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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第六十八話 闘技場

鉄製の門がギィィ……と重く開き、陸虚たち新入りは列を成して進んでいく。


「……ここが、闘技場か」


視界に広がったのは、石造りの巨大な円形競技場。


そして何より――


「うわ……」


観客席は、人、人、人――いや、“変異者”で埋め尽くされていた。


種族も形もバラバラ。だが、彼らは皆、口々に叫びながら興奮している。


その視線の先。


観客席の最上段、王座のような位置に、一人の女が座っていた。


長い黒髪、紫の肌、鋭い耳。闇エルフ――そして、抜群のスタイル。


だが、その表情には明らかに退屈そうな“怠惰”が浮かんでいた。


「――始めなさい」


女王の一言で、闘技が始まった。





新入りたち一人一人に、拘束された魔獣がけしかけられる。


どれも2級程度の弱い個体だが、動きが速く、噛みつけば命はない。


「くっ……!」


「うわっ!?」


叫び声が飛び交う中――


陸虚は、静かに一、癸水陰雷を使って相手を潰せた。


観客は一瞬ざわつく。


「人族……?」


「魔法か……?」


そして、王座に座っていた闇エルフが、ふと興味を示した。


「……人間の魔法使い。珍しいわね」


その目が、陸虚に向く。


が――


次の瞬間、別の場所で爆音と歓声が巻き起こった。


観客が一斉に視線を向ける。


「うおぉぉぉぉっ!!」


吼えながら魔獣の首を叩き折ったのは、巨大な獣人。


相手は3級魔獣。周囲がどよめくのも無理はない。


だが――


「……あれ」


誰かが呟いた。


「……あいつの、目……」


黒から、赤へ――獣人の目がじわじわと“濁って”いく。


観客が息を呑み、次々に王座を見る。


「……大王」


闇エルフはゆっくりと腰を上げ、無言で闘技場へと飛び降りた。


「大王!」「大王!」「大王!!」


観客が歓声を上げる。


地面に降り立った女王の前で、獣人はよだれを垂らしながら笑う。


「ケケケ……来たな小娘ぁ! 遊んでやるよぉ!」


その挑発にも、女王は顔をしかめただけ。


「……もう、“理性”がないわね。価値もない」


次の瞬間。


シュン――


音すら聞こえなかった。


女王は気づいたときには獣人の目前に立ち、腕をひと振りしただけで、その首をもぎ取り、無造作に投げ捨てていた。


場内、沈黙。すぐに、どよめき。


だが彼女はもう一言も発さず、そのまま観客席に戻っていった。


女王はもう陸虚に目を向けなかった。


こうして、彼は“変異者の都市”への潜入を果たした。


(……さすがに、あれは無理だな)


闘技場での光景を思い返しながら、陸虚は静かに息を吐いた。


“大王”――あの怠そうな闇エルフの女。


一見気だるげで隙もありそうに見えるが、実際の戦闘では一撃で3級魔獣を圧倒した獣人を軽々と始末していた。


その動き、魔力、気配――


(間違いない。5級の初期―)


自分の雷術が制限された状態では、正面からやり合うのは無謀だった。


(“陰陽雷”を使えれば話は別だが……今はそれも封じている)


となれば――


(……今は関わらないのが正解か)


陸虚は静かに決断した。


あの“王”を敵に回さず、この街で情報を集めること。


“呪われた地”のさらに奥にあるとされる特殊素材を見つけるには、それが最も現実的だった。

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