表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
73/143

第七十二話 到着

幾度かの魔獣との戦闘を経て、二人はついに目的地へと辿り着いた。


目の前に広がるのは――不気味な紫色の霧に包まれた谷。


「……ここか?」


「うん、そう♡ ここが“例の場所”よ」


アラセリアは頷きながら、谷を見つめる。


谷の中からは、見えない何かが渦巻くような異様な魔力の波動が漂っていた。


陸虚は一歩前に出て、静かに目を閉じる。


(……やはり、“法則そのもの”が不安定だ)


(空間が、揺らいでる。時間軸も歪んでいる……)


「ここが“材料”の発生源か……」


彼は霧のすぐ手前、境界線のような場所で立ち止まった。


そして、後ろを振り返る。


「……アラセリア」


「はいはーいっ♡ 何かしらダーリン!」


「手を出せ」


「キャッ♡ いよいよそういう関係に!? 嬉しいっ、全身で抱きし――」


「違ぇよ。“手”だけでいいって言ってんだろ。僕が先に入る。中で異常があったら、すぐ引っ張り戻せ」

「……ちぇっ」


渋々差し出されたアラセリアの手を取ると、その指が何やら“もぞもぞ”と動いている。


「……」


陸虚は大きく息を吸い込んだ。


そして――


「……いくぞ」


谷の中へと、その足を踏み入れた。


……だが、陸虚が予想していたような“異変”は起きなかった。


「……光?」


彼の視界いっぱいに、やわらかく差し込む淡金色の光が広がっていた。


重苦しい瘴気もなければ、空間の歪みも感じられない。


「……なんだこれは……」


空気が、暖かい。


まるで陽だまりの中にいるような、穏やかな光。


(まるで“光の聖域”みたいだな……)


――そのとき。


「――きゃぁっ!!」


背後から、悲鳴が響いた。


振り返ると――


アラセリアの漆黒の肌が、じゅうっと音を立てて白煙を上げていた。


「っ……!」


陸虚はすぐさま駆け寄り、アラセリアの身体を外へ押し戻そうとした――


だが。


「……っ、しまった」


――出口が、消えていた。


谷の入り口だったはずの場所が、金色の光で完全に閉ざされている。


(閉じ込められた……!)


一瞬、動揺が走ったが――


「落ち着け……考えろ!」


陸虚はすぐに意識を丹田へ集中させ、金丹を“陰陽双転”に変化させた。


「――“陰・陽・双界展開”」


バシュッ!


彼の身体から二層の霊力が展開される。


半陰の気が、アラセリアを包み込み、熱光を遮断する防壁となる。


そしてその外側を、純陽の力が包み込み、外界の規則に“調和”する形で固定された。


「……はぁ、はぁ……よし……」


「……ダーリン……!」


アラセリアが、涙目で彼に飛びついてきた。


「ダーリンすごいっ! 好きっ! ほんとに好きっっ♡♡♡」


「……うるさい」


本来ならすぐに突き放すところだが――


陸虚は、彼女をそのまま抱かせておいた。


理由はひとつ。


(この距離なら、霊力の消耗が最小限に抑えられる……)


谷の奥――石陰に、それはあった。


「……見つけた」


白く輝く、波打つような魔力を放つ一塊の玉石。


ただ存在しているだけで、空間そのものの規則が揺らいでいるのが分かる。


「これが……“規則干渉型の素材”か」


陸虚はそっとそれを拾い上げ、懐にしまった。


「……よし。戻るぞ」


アラセリアの手を握ったまま、来た道を引き返す。


玉石の原因で出口の結界が見えてきた――その時。


「……っ!?」


――轟音。


空間が、音を立てて崩れ始めた。


結界の一部が弾け飛び、出口に巨大な亀裂が走った。


「アラセリアっ、離れるな――!」


バァン――!


突如発生した**強烈な“反発の風”**が、彼女の身体を吹き飛ばす。


「きゃっ……!!」


陸虚はとっさに手を伸ばし、ギリギリのところで彼女の腕を掴んだ。


「……ダーリン……!」


アラセリアの目に、諦めと悲しみが滲んでいた。


「……放して。これは……私たち“感染者”の運命よ」


「もう、いいの。これで終わりに――」


「……黙れ」


陸虚は、静かに呟いた。


「……バカが。誰がそんな話、信じるかよ」


その瞬間、彼の手から“玉石”が投げられる。


――ゴォォン!!


白い光が空間に吸い込まれる。


だが――


「な、なんで……!?」


結界は安定するどころか、さらに激しく揺れ始めた。


光の波動が、空間全体を暴走させていく。


「っ、逃げ――!」


アラセリアが涙を浮かべながら叫ぶ。


「ダーリン、お願い! 私のことはいいから……!」


「行って! あなただけでも――!!」


だが。


陸虚は――


その手を、決して離さなかった。


「逃げるくらいなら、最初から助けねぇよ」


「最後まで、一緒にいる」


「だ、ダーリン……っ」


「だから――」


彼は微笑みながら、彼女の身体を抱きしめた。


「――もうちょっと、くっついてろ」


「霊力、節約したいんだ」


――視界が、光に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ