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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第六十九話 またの怒り

こうして、陸虚はこの都市に“住みつく”ことを選んだ。


表向きは、力も中途半端な“変異系の人間魔法使い”。


持ち前の霊符術を使い、昼間は魔獣を狩って素材を収集し、


それを城内の交換所で換金し、最低限の宿代と食費を稼ぐ生活。


「……ほらよ、今日の分だ」


「へえ、人間にしちゃやるじゃねぇか」


「俺なんて昨日、腕もがれたぞ……」


「だったら引退しろよ、ジジイ」


ギルドのような闇取引所で、今日も一日分の素材を渡す。


そして――


夜になると、彼は決まって“酒場”に顔を出す。


「“大王”様さあ、昔はもっと怖かったんだぜ」


「おい、声がでけえぞ。耳、切られんぞ?」


「……でもよ、聞いたか? 最近また“奥の領域”で動きがあるって」


「マジかよ……まさか“本物のやつ”が……」


薄暗いランプの灯りの中、陸虚は一人静かに酒を口に運びながら――


耳を澄ませていた。


そうして、変異都市での潜入生活が続いた。


陸虚は着実に情報を集め、ある日――


「……奴らが“南区画”を一斉掃討する日程が決まったか」


女王直属の処刑部隊が“奥域探索”の名目で出払う日を突き止め、それと入れ替わるように行動を起こす計画を立てたのだった。


だが、その日――小さな“偶然”が運命を狂わせた。




霧深い廃墟の裏路地。


陸虚はフードを深くかぶり、顔の大半を隠して歩いていた。


そのとき――


「……!」


偶然にも、**以前出会った“あの小さなエルフ族の少年”**と、すれ違ってしまった。


目が合ったのは、ほんの一瞬。


(……しまっ――!)


すぐに身を翻して、その場から立ち去った。


だが――


(……あの目)


少年の表情に、“確信”があった。


「……まさか、あの子に気づかれるとは……」


そして、それは最悪の形で“王”の耳に届く。





次の日から、都市全体が不穏な空気に包まれた。


巡回兵の数が倍に増え、街の出入口には魔物さえ通れない結界が敷かれた。


「なにがあったんだ?」


「なんか、大王が探しものあるらしいぜ……」


「でも情報が目元だけって……無理ゲーだろ」


(……完全に、バレたか)


陸虚は身を隠す場所を変えつつ、動向を探っていた。


だが――


「……大王様が、また“妙な命令”出したらしいぜ」


「“該当者が現れなければ、例のエルフの子を処刑する”って……!」


(……!)


競技場に集められた民衆の前――


そこには、縄で縛られ、口を封じられた小さなエルフの少年の姿があった。


場内はどよめき、誰もが噂している。


「マジかよ……“王”があの子を餌にしてんのかよ……」


「なんも知らねえ顔してるけど、王様ってやっぱ怖ぇな……」


その中央。


王座に腰を下ろしたまま、怠そうに髪をいじる暗黒エルフの女王が、ちらりと観客席を見下ろす。


「……さあ。出てきなさいよ、“人間の魔法使い”」


その声は、冷え切った笑みを含んでいた。


陸虚は、静かにフードの奥で目を伏せた。


処刑の刻限が、刻一刻と迫っていた。


観客席はざわつき、縛られたエルフの少年の顔には、不安と恐怖が滲んでいる。


そして――


「……時間ね」


王座から、黒髪の闇エルフが立ち上がった。


一歩、また一歩。


その完璧なプロポーションと優雅な足取りで、ゆっくりと闘技場の中央へと降り立つ。


「じゃあ……“見せしめ”を始めようかしら」


その手が、少年の頭上へと振り上げられた瞬間――


「……やめろ」


その声が、全場に響いた。


観客たちが一斉に振り返る。


フードを脱ぎ、姿を現したのは――陸虚。


その眼差しは、燃えるような怒りに満ちていた。


「……目的のために、仲間を餌にする? ……お前みたいな奴が、“王”かよ」


「はん、失望しかねえよ。ほんと、吐き気がするわ」


「……ほう」


闇エルフの口元が、にやりと歪んだ。


「人間の……イケメンじゃない。随分と口が悪いのね」


「――あの子ね、ずっとアンタのことをベタ褒めしてたのよ。“きっと助けに来てくれる”って」


「いいわ。楽しませてちょうだい、“自慢のヒーローさん”?」


怒りに燃える陸虚の眼鏡が、翠色の魔光を放ち、彼の精神を静かに安定させていく。


彼は怒りを我慢して呟いた。


「……すぐに、思い知らせてやる」


「純陽....ダメ....、純陰.......これもダメ.......落ち着け!癸水陰雷!」


バチッ――!


音もなく、陸虚の全身を陰の雷光が覆った。


殺気を滲ませながら、静かに構えを取る。


「……近接戦が得意なんだろ?」


「なら、付き合ってやるよ」


――次の瞬間、爆発的な加速と共に、彼の身体が宙を走る!


「っは、遅――」


闇エルフが反応し、防御の構えを取った刹那――


「フェイントだ」


――ゴッ!!!


拳が、真上から“上突き”で炸裂する!


ダークエルフの身体が、完全に予想外の軌道で吹き飛ばされ――


そのまま地面に叩きつけられる!


「……っ!」


そこからは――


「まだ終わってねぇぞッ!」


――拳、拳、拳!


陸虚がその上に跨り、雷光を纏った拳で容赦なく叩き込む!


ドカ! ゴガッ! ズガッ!!


観客席が、誰一人声を出せない。


戦場の中央に広がるのは――巨大なクレーター。


そして、その中央には、息を切らしながら暗黒の女王を殴り続ける、ひとりの“人間”の姿。


ドゴッ! ガガッ!! ズシャァッ!!


地面が砕け、大穴が空く。

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