第四十五話 突入
日も暮れかけた頃、二人はついに――
カミラが囚われている郊外の荘園にたどり着いた。
予想通り、荘園の外には重装備の護衛兵たちがずらりと並んでいた。だが不思議なことに、その様子はまるで“来客を迎える”かのようだった。
陸虚は目を細めて呟く。
「……見ただろ。完全に“お前を待ってる”構えだ。わざわざ、歓迎ムードを装ってる時点で、仕込み済みってわけだ」
リセルは苦笑して肩をすくめる。
「……なら、もう隠れる必要もないな」
二人が堂々と門前に立つと、
護衛たちの中からスーツ姿の執事のような男が一歩前に出た。
「リセル様、ようこそお越しくださいました」
にこやかに頭を下げながら、彼はこう続けた。
「――我がヴェノムス公爵よりの伝言です。“夜明けまでにカミラ嬢を連れて脱出できたなら、レネヴィル家は無事”。……とのことです」
リセルはニヤリと口元を歪めた。
「ほう。じゃあ、もし救い出せなかったら?」
「……それは、我が公爵様と、貴家のご当主との“ご内密な取り決め”でございます。……私ごときの知ることではございません」
その執事は今度は隣の陸虚に視線を移し、丁寧に言った。
「お客様、よろしければ別室にてお待ちください。お飲み物もご用意しております」
しかし、陸虚は鼻で笑い、肩を回すと近くの木陰に腰を下ろした。
「いらねぇよ。ここで待ってる。……」
そう言うと、彼は静かに瞑目し、呼吸を整え始めた。
リセルは静かに頷き、深く深く息を吸い込む。
その眼に、燃えるような決意を宿して――彼は、真火を纏いながら荘園の門を踏み越えた。
リセルが荘園に足を踏み入れた瞬間――
「来たか、フレアヴァルトの坊っちゃん」
低く、ねっとりとした声が響いた。
薄暗い通路の奥から、ローブを纏った魔法使いが一人、現れる。
年は三十代後半、顔には古傷、手には魔法杖。
全身から滲み出る魔力の波動が、そこそこの格上であることを物語っていた。
「悪いがここは通せない。犯人の部屋へは、この先だ。――お前の力、試させてもらおうか。」
そう言った次の瞬間、術師は詠唱を始めた。
「結界術・水流封陣――開け」
ズガァァン!
リセルの足元から四方向に術式が広がり、周囲に青いな壁が次々と立ち上がる。まるで空気そのものが檻となって閉じ込めてくるような感覚。
リセルは眉をひそめた。
「これが……“結界”か」
術師は薄ら笑いを浮かべながら、言い放つ。
「魔法使いにとって“囲い込む”ことは“殺す”より確実なんだよ。お前みたいな雑魚でも時間が経てば魔力切れで終わる」
リセルは――笑った。
「悪いな、“雑魚”じゃなくなったばっかなんだ」
そして――一歩、前へ。
術師が眉をひそめる。
「おい、バカな……その結界は3級の魔力がないと破れないはず……」
「だったら――“魔力”じゃない方法で壊せばいい」
リセルの右拳に、赤い真火がぼうっと灯る。
「真火の力が…」
ドガアァァァァァン!!!
拳が結界に触れた瞬間、空間が爆ぜるような轟音が響いた。リセルの拳が触れた一点から、結界は“真火を吸い込むように”溶けていく。
「なっ……バ、バカなッ……!!」
術師が呆然とする間もなく――リセルはすでに目の前まで踏み込んでいた。
「言ったろ? 俺はもう、前とは違うんだよ!!」
――ドゴォ!!
真火を纏った拳が、術師の腹部に炸裂。
「がはっ……!」
瞬間、術師の体が数メートル吹き飛び、壁に叩きつけられる。その体からは魔力の火花がじゅうじゅうと焼け落ちていた。
(く……魔力が、燃やされて……再生しない……!?)
術師の瞳に、恐怖が浮かぶ。
「て、てめぇ……その力……一体……」
リセルは拳を見つめ、答えせず前へ進む。
――バゴォン!!
壁が砕け、火花が散り、煙が上がる。
「はぁっ、はぁっ……まだ、いける……!」
リセルの全身はすでに傷だらけだった。だがその目は、獣のように鋭く、迷いがなかった。
すでに3人の3級魔法使いを打ち倒し、名もなき警備兵を無数に叩き潰してきた。
そして彼は、ついに辿り着いた。
――カミラが囚われている、荘園最奥の牢獄へ。
鉄格子の向こう、彼女は静かに座り込んでいた。
が、彼に気づいた瞬間、目を見開き、立ち上がる。
「リセル……!? どうして……来ちゃったの!?早く逃げて!! ここは――!」
「カミラ……俺は、お前を助けに来たんだ!」
リセルが一歩前に踏み込もうとしたその瞬間――
「ケケケケ……」
奥の影から、湿った笑い声が響いた。――カツ、カツ、と足音が近づく。そこから現れたのは、黒衣の魔法使い。
その姿はまるで蛇のように細長く、鋭い目つきと毒気を孕んだ笑みを浮かべていた。
「ほぉ……フレアヴァルト家の小僧が、ここまで来るとはな。2級程度で3級を複数撃破……いや、それにしてはおかしいな?」
男の目が、リセルの全身を舐め回すように見たあと――にやりと口角が歪む。
「ふむ、今のお前……魔力?、1以下だな?面白い、面白い。これは秘術か?寿命を削ったか?なぁんでもいい……俺にとっては格好の実験材料だ」




