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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第四章 ドワーフの村
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第六十一話 盗人

「この三人、議会の前に引っ張っていけ。二度言わせるなよ」


「「「は、はいっ!!」」」


連行される途中、ロープで縛られた陸虚が口を開いた。


「……今回の訪問、決して悪意があったわけじゃありません。ちょっと……ちょっとだけ、草薬を掘りに来ただけでして……」


スミルナは冷たい目で振り返った。


「お前、自分でその言い訳信じてるのか?」


「……えーと……」


「“瞞天過海(まんてんかかい)”。それも見事に、だ。護符で気配を隠し、魔力を収束して、しかも私の鼻すらごまかした。――で?」


「……で?」


「そんな大がかりな潜入の理由が“草薬数本”か?」


「……まあ、その草薬、実はかなりレアでして……」


「ふん」


スミルナが鼻で笑った。

「……カミロ、てめぇ……あの時もこそこそする、弟子までこのザマか」


「いやいや、あの……僕は別に、カミロ先生の弟子じゃ――」


「リクくんは誰の弟子でもありません! 彼はオレリスの“先生”です!」


レイリアが両手を握りしめながら前に出た。


「先生……?」


トーマが目を丸くしてぽつり。


「ちょっと待て、え、マジで? 僕だけ何も知らなかった感じ?」


スミルナは一度だけまばたきした後、にやっと口角を上げた。


「ほう。じゃあオグドンの手下か。“偽君子”の元で育っただけある。見た目は立派な“卑怯者”だな」


「……」


(この人、毒舌すぎない!?)


陸虚はロープの中で頭を抱えた。


「……本当に、すみません。騙すつもりはなかったんです。ただ……あの草薬は本当に必要で、しかもカミロ校長とあなたに因縁があると聞いたもので……」


「――おぉ? それ知ってて潜り込んだってことは、“覚悟してる”ってことだな?」


「え?」


スミルナはぐっと近寄って、ニッと笑った。


「まだカミロに叩き込んでない借りがあるんだ。――お前が代わりに受けてみろ」


「ちょっ――」


「吊るせ」


「えぇぇぇぇ!?」


レイリアとトーマの叫びが、議会の廊下にこだました。


「……殴るっていうなら、別に構わないですけど……」


吊るされたまま、陸虚は静かに口を開いた。


「せめて、理由ぐらい教えてもらえませんか? 僕が今から何でぶたれるのか、納得しておきたいんですよ」


「はあ? 語る価値もない。――誰か、狼牙棒持ってこい」


「えっ、ちょ、ちょっと!? え、それ本気のやつ!?」


数秒後、ずしんと重い音を立てて現れたのは、鉄でできた巨大な棍棒。先端にはぎっしりと鋭いスパイク。


「嘘でしょ……あれで殴られたら、絶対五体満足じゃ済まない……」


陸虚はごくりと喉を鳴らした後、必死に頭をフル回転させる。


(……確か、カミロ校長が“魔導師昇格の席”を奪った、って言ってたよな……)


(ってことは……もしかして――)


「……もしかして、カミロ校長って、族長の“魔導師昇格の枠”を横取りしたとか、そういう話ですか?」


その言葉に、スミルナの目がピクリと反応する。


「……横取り? “横取り”じゃない」


「“盗んだ”んだよ!」


その声には、長年の怒りがこもっていた。


「アイツとは、一緒に古代の “秘法”を研究する約束だった。共に学び、共に高め合うって――そう言ってたんだよ」


「なのに、アイツ……約束を破って、一日早く秘法を読み漁ったんだ!」


「中に残ってた魔力を“勝手に吸収”して、先に魔導師に昇格しやがった!」


「せめて一言、“先に使わせてくれ”って言ってくれれば、私は譲ったよ! あんな奴のためなら、私は――」


拳を震わせながら、スミルナは言葉を詰まらせた。


陸虚はその顔を見て、ふと気づく。


(ああ……これは、ただの“枠の奪い合い”なんかじゃない……)


(この人、本気で信じてたんだ。カミロ校長との関係を――)

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