第三十八話 解決
陸虚が部屋を追い出され、ため息混じりにドアを見つめていたそのとき――
「いやぁ、さすがは陸先生!」
後ろからパチパチと拍手の音が聞こえた。振り返ると、リセルが壁にもたれながら、ニヤニヤと笑っていた。
「俺たち家族でも手を焼いてたミリナを、あんなあっさりやる気にさせるなんて……やっぱ、只者じゃないですね」
陸虚は半目になってリセルを睨む。
「……お前、まさか聞いてたな?」
「いやいや、“家族の心配”であって“盗み聞き”じゃないですよ~?」
リセルは悪びれもせず、にっこり笑いながら陸虚の肩に腕を回す。
「それにしても、陸先生……女の子の扱い、うま過ぎません?ミリナ、あんな顔するの俺も初めて見たかも」
「……は?」
「うーん……こりゃもう、時間の問題っすね。近いうちに、“妹婿”ができそうだな~。うちの親父も喜ぶし、おじさまなんてもう大歓迎でしょ」
「誰が妹婿だ! ふざけるな!」
陸虚はリセルをバッと振り払う。
「お前、自分の妹がいくつで、僕が何歳か分かって言ってんのか!?」
「年齢なんて気持ち次第ですよ! 陸先生、覚悟決めてくださいね!――じゃ、俺は用事あるんで、お先に失礼っ!」
そう言い残すと、リセルは笑いながら走り去っていった。
「ふふっ、ミリナのことは俺が一番よく分かってるんでね。……陸先生、あとはご自身で……どうぞご自由に!」
問題がすべて片付き、陸虚は公爵の執務室を訪れた。
「――すべてご報告させていただきます」
静かに頭を下げる陸虚の言葉を聞いて、フレアヴァルト公爵は目を見開いた。
「……まさか、あのミリナが……ここまで落ち着くとは……本当に、ありがとう。君には感謝してもしきれん」
「いえ、そんな……シフ教頭のご家族ですから。当然のことをしたまでです」
シフも深く頷き、少しだけ肩の力を抜いた。
「……とにかく、礼を言わせてくれ。もし今後、任務か何かで俺にできることがあれば――いつでも声をかけてくれ」
陸虚はふっと笑った。
「じゃあ、遠慮なくお言葉に甘えさせてもらいますよ。――今度こそ、しっかり“使わせて”いただきますからね」
一同、思わず笑いがこぼれた。
その中で、シフがふと表情を引き締めた。
「……そろそろ、俺たちは失礼しよう。俺はやはり、長く公爵邸には滞在できない立場だ」
兄を見つめ、公爵は静かに言った。
「……行ってこい、シフ。俺は、お前が“頂点に立つ日”を、ずっと待っている」
「…………ああ」
ちょうどそのとき。
「――待ってぇぇぇ!!」
息を切らしながら、濡れた髪を振り乱してミリナが駆け込んできた。
まだバスローブの裾が少し濡れている。頬を真っ赤に染めながら、陸虚を見上げる。
「……あのっ! 私……その……オレリスに行ってもいい……?ちゃんと手続きして、逃げたりしないから……迷惑かけないから……!」
陸虚は少し驚いた顔をして、すぐに穏やかに微笑んだ。
「……修行に支障がないなら、歓迎するよ。でも“ちゃんとした手続き”は絶対にな。家出はダメだぞ?」
「…………わかってるわよっ……もう……!」
耳まで真っ赤にして、ぷいっと顔を背けるミリナ。
シフは少し遠くから、温かい目で彼女を見つめていた。
旅館に戻った後のことだった。
「オレリスに帰るまだ一週間は余裕がある。――お前たち二人は、思う存分遊んでこい。金は俺が出す」
シフのその一言に、陸虚は目を見開いた。
「……え、マジで?」
「もちろんだ」
「やったぁあああ!! ノア、行くぞ!! 今夜は高級な焼き肉だ!!」
「えっ? えっ!? 焼き……肉!?」
――こうして、二人の王都レジャーが始まった。大通りのグルメを満喫し、貴族主催の仮面舞踏会に参加し、華やかな魔法闘技場で歓声を上げる――。
そのすべてが夢のようにきらびやかで、日々はあっという間に過ぎていった。




