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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第三章 王都
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第三十七話 説教?

夜。


ミリナの部屋の前。


「……食事をお持ちしました」


ドアの向こうに声をかけると、中から不機嫌そうな声が返ってきた。


「……なんであんたなのよ、ムカつくわね!」


そう言いつつも、ドアを開けてしっかり料理を受け取るミリナ。


「……ご飯はちゃんと食べるんだな。てっきり拗ねて、絶食でもしてるかと思ったよ」


「フレアヴァルト家の人間は、どんなときでも食を粗末にしないの。それが“誇り”ってやつよ」


「ふふ……なるほど。自分の家柄にはかなり誇りを持ってるみたいだね」


「当然でしょ?フレアヴァルト家は帝国の誇り、炎の獅子の名を継ぐ者よ」


「そんなに誇らしい家に生まれて……それでも“出ていきたい”と思ったのは、どうして?」


ミリナは一瞬、箸を止めた。


そして、少しだけ目を細めながら答えた。


「炎獅の奥義は、すでに長兄様が継承に決まったわ。だから私は……おじさまみたいに、自分だけの“奥義”を見つけたいのよ」


「……ふーん。その道を進めば、いつか“魔導師”に辿り着けると?」


「当たり前じゃない!」


胸を張って堂々と答えるミリナ。そして、じろっと主角を睨むように見て言った。


「あんた、おじさんと仲良さそうだったわよね?もしかして、弟子?」


「……ああ、それ」


陸虚はくすっと笑ってから、静かに言った。


「紹介が遅れました。僕はオレリス魔法学院所属の大魔法使い陸虚です、シフ教頭の弟子ではなく――同僚です」


ミリナ:「…………………………」


食事の手が止まった。


「公爵様にはちゃんと言ったよ。三十歳までに“大魔法使い”になれたら、どこへ行こうが口出ししないって」


「……ほんと!?」


ミリナの目がぱっと輝く。


「じゃあ、さっさと解放してよ!あたしの才能なら、そんなの余裕だもん!」


だが――


「……あいにく僕には、君が三十までに“大魔法使い”になれるとは思えないけどね」


「……は? なに言ってんの、あんた」


「他の人から見れば“若くして魔法使い”ってだけで天才かもしれない。でも、僕の目には――“半端者”にしか見えないんだよ」


「なっ……!!」


ミリナが勢いよく立ち上がろうとする。


「言わせておけばっ――!」


だが、その瞬間。


バチン――!


雷の網が走り、ミリナの身体は椅子ごと縛られてしまった。


「ちょっ!? 放して! なによこれ――!」


陸虚は静かに、だが厳しい口調で語り始めた。


「魔力は混濁し、魔力核心は不純。同じレベルでも、シフ教頭の魔法のほうが君の三割は威力が上だ」


「……っ!」


「天賦だけじゃ、魔導士にはなれないんだよ。お前……努力してるって言うけど、本当に“全力”だったか?」


ミリナは顔を背け、わずかに目を泳がせた。


「……それなりには……やってたし……」


「“それなり”? “そこそこ”?――その“ちょっとずつの妥協”が積もって、君は一生“大魔法使い”になれないんだよ」


「…………っ!」


「――これはな、君のお父様と、シフ教頭、そして僕、三人で出した“結論”だ」


ミリナの目が大きく見開かれる。


その瞳に、“悔しさ”と“認めたくない自分”がせめぎ合っていた。


「フレアヴァルト家ってそんなもんか?」


陸虚は腕を組んで、冷たく言い放った。


「ちょっと叩かれたくらいでシュンとするようじゃ――さっさと諦めて、公爵さんにいい縁談でも探してもらいなよ」


その一言で、ミリナの顔に怒り・悔しさ・恥ずかしさ・迷い――あらゆる感情が一瞬にして浮かび上がった。


だが。


ミリナはぐっと拳を握りしめ、唇を噛みしめてから、はっきりと言った。


「……証明してみせる。私が間違ってないって、あんたたち全員に」


「――いいね、それでこそだ」


陸虚は満足そうに頷き、雷網を解除した。


「その“気概”があれば、“大魔法使い”の壁は超えられるさ」


ミリナは立ち上がり、陸虚をまっすぐ見つめた。


「……なんにせよ、ありがとう」


「……ん?」


「子供の頃から、ずっとお世辞しか言われてこなかったの。本気で叱ってくれたの、あんたが初めてだった。あのままじゃ……きっと私は、自分が“すごい”って勘違いしたままだった」


「……そんなに喜ぶなよ。たとえ“大魔法使い”になれたとしても――“奥義”には、お前には一切チャンスがないからな。」


「……?……やっぱりあんたのこと、大嫌い」


そう言って、机に突っ伏して泣き出した。


「……っ……ぐすっ……っ……」


しばらく、しゃくりあげる声が部屋に響いた。陸虚は黙ってそれを聞いていたが――


ミリナがふいに顔だけこちらに向けて、にらんで言った。


「……なによ。もう見世物は終わったでしょ?さっさと出て行きなさいよ。まだ辱め足りないの?」


陸虚は肩をすくめながら言った。


「最初から、辱めるつもりなんてなかったさ。僕が言ってたのは“事実”だ。お前が勝手に深読みしただけだよ」


「…………っ!」


「それに……“奥義”については……」


ミリナはまた顔を伏せた。


「…………もう……いいよ……」


「まあ、やりようがないわけでもないけどな」


陸虚はゆっくりと続けた。


「お前の“基礎”の脆さが原因だ。そこを補える秘術を、僕はひとつ持ってる。――学んでみるか?」


ミリナの肩が、ぴくりと動いた。


沈黙が続く。


ミリナはずっと下を向いたまま、何も言わない。


そんな様子を見て、陸虚は肩をすくめた。


「……ま、やる気がないなら僕は帰るけど?」


くるりと背を向けようとした瞬間――


「ま、待って!!」


ミリナが思わず陸虚の袖をつかんだ。


「……教えてよ。やるから。ちゃんと学ぶから!」


陸虚はにやりと笑った。


「よし。じゃあ、よく聞け。僕が教えるのは――『黄芽(こうが)煉心訣(れんしんけつ)』って秘術だ」

「こうが……れんしんけつ……?」


「そう。お前の体内にある雑多な魔力を一度抜き取って、代わりに“純粋な炎属性魔力”を練り直す術だ。――まずは、この呪文を唱えてみろ」


陸虚がゆっくりと口にした“黄芽煉心訣”の訣文。ミリナは一字一句、聞き逃さぬように目を閉じ、心を落ち着かせて唱える。


そして――


「っ……!」


ミリナの体から、紫がかった黒い煙のようなものが、じわじわと滲み出した。


「これ……私の中に、こんな……」


見た目もどこか“ねばついた”魔力の残滓。鼻を近づけると、少し臭う。


「なっ、なによこれ……く、くさいっ……!」


ミリナの顔がみるみる真っ赤になった。


「ちょ、ちょっと! あたしシャワー浴びてくるっ!」


そう言って立ち上がろうとしたところ――


「おいおい、今ちょうど効果出てきたとこだろ? 続けろって」


「~~~~っっっ!! バカ!! 変態!! デリカシーゼロ!!出ていけ! この鈍感っ!」


バシン!


魔法でドアが全開になり、陸虚は強制的に部屋から追い出された。


「お、おい! やめるなって! 魔力の修復はタイミングが――」


「聞こえなーい!! あとで反省文書けーっ!!」


バタン!


閉められたドアを前に、陸虚はぽりぽりと頭をかいた。


「……ま、効果はあったんだし、よしとするか」

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