(なら、それぞれの“矛盾”を、互いに打ち消し合えば……)


墨と霊符の気を交差させながら、彼は一枚の符を描き上げた。


「……できた」




帰る直前、エルフの少年を呼び止める。


「――これをやる」


「……え?」


「陰の力で、外界の浄化作用を一時的に無効化する」


「そして、陽の力で、お前自身の汚染反応を打ち消す」


「……“一ヶ月”だけなら、エルフ領へ帰れるはずだ」


少年の目が大きく見開かれる。


「……せ、先生……」


「僕はまだ、“呪いの根”を断つ方法は見つけられない」


「だが――お前の親父は、ずっとお前を待ってる」


「……一度くらい、顔を見せてやれ」


涙が溢れ、少年は両手で符を抱きしめながら、深々と頭を下げた。


「……ありがとうございます……!」


そのやりとりを、地面にしゃがみ込んでじっと見ていたアラセリア。


「……っ」


「いいなぁ、ずるいなぁ……」


「アラセリア」


「っ!? は、はいっ!」


「お前の分は、ない」


「はうっ!? なぜ!?」


「やったらどうせ、外でまた何かやらかすだろ」


「うっ……その通りすぎて反論できない……!」


アラセリアはその場で体育座りして、指で地面に“バカ”って書き始めた。


(……だが)


数歩歩いて、陸虚はふと立ち止まる。


「……今年の秋。ライフタリンで“四大魔法学院試合”がある」


アラセリアの耳がピクッと動く。


「その時まで“絶対に問題を起こさない”って約束するなら――」


「招待してやってもいい」


「……!!」


「いっ、いっくぅうううう!!」


アラセリアは全力の猫ポーズで陸虚の足にすり寄ってきた。


「まじで!? 本当に!? やったぁあああ!!」


「……やめろ、くっつくな。暑い」


ため息をつきながら、陸虚は彼女の額に符をペチンと貼り付けた。


「――これは一回きりだ」


「絶対に身につけておけ。汚染が漏れたら、お前が何をしようが僕は知らん」


「はーい♡ 絶対大事にするぅ~~♡♡」




一枚の符と、一枚の希望。


彼は二人に背を向け、オレリスへの帰路についた。

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