第二十三話 由来
馬車の中、軋む音だけが静かに響いていた。
包帯でぐるぐる巻きにされた陸虚が、壁にもたれて座っている。
その隣で、シオンがじっと彼を見つめた。
「……いつまで、黙ってるつもりなの?」
陸虚は目を逸らしながら、へらっと笑った。
「え、いや……シオンが聞いてこなかったから、つい……?」
その瞬間、シオンの眉がぴくりと動いた。
「今になっても、まだ隠し通すつもり?」
「ちょっ……落ち着け、シオンさん……?」
「あなた、大魔法使いなんでしょ?中級魔法の核心って、一人あたりせいぜい三つまでが限界のはずよ。……でも、あなたが使った魔法、数えてみたら?」
陸虚は一瞬だけ沈黙し、気まずそうに咳払いした。
「ま、まあ……あれは、ちょっと特別というか……」
「あと、毒の浄化。“特殊な魔力核で毒を処理した”って言ってたけど……あれは普通の毒じゃない。あれは“呪い”が混ざってた。……そんなもん、あっさり受け入れて浄化できる人間なんて、いないのよ」
シオンはわずかに声を震わせながら、ぽつりとつぶやく。
「……私じゃダメなんだね。やっぱり、あなたのメイドの方が信頼できるってことね」
「いやいやいや、待って待って待って、それ違うから!別に言いたくなかったわけじゃなくて、説明がめんどくさいだけだったの!!」
陸虚は慌てて手を上げ、シオンの視線から逃げるように頭を掻いた。
「……わかったよ。今から、ちゃんと話すよ。な?」
「……実は僕、この世界の人間じゃないんだ」
陸虚は静かに言った。
シオンが目を見開く。
「……どういう、こと?」
「僕の故郷は、こことは違う世界にあってな。このことを知ってるのは……校長と、ノア、そして――今のあんただけだ」
「ノア……」
シオンの眉がわずかに動いた。
唇を尖らせ、ふっと視線を逸らす。
けれど、数秒後。
「……ふーん、じゃあ……その“大事な秘密”を私にも話したってことね」
口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
「隠す気はなかったよ。ただ、話しても分かりづらいからさ」
「で? あんたの世界の“魔法”って、どう違うの?」
「こっちじゃ魔力核心がどうとか、段階を踏んで法則に至るとかあるだろ?僕の世界じゃ……一つの“金丹”がすべてを司る。その中に、法則、道、全部詰め込むんだ」
シオンの目が輝いた。
「それ……見せてくれない?」
「いいよ。ちょっと待って……」
陸虚は指先に霊力を集中させ、空間に浮かぶ投影を作り出す。
そこに現れたのは、白と黒が絡み合うように回転する陰陽の金丹だった。
だが――その表面は濁り、色は鈍く、回転もどこか重々しかった。
「……毒、か」
「うん。さっきのあの爆発、あれの毒素を全部吸わせた。……正直、ちょっとやばい状態だな。回転も遅くなってるし……浄化にも時間がかかる」
シオンは神妙な顔つきでそれを見つめた。
「……でも、きれい。これが、あなたの“力の核”なのね」
「まあな。おかげで霊力…魔力の流れは安定するけど……今は本当に限界ギリギリって感じ」
陸虚は金丹の投影をそっと消しながら、ふっと笑った。
「……で、次は君の番じゃないの?」
「えっ?」
「僕の世界のこと、力のこと……ぜんぶ話した。だったら、シオン、今度は君が“どうして”オレリスに来たのか、話す番だろ?」
シオンは少しだけ眉をひそめて、ぷいっとそっぽを向いた。
「別に、大した理由なんてないわよ……」
「へぇ?」
「ただ……あの家の連中、私に魔法を勉強させてくれなかっただけ。“研究に成果のない魔法なんて、時間の無駄”とか言ってね。」
そう言って、シオンはどこか悔しそうに唇を噛んだ。
「でも私、どうしても諦めたくなかったの。だから、ちょうど旅立つリブィ先生に無理やりついてきて……ここに来た。それだけよ」
陸虚はしばらく黙ったあと、少しだけ声のトーンを落とした。
「……家のこと、寂しくないか?」
その言葉に、シオンの瞳がわずかに揺れる。
けれど――
「……っ、知らない!!!」
彼女は強く首を振って、わざとらしく視線を逸らした。




