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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第二章 エルフの里
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第二十七話 危機

翌朝。


陸虚とシオンは再び王宮を訪れ、“魔法コア”の受け取りにやって来た。


だが――


「……そのコア、すぐには渡せないの」


女王セリスは、申し訳なさそうな表情を浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。


「……え? 昨日“今日渡す”って言ってたのに、何かあったんですか?」


陸虚が不思議そうに尋ねると、セリスは少し目を伏せながら答えた。


「実はね……その魔法コア、あなたが来るより前に、一度“貸し出して”しまっているの」


「……どういうこと?」


シオンが顔をしかめる。


「“グラディル”という者がいるの。エルフの古参戦士で、今は哨戒部隊の副長。数日前、彼の息子が“感染した魔鳥”に襲われて、森の奥へ攫われたのよ。何日も戻ってこず、周囲の状況からして……正直、望みは薄いと言われていたわ」


セリスの声には、ほんの僅かに悔しさがにじんでいた。


「でも、彼は諦めなかった。そして……私に、“あの魔法コアを貸してくれ”と頭を下げてきたのよ」


「……」


「あなたも知ってると思うけど――あのコアは、ティリオンの果実の核。強力な木属性魔力を持ち、浄化はできないけれど、“汚染された魔力を遮断・隔離”する特殊な効果を持っている。つまり、感染地帯を通る際に、持っているだけで汚染の進行を遅らせたり、防げたりするの」


セリスは真っ直ぐに陸虚を見つめた。


「本当は、あなたに使ってほしかった。でも、あのときの彼の目を見て……私は、どうしても断れなかった」


「ごめんなさい。あなたが来る前のことだったの」


王宮に響く、緊迫した呼び声。


「大変だッ! グラディルが――!」


慌ただしく飛び込んできた衛兵が報告する。


「……グラディル、今朝戻ってきたんですが……息子の姿を見かけたとかで……そのまま、感染区域の深部へ突っ込んでいきました!」


「……アレンシルも、彼を止めようとして一緒に……!」


その言葉に、シオンの顔色が一瞬で青ざめた。


「……嘘、でしょ……?」


彼女は目を大きく見開き、次の瞬間には駆け出そうとしていた。


「私、行ってくる! 父さんを止めないと……!」


だが、リネアがきつく言い放った。


「待ちなさい! あなたが行って何になるの。魔法も使えない子どもが行って、何ができるっていうの?」


その言葉に、シオンは足を止めた。


「……っ……うう……!」


悔しさ、無力さ、そして恐怖が交じった涙が、彼女の頬を伝って落ちていく。リネアは何も言わず、背を向けて奥の部屋へと消えていった。


陸虚は黙ってその様子を見ていたが、やがて静かに口を開いた。


「……僕が、行ってくるよ」


「はあ!? あんた正気!?今のあんた、魔法もまともに使えないんだよ!? 行っても――」


「君も使えないだろ? でも、それでも行こうとしてたじゃないか」


陸虚は優しく、けれどまっすぐにシオンの赤くなった目を見つめる。


「君は……放っておけないんだろ? お父さんのこと」


「……!」


「僕だって、同じさ。君を……放っておけない。それに、前に魔法スクロール作ってただろ? あれがあれば……多分、大丈夫だよ」


陸虚は笑って見せた。


その笑顔に、シオンはしばらく黙っていたが――やがて小さく頷いた。


「……うん。行こう。絶対、無事に連れ戻すんだから」




二人は急いで準備を整え、王宮の門を抜けた。


その先で、彼らを待っていたのは――


「……遅いわよ」


フル装備のリネアだった。


長いマントに、儀式用の魔導具と防御結界を張るロッドを装備して、完全戦闘モード。


シオンは目を丸くした。


「……母さん……!?」


リネアは一言、こう言った。


「……言ったでしょ。子どもだけじゃ、何もできないって。だから、ついていくのよ」


リネアが魔導装備を整えて、門の前に立った瞬間――


陸虚は一歩前に出て、静かに言った。


「……リネアさん、今回は僕たちだけで行きます」


「……は?」


リネアが目を細める。


「確かに、あなたが来てくれたら心強い。でも、今回は対“汚染”の特殊なスクロールを使う予定なんです。これ、使用範囲が限られてて……人数が多いと効果が分散する」


「……!」


「それに――王宮には、あなたが必要です。あなたがいない間に何かあったら、セリス陛下はどうするんですか?」


リネアは黙ったまま、じっと陸虚を見つめる。


「……娘さんを信じてください。僕は、彼女のことを信じてます」


その言葉に、リネアの瞳がかすかに揺れた。


シオンは、驚いたように隣で息を飲む。


しばしの沈黙の後――


リネアはゆっくりと武具を外しながら、静かに言った。


「……わかったわ。あなたの判断を信じる」


その声は、どこか寂しげで、どこか安心した響きがあった。


「必ず、帰ってきなさい。……二人とも」


門の外へと出たシオンと陸虚。


空はすでに曇り始め、遠くの森林は静かに黒く霞んでいた。


「……行こう。時間がない」


「うん」


二人は足を踏み出した。


 向かうは、感染の深層地帯――“穢れの森”。

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