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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第五章 呪われた地と学院試合
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第六十五話 鼎の材料

夕食の前、陸虚はふと思い立って学院の奥へと足を運んだ。


(今回カミロ校長のために、命がけで動いたんだ。さすがに“お礼”はもらっておかないとな……)


そんな下心を抱きつつ、校長室の扉をノックすることもなく、そっと開ける――


「失礼しま――……っ」


そして、絶句した。


部屋の中は、まるで魔獣が通り過ぎた後のような惨状だった。


床に散らばるくしゃくしゃの設計図、あちこちに転がる試薬や瓶、そして――


「……スー……すぴー……ぐがぁ……」


本を抱きかかえたまま、床で大の字になって爆睡中のカミロ。


さらに奥では、机に向かい、ボロボロの顔で何かを書き続けているオグドンの姿。


「…………」


そのとき。


陸虚の肩に、ひんやりとした気配が落ちた。


「……ん?」


横を見ると、ティアリアが鳥の姿から本体へと戻っていた。


彼はそっと伸ばした枝で、オグドン校長の乱れた髪を整え始める。


「……ティアリア?」


ペンを走らせていた校長が、ふと手を止める。


「……ああ、ティアリアか。帰ってきたんだな」


ゆっくりと顔を上げると、入り口に立つ陸虚の姿が目に入る。


「……おかえり。ご苦労だったな」


「僕の方は、材料ちゃんと揃いましたよ」


陸虚は、肩の荷を下ろすように言った。


「で、そちらは……なんでこんなことに?」


オグドン校長は、眼の下にくっきりと隈を浮かべながら、弱々しく笑った。


「そうか……よくやった。ありがとう。こちらもね、止まってはいなかったんだ」


「この数週間、ずっとカミロと設計図を見直しててな。ようやく“錬丹用の鼎”の設計が完成したところだ」


「今朝になって、やっと奴が眠ってくれてね……」


「……そりゃ大変だったな」


陸虚は床に寝転がって盛大にいびきをかいているカミロを見やり、内心で苦笑する。


(……ここまでやってもらった後で、「見返りよこせ」とか言えないな)


「カミロ校長、起きてください。いい話があるんです」


「……んー……だれじゃー……もうちょい寝かせてくれー……」


「……スミルナ族長の件、落ち着きました。僕が話して、ちゃんと誤解も解けましたよ」


「――なにっ!?」


がばぁっ!!


カミロが目を見開いて飛び起きた。


「……ほんとに!? ほんとに和解できたのか!?」


「はい、族長も“また会いたい”って――」


「リクぅぅぅぅぅぅぅ!!」


ドゴッ!!


「うおっ!?」


次の瞬間、大きな腕に抱きしめられた。


「ありがとおぉぉぉ!!!!」


「痛い痛い苦しい!! 肋骨折れるってば!!」


そして――


「わし、行ってくる!!」


そう言い残し、カミロは風のような勢いで校長室を飛び出していった。


「おい! どこ行くつもりだよ!?」


「決まっとるじゃろ! 」


陸虚のツッコミが響いたときには、カミロの背中はすでに見えなくなっていた――。


校長室の静けさの中、オグドンがふぅと一息ついた。


「……さて。実は、もう一つだけ話がある」


「え?」


「今回のかなえ、ただの錬丹器じゃない。お前の術式と核心を合わせて設計してみたら……ごく微かだが、“法則干渉”の反応が出たんだ」


「……法則?」


「つまり、この鼎は“規則ルール”に触れる一歩手前にある。だからこそ、“完成させる”ためには――」


オグドンは机の引き出しから、一枚の図面と素材リストを取り出す。


「――“法則の影響を抑える特性”を持った素材が必要なんだ」


「そういうの、どこにあるんです?」


「普通には出回らない。だが――“呪われた地”なら、可能性がある」


「……“あそこ”か」


「シオンにはすでに、エルフ領から調査を頼むつもりでいる。陸先生がいない間に届いた彼女の手紙もある。……ほら、これだ」


オグドンは封筒を束ねた分厚い手紙を差し出した。


「まさか……全部?」


「返事を書くのが遅れたときは、二日おきに来たな」


「おっそろしいエルフだな……」


陸虚はその手紙を一枚ずつ丁寧に開き、読み進める。




「バカ。勝手に遠くまで行って、死ぬ気?」


「私は別に心配なんてしてないけど、あなたの魔力量が不安定になるのは面倒だから」


「あと、ノアの手紙に“ミリナ”って書いてあったけど、誰?」


「……別に、気にしてないけど。ちゃんと監視してるから」





ツンツンとした言葉の端々に、心配と不器用な優しさがにじみ出ている。


陸虚は、読みながら思わず苦笑していた。


そして――最後の手紙。


「……これは?」


手紙の末尾に、小さな紙がホチキスでとめられていた。


「これは……ああ、グラディルの息子から届いた伝言らしい。あの闇エルフ……彼の“大王”が、お前と組めるかもしれないと言っていたそうだ」


「“呪われた地の深部”に、例の素材がある――と」


「……なるほどね」


陸虚は手紙をそっと伏せた。

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