表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第三章 王都
37/143

第三十六話 問題少女

「……おじさま…」


ミリナは、草むらから姿を現したシフを見て、思わずそう呟いた。しかし、すぐにハッとしたように顔を背け、表情を引き締める。


(……ダメダメ、今は“ケンカ中”の設定なんだから……!)


だが、さらにその背後から重たい足音が近づいてきた。――炎獅公爵レオネス・フレアヴァルト。そして執事までも。


「っ……お父様……」


さすがのミリナも、完全にしぼんだ声でそうつぶやく。レオネスは何も言わず、ただ無言で娘を見つめた。次に、その視線はリセルへと向けられ――


「よくやったな、リセル」


「……別に。言われた通りにしただけだよ」


「…………え?」


ミリナはぽかんと口を開けた。


「ど、どいうこと……?」


リセルは、頭をかきながら肩をすくめて言った。


「お父様に頼まれてたんだよ。“おじさんが戻ってくるまで、お前を見張っておけ”って」


「はあああああ!? じゃああの商隊って――」


「うん、北方には向かわない。ちょっと王都周辺を回って、気が済んだら戻すって手筈だったの」


「……お兄ちゃんのバカ! 裏切り者! スパイ!」


ミリナは涙目で叫んだ。


「悪いけどさ、兄貴にお前のこと託けたなんて……俺、確実に殺られるわ。」


その様子に、父はついに低く、しかし厳しい声を発した。


「――いい加減にしろ、ミリナ。最近、お前のわがままには本当に手を焼いている」


そして、執事に向き直る。


「この子を部屋に連れていけ。私の許可が出るまで、絶対に外に出すな」


「かしこまりました」


シフは一歩前に出ようとしたが、横目に陸虚と視線が合い――


陸虚が、そっと首を横に振った。


その合図に、シフはしばし口を開いたまま、結局何も言わずに黙り込んだ。


「………………」


「………………」


空気が重くなる中――


ミリナは、しょんぼりとうなだれて、執事に手を引かれていった。その背中には、いつもの覇気も、ふてぶてしさも、もう残っていなかった。


ミリナが執事に連れられて立ち去った後――


陸虚は、ついに王都三大公爵の一角、フレアヴァルト公爵と対面した。


その姿は、シフ教頭とよく似ていた。


だが、シフよりも年長で、重厚さと威圧感に満ちている。


彼の放つ魔力の気配は、確かに奥義魔導士としては頂点に近いものだった。シフが“中堅クラス”の奥義使いであるのに対し――この男は、“魔導師”の扉を叩く寸前にあることが一目で分かった。


「初めまして、陸虚と申します」


陸虚が丁寧に一礼すると、公爵は短く頷いた。


「うむ。話は聞いている。よく来たな」


シフが横から問いかける。


「……どうだ? ミリナの件、何か掴めたか?」


陸虚は少し考え込みながら答えた。


「少しは手がかりになりそうなものが。ただ――彼女自身の想いを、もう少し詳しく知る必要があります」


「ふむ……」


公爵は背をまっすぐにし、腕を組んで語り始めた。


「ミリナはな……小さい頃から、他の貴族令嬢とは違っていた。綺麗なドレスも宝石も、まるで興味を示さず――ただひたすら、“シフのようになりたい”と口にしていた」


「そうとも言える。そして――フレアヴァルト家伝来の“炎の魔法”に目覚めてからは、ますます“家を出て、自分の道を切り拓きたい”と叫ぶようになった」


「……それで、シフを呼び戻したと」


「そうだ。本人の意志が強い以上、私も完全に否定はしたくなかった。だから、シフに説得を頼んだ。……だが――」


公爵は、わずかに目を伏せて苦笑した。


「“おじさんまでつまらない人間になっちゃった”と吐き捨てて、そこからずっと不機嫌だった。今日の件は……その延長だな」


しばしの沈黙。


陸虚は、ふと顔を上げて問う。


「……あの、お聞きしても?」


「なんだ?」


「公爵様は、ミリナさんが“魔法を学ぶこと”自体に反対しているわけではないのですか?」


「ふむ。別に、反対はしていない。……ただ、あの子は天賦こそあるが、私やシフほどの“努力”があるとは思えん。このままでは――三十になるまでに“大魔法使い”には到底なれまい」


「……なるほど」


「そして、三十を過ぎて“魔法も中途半端”では、嫁入りの口もなくなる。……親としては、それが気がかりなのだ」


陸虚は淡々と問う。


「……では。もし、彼女が三十歳になる前に“大魔法使い”になれたら――その時はもう、進路を自由にしてもらえますか?」


公爵は、その目を細くした。


「……ふむ。だが、それが可能だと?」


「やってみます。できるかどうかは分かんないけど、とりあえず試してみるよ。最悪、現実を思い知って素直に嫁に行く気になるかもしれないしね。」


公爵は数秒、無言で彼を見つめたのち――


「……いいだろう。結果が伴うのであれば、口出しはせん。……“フレアヴァルト家の名”にかけて」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ