表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第二章 エルフの里
26/143

第二十五話 家庭関係

アレンシルの額に、ピキピキと見えない何かが走った。


帘の音に反応して、ぐるぐる巻きの包帯の中から、もぞ……っと動く気配があった。


「……ん……シオン……もう着いた……のか……?」


眠そうな声と共に、陸虚がうっすらと目を開けた――


そして、次の瞬間。


目の前には、屈強な体格のエルフの中年男性が、無言でじっとこちらを見下ろしていた。


「うわっ!? な、なにこの人、怖ッ!?」


陸虚は思わずびくっと跳ねるように起き上がり、横にいるシオンに目をやった。


「シオン、この……威圧感マックスのおっさん、誰……?」


シオンは少しニヤリと笑って答えた。


「うちの父親よ」


「…………えっ」


一瞬固まった陸虚だったが、次の瞬間、あわてて体を起こして姿勢を正した。


「な、なるほど! いや~、さすがシオンの父上!すっごく……えーと、頼りがいがあって、こう……クールっていうか、うん!!」


その妙に必死なフォローに、シオンもアレンシルも思わず吹き出した。


「「ふふっ……!」」


馬車の中に、久しぶりの笑い声が響いた。


一通り旅路での出来事を聞き終えたアレンシルは、静かに頷いた。


「……本当に、感謝しかない。あなたのおかげで、娘も、みんなも無事にここまで来られた。陸先生……あなたの勇気と判断に、心から敬意を表します」


「え、いや……そんな大層なことじゃ……」


と、照れたように頭をかきながら、陸虚はふとシオンの方を見た。


「……っていうかさ、シオン。お前、家出してきたんじゃなかったっけ?僕には全然そう見えなかったけどな、仲良さそうで」


シオンが一瞬びくりと肩を揺らした。


その横で、アレンシルが苦笑しながらため息をついた。


「……それはな、あいつの母親のせいだよ」


「……え?」


「シオンが“魔法を学びたい”って言った時、私は大賛成だった。だが、あいつの母さんが……何がどうしたのか、頑なに反対してな。どうしても納得できなくて、私が……リブィ先生に頼み込んで、シオンをオレリスまで連れて行ってもらったんだ」


「…………」


隣のシオンは顔を伏せたまま、何も言わなかった。


アレンシルは話題を切り替えるように、少し声のトーンを変えた。


「……さて、商隊は明日の朝、正式な道を通ってライフタリンに戻る予定だ。だけど、陸先生――あんたは、その怪我じゃとてもついていけない」


「……まあ、そりゃそうかもな。ちょっと歩いただけで全部の包帯が軋むわ……」


「ここでしばらく静養していくといい。エルフ領の医術は……それなりに頼りになる」


アレンシルがそう言ってシオンの方をちらりと見た。


その視線の意味に気づいたのか、シオンは一瞬戸惑ったように目をそらした。


「……私は、すぐに戻るつもりだったんだけど」


視線の先には、ぐるぐる巻きで情けない姿の陸虚と、


どこか不器用な期待を込めた父の笑顔。


「……まあ、仕方ないわね。看病する人もいないし。ここで少しくらい、いてあげてもいいわよ。……ちょっとだけ、ね」


アレンシルに案内されて、陸虚とシオンはエルフ領の一角、アレン家へと向かった。


扉を開けた瞬間――


「……うわ」


目の前には、酒瓶、脱ぎ捨てられた服、積み上がった書類の山。


部屋はまるで竜巻が通り過ぎたかのようなカオス状態だった。


「……す、すまん。最近、警備の仕事が立て込んでてな……」


アレンシルは頭をかきながら、バツの悪そうな顔を浮かべた。


「それに、母さんの方は政務で月に一度しか戻ってこられん。片付ける暇なんて、正直ないんだ……」


だがシオンは慣れた様子で、何も言わずに黙々と片付けを始めた。


「……また周辺の汚染がひどくなってるの?」


手を動かしながら、自然と問いかける。


「ああ。感染した生物の数も増えてきてるし、薬も、物資も、人手も、全部足りない。このままじゃ、本格的に持たなくなるかもしれん」


そんな会話を交わしつつ、シオンは自分の部屋の扉を開けた――


「……え?」


そこは、信じられないほど整頓されていた。


ベッドは綺麗に整えられ、棚の本も埃一つなく、花瓶にはまだ水の残る花が差してある。


「……どういうこと……?」


「お前の母さんだよ」


アレンシルが優しく笑った。


「毎月戻ってくると、まず最初にお前の部屋を掃除する。何も言わないけどな……本当は、お前のことを一番気にしてるんだ」


シオンは少しだけ唇を引き結び、視線をそらした。


アレンシルは腕時計のような魔導具をちらりと見て、短く息を吐いた。


「……悪い、俺はもう戻らないと。夜の巡回があるんだ。お前ら、好きに使ってくれ。何かあったら、すぐ報告しろよ」


そう言って、玄関へ向かい、そのまま出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ