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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第四章 ドワーフの村
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第五十三話 出発前の準備

冒険者ギルドでの登録を無事に終えた陸虚は、レイリアに案内されて商隊の集合場所へと向かった。


今回同行する商隊は、ライフタリンでも有名な交易団のひとつ。香辛料をドワーフ領に運び、帰りには希少な鉱石と交換して戻ってくるという、往復型の定期取引だ。


一通りの挨拶と紹介が終わると、レイリアが少しもじもじとした様子で隊長に話しかけた。


「あの……実は、私の……その……友達も、一緒に行くことになってて……」


「ほう? 護衛がもう一人増えるのか?」


隊長は少し驚いたように眉を上げる。


「でも、うちの予算はもう決まってるからな……追加人員を頼むには費用が――」


「い、いえっ! 彼、便利な魔法スクロール書き者で……えっと、報酬は必要ないそうです!」


「……なに?」


一瞬、隊長の目が鋭くなったが、すぐに満面の笑みに変わった。


「なぁんだ、そういうことか! それなら大歓迎だよ!魔法スクロール書き者ってのは、旅の途中で何かと役立つしな!戦闘もサポートもできるし、こっちの負担も軽い!」


「それにしても……報酬いらないとは、いい若者だな!」


横で“報酬いらない便利職”の陸虚が苦笑いを浮かべる。


(いや、もらってるけどな……)


そのまま出発日についての調整が行われ、予定は来月の初旬に決まった。


「……ちょうどいい。火山地帯に入れる時期とも被るな。」


陸虚は心の中でそうつぶやき、計画が予定通り進んでいることにひと安心するのだった。


出発当日。


陸虚はカミロが仕上げてくれた“ドワーフの気配を纏える護符”を首から下げ、肩には鳥の姿となったティアリアを乗せて、商隊の集合場所に向かった。


レイリアはすでに到着していたようで、陸虚の姿を見つけると、ぱっと顔を明るくして駆け寄ってきた。


「おはよ――あっ……!」


危うく“陸先生”と呼びそうになって、慌てて口を押さえる。


「お、おはよう……リクくん……!」


「ナイス判断。」


陸虚が小さく親指を立てて笑うと、レイリアは一瞬嬉しそうに照れた表情を見せた。


「それより、肩の鳥さん……すっごく綺麗……! ふわふわだし、目も知的で……なんだろう、どこかで見たような……」


陸虚はそっと彼女の耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。


「……ティアリアだよ。」


「……えっ?」


近すぎる距離に一瞬ドキッとしながらも、意味を理解した瞬間、レイリアの目が大きく見開かれた。


「まさか……毎日見てた、あの世界樹が……!?」


「まあ、分身体らしいけどな。」


「すご……そ、それならもっとちゃんと敬意を……!」


慌てて鳥のティアリアに頭を下げようとするレイリア。


その様子を微笑ましく見ていた陸虚だったが――


「へぇ~、レイリア。そっちの男、見たことないけど? ずいぶん親しそうだな?」


どこか鼻にかかった、わざとらしい声が割り込んできた。


振り返ると、そこに立っていたのは年の近そうな青年――トーマだった。


レイリアの顔が一気に冷たくなる。


「……トーマ。あんたに関係ないでしょ。これから出発するの。関係ないなら邪魔しないで。」


「うわ~、冷たいな~。でも残念でした、僕“関係者”なんだよね。」


「……は?」


「今回は僕も一緒に行くから!」


「はぁ!? あんた魔法も使えないのに何しに来るのよ!?」


「観光だよ、観光。旅のついでにリッチな空気吸いに行くだけ。ほら。」


そう言って、トーマは懐から金貨の入った袋を取り出し、隊長にドンと渡した。


「こいつで旅費はばっちり。問題ないよね?」


隊長は金額を確認して、即座に満面の笑みを浮かべる。


「はい、ようこそご参加を!」


レイリアの額に青筋が浮かび上がった。


(……へぇ、こいつ……金持ちか)


陸虚はトーマの金袋を一瞥して、心の中でうなる。


(しかも、レイリアに対して妙に絡んでくるし……これは、間違いなく“気がある”パターンだな)


(ふむ……もしこのふたり、くっついたら……お祝い金とか、なんかうまい話が転がってくるかも……)


(っていうか、校長から金貨1万を稼ぐことで? あれ、本気で無理じゃね?)


(……よし。こうなったら、貴族連中から稼ぐしかない!)


そう腹を括った瞬間――


陸虚の目がギラリと光を放った。


「レイリア!トーマ!いやぁ、素晴らしいタイミングで知り合えて嬉しいよ!」


急に満面の笑みを浮かべて、両手で二人の肩をがっちりと抱く。


「一緒に旅をする仲間として!これからはしっかりと絆を深めようじゃないか!」


「へっ……!?」


レイリアは突然のスキンシップに、耳まで真っ赤にして固まってしまう。


「な、なに、陸――じゃなくて、リクくん……そんな近いって……!」


その横で、トーマはというと――


(な、なんだ……この視線……)


(えっ? 今の目つき、僕を見るときもレイリアを見るときも同じじゃなかったか……?)


(えっ、ちょ、まさか……こいつ両方いけるタイプか!?)


「う、うわあっ!? や、やっぱり僕、馬車で荷物整理してくるわ!!」


ガタガタと肩を震わせながら、トーマは腕をふりほどき、猛スピードで馬車の中に消えていった。


その後ろ姿を眺めながら、陸虚はニヤリと笑ってつぶやいた。

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