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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第三章 王都
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第四十二話 危機

ノアはカミラに連れられ、王都東区にあるレネヴィル伯爵邸に到着した。邸宅は絵本の中のように落ち着いた佇まいで、庭には丁寧に手入れされた花々が咲き誇っていた。


「初めて来たけど……まるで貴族の理想のお屋敷みたい……」


 ノアが感嘆すると、カミラは笑顔で手を引いた。


「部屋はもっと可愛いよ、さ、こっちこっち」


カミラの部屋は期待通り、というよりもそれ以上に居心地のいい空間だった。派手すぎず整然としていて、壁には草花の押し花や絵画が飾られていた。室内にはほんのりとラベンダーの香りが漂っている。


「ちょうど新しいお茶とお菓子が届いたところだったの。一緒に食べましょ」


銀のティーポットに美しいティーカップ、テーブルにはローズヒップのゼリーと蜂蜜の焼き菓子が並べられた。


「えっ、こんな素敵なの出してくれるなんて……私にはちょっと贅沢すぎませんか?」


「そんなことないよ、友達が来たら一番いいものを出すのが私のルールなの」


二人はティータイムを楽しみながら、ライフタリンでの生活や子供の頃の思い出について語り合った。カミラは、リセルと一緒にいた頃の話を楽しそうに話す。


「昔ね、私が魔法に憧れてて、リセルがこっそり教えてくれたの。結果、厨房を爆発させちゃって、二人でめちゃくちゃ怒られたのよ!」


ノアは思わず吹き出した。


「カミラ様って……すごく優しいんですね」


「だから様付けやめてってば。今日は友達なんだから」


そんな他愛ない会話に、ノアの表情にも自然と笑みが浮かんでいた。ふたりの間に、穏やかで暖かな時間が流れていく。——だが、その時間は、突如として破られた。


「ドンッ!!」


重たい音が一階から響いた。


「……何の音?」


カミラは眉をひそめて立ち上がる。


窓の外から、甲冑の擦れる音が聞こえた。何者かが、邸宅を完全に包囲している。


「カミラ! 密道から逃げろ!」


ドアの外から、カミラの父の声が響いた。


「お父様!? どうしたの!?」


「誰かが……我々を狙ってる。すぐに逃げろ!!」


 


ノアは手を引かれながら、細い裏路地を駆けていた。二人は、カミラの邸宅に設けられた密道からどうにか脱出したばかりだ。


だが――


「――止まれっ!!」


先の角を曲がった瞬間、全身鎧の兵たちに包囲される。その時、どこかで見た顔の男が現れた。


「……あんたは……!」


「やあ、お嬢さん。こんなところでまた会うとは」


それは、かつて宝石店で丁寧に接してくれた、あの若い貴族だった。


「……何を……どうして……?」


「カミラ・レネヴィル嬢を確保するよう命じられてる。あんたは関係ない。帰っていいよ」


そう言いながら、男は手をひらひらと振った。


だが――


「はあ!? なんで逃がすんだよ! 始末しとけよ!」


背後にいた部下が反発した瞬間、男の足が無造作に腹を蹴り飛ばす。


「俺の命令に口を挟むな。"使い捨て" で済まされたいのか?」


部下は呻き声をあげ、壁に叩きつけられる。


ノアは勇気を振り絞って、一歩踏み出した。


「……お願いです! カミラ様を……どうか、助けてください……!」


「悪いね。あの家は“手を出しちゃいけないもの”に手を出したんだよ。こっちも仕事でやってる。あんたには恨みないけど、今回は見逃してくれ」


ノアは、唇を震わせた。


「それじゃ……それじゃあ、あまりに理不尽じゃないですか……!」


「理不尽だって? ふふ、君のご主人には伝えてくれ。これ以上首を突っ込むな。今回の相手は――君たちの手に負える相手じゃない」


ノアがすべてを語り終えたあと、陸虚は黙ってリセルの方を見た。


「……どうする?」


リセルは腕を組み、眉をひそめて答えた。


「今はまだ状況が見えてない。まずは情報を集めよう。下手に動けば、逆に巻き込まれる」


そうして数時間――


 二人が手分けして集めた情報をまとめた結果、ある真相が浮かび上がった。


カミラの実家、レネヴィル伯爵家は――なんとザグレウス・ヴェノムス公爵家の管轄下にある貴族だった。


最近、その家が領地内で極めて貴重な鉱脈を発見した。本来であれば、それは公爵家に即座に報告すべきものだった。


だが、レネヴィル家はそれを黙って秘密裏に採掘していた。


「……それ、やっちまったな……」


 陸虚が呟く。


リセルは頷いた。

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