第七十一話 同行
(……ちっ)
小さく舌打ちをして、アラセリアの方を見る。
今まさに、“わたし、捨てられました……”って顔で唇をプルプルさせながらこっちをチラチラ見ている。
「……わかった。行くよ。一緒に行ってやる」
「っっ……!!」
その瞬間。
「~~~~!! ダーリン~だぁいすき♡♡♡」
アラセリアがバネのように跳び上がり――全力で主役に飛びついた!
「ぶっ……!」
「って、やめろぉ!!」
――バゴォ!
直後、アラセリアは見事な飛距離で横の壁に激突した。
「……同行はいい。だが、僕の半径一メートル以内に入るな!」
「はぁい……♡(←嬉しそう)」
呪われた地の奥へと続く黒い森。
灰のような空気が舞い、どこまでも沈黙が支配する世界の中を、二人の影が歩いていた。
「……そういえば、エルフって“汚染”されたら魔法使えなくなるんだよな」
ふと、陸虚が口を開く。
「でも、お前……いや、アラセリアは“汚染を受け入れた”ことで魔法を使えるようになったんだろ?」
「おおっ! さすが私のダーリン♡ よく気づいたわねっ!」
「で? どうやって“バランス”取ってるんだ? 理性保ったまま魔法使うには、何かしらの条件が――」
「うーん?」
アラセリアは首を傾げた。
「わかんな~い♡ 気づいたら出来るようになってたのよね」
「……いや、そこ一番重要だろ」
「たとえば今だって――ほら、このお花、かわい~♡」
そう言って、道端に咲く不気味な紫色の花をしゃがんでじっと見つめたかと思えば――
「……えいっ♪」
次の瞬間、無造作にちぎって粉々にする。
陸虚はその様子を見て、ふと思った。
(……“欲望の解放”が、汚染とのバランスを保つ鍵、か)
(そう考えると――あいつは、最も理に適ってるのかもしれないな……いろんな意味で)
「そういえば、お前……エルフ族に、まだ知り合いとかいるのか?」
「ん~……どうだったかな……」
アラセリアはあっさりした顔で空を見上げた。
「たしか今の女王って、私の姪っ子だったような気がするわ~。うん、名前……なんだったかしら?」
「……お前、本当に王族だったのかよ」
「だって、生きてる時間が長すぎて、昔のこと忘れちゃったんだもん」
そして、突然に話題を変えた。
「そうだダーリン、お腹空いてない? おいしいのあるのよ、食べて食べて!」
「おい、近――むぐっ!?」
アラセリアは容赦なく怪しい見た目のスナックを口に押し込み、ついでに自分の身体をぴったり擦り寄せる。
「……おい、離れ――っ」
「ふふ~♡ 寒くなってきたもんねぇ~♡」
「……っはぁ……」
食べ物を飲み込みながら、陸虚はふと思い出していた。
あの静かで気高く、礼儀正しいエルフ女王――セリス。
彼は小さく頭を振った。




