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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第三章 王都
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第四十話 本音

リセルは空のグラスを軽く回しながら、ふと思いついたように言った。


「……ところで、陸先生。あんた、うちの妹を“更生”させたんですよね?」


「まあ、それなりにね」


「じゃあさ、俺も見てもらえません?自分でも分かってるけど……俺、まだワンチャンあると思います?」


「お、いいよ。じゃあ、ちょっと診せてみ?」


陸虚が手をかざし、リセルの体内の魔力の流れを丁寧に探る。


数秒後――


「……ふむ……ふぅ……」


「……え、なにその顔。そんなにダメだった?俺、そこまで絶望的っすか?」


「いやいや、違う違う」


陸虚は首を振りながら、興奮気味に言った。


「むしろ感動してる。お前の魔力状態、めっちゃ面白いぞ」


「……え?」


「炎属性の魔力が変質してて、“真火の種子”みたいなのができてるんだ。しかも、ほとんど完全な形で体内に眠ってる。――こいつを覚醒させれば、“龍虎金丹(りゅうごきんたん)”までいけるぞ。シフ教頭の“鳳凰真炎”….じゃなくて、フェニックスの炎より強くなるはず….そうですね…..そうすれば、真火もあるかな……」


「……話が難しすぎて何も分からん。でも、なんかとんでもないこと言われた気がする」


「ふふ。僕に弟子になるかい? 絶対後悔させない」


「いやいやいや……まず“龍虎金丹”って何よ?ていうか“火の種を覚醒”?なんか怖いんだけど」


「簡単だよ。まず、お前が今まで修練してきた炎魔法を一度全部抜き取る――」


「ストーップ!!」


リセルが椅子から転げ落ちそうになりながら叫ぶ。


「なにそれ!? 今の一言でもう死ぬ気しかしないんだけど!?聞いたことないよ! 魔法を体から“抜き取る”って!?」


「別に呪術とかじゃない、ちゃんとした修行法だよ?」


「いやいやいや、どう聞いてもヤバいやつでしょ!?ていうか先生、本当に正規の教師っすか!?裏で闇の魔術とか使ってたりしませんよね!?」


陸虚は腕を組み、やれやれと呟いた。


「まったく……フレアヴァルト家の男は小心者ばっかりか?」


「結構です! 俺は平穏な人生で満足してますから!」


リセルはふてくされたようにそっぽを向いた。


「……ったく、そんな怖い修行、やるわけないでしょ」


「チッ……やらないならそれでいいけどさ」


陸虚は肩をすくめて、話題を変えた。


「じゃあさ、カミラのこと――お前、どうするつもり?」


「……は?」


「“どうするつもり”って、何が?」


「いや、お前さ、カミラのこと好きなんだろ?」


「――なっ……!?」


リセルが思わずむせた。


数秒の沈黙のあと、彼は苦笑いを浮かべながら答えた。


「……まあ、嫌いじゃないけど。でも、俺なんかがどうこう言える立場じゃないし」


「ほう、なるほど。つまり――“今の自分じゃ、彼女にふさわしくない”ってことか?」


「ちげぇよ! ……いや、ちょっとあるかもだけど」


リセルは、少しだけ目を伏せて言った。


「でもな、俺も一応フレアヴァルト家の次男っすよ?伯爵家の娘なら、釣り合い的には余裕で合格ラインのはずだし」


「じゃあなんでだ?」


「……」


「――ああ、わかった。“今の自分の力じゃ、守れない”って思ってるんだろ?だから不安なんだよな?」


「ちょ、ちょっと、陸先生!? テンション上がりすぎっすよ!?」


「だからこそ! お前は僕のとこで修行するべきなんだよ!!強くなれば、守れるようになるだろ!!」


「やめてーっ!! もうそういう熱血路線やめてーっ!!っていうかそもそも……」


リセルは深いため息をついた。


「……あの子が俺のことどう思ってるか、分かんないんですよ」


「おいおい、それは本人に聞いたのかよ?」


「……いや、聞いてない」陸虚はおでこに手を当て、ノアの方を振り向いた。


「ノア、お前はどう思う?」


ノアは真剣な顔で言った。


「私の目には……カミラ様は、リセル様のことが好きに見えました」


「やめてよぉおおおお! あの人はきっと、俺に助けられたから“恩義”で気にしてるだけっすよぉおお!」


「聞いたのかよ」


「……聞いてないっす」


「じゃあ、明日本人に聞こう。カミラを誘って、僕たちと一緒に四人で出かけようぜ」


「えぇええ!? 呼んでも来るわけないじゃん、あの子!」


「呼べば来るよ。お前がちゃんと呼べばな」


リセルは、呆然とした顔で陸虚を見つめた。


「……マジで、来ると思ってる?」


「絶対来るに決まってるだろ。――少なくとも、僕はそう信じてる」

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