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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第二章 エルフの里
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第二十三話 由来

 馬車の中、軋む音だけが静かに響いていた。


 包帯でぐるぐる巻きにされた陸虚が、壁にもたれて座っている。


 その隣で、シオンがじっと彼を見つめた。


 「……いつまで、黙ってるつもりなの?」


 陸虚は目を逸らしながら、へらっと笑った。


 「え、いや……シオンが聞いてこなかったから、つい……?」


 その瞬間、シオンの眉がぴくりと動いた。


 「今になっても、まだ隠し通すつもり?」


 「ちょっ……落ち着け、シオンさん……?」


 「あなた、大魔法使いなんでしょ?中級魔法の核心って、一人あたりせいぜい三つまでが限界のはずよ。……でも、あなたが使った魔法、数えてみたら?」


 陸虚は一瞬だけ沈黙し、気まずそうに咳払いした。


 「ま、まあ……あれは、ちょっと特別というか……」


 「あと、毒の浄化。“特殊な魔力核で毒を処理した”って言ってたけど……あれは普通の毒じゃない。あれは“呪い”が混ざってた。……そんなもん、あっさり受け入れて浄化できる人間なんて、いないのよ」


 シオンはわずかに声を震わせながら、ぽつりとつぶやく。


 「……私じゃダメなんだね。やっぱり、あなたのメイドの方が信頼できるってことね」


 「いやいやいや、待って待って待って、それ違うから!別に言いたくなかったわけじゃなくて、説明がめんどくさいだけだったの!!」


 陸虚は慌てて手を上げ、シオンの視線から逃げるように頭を掻いた。


 「……わかったよ。今から、ちゃんと話すよ。な?」


 「……実は僕、この世界の人間じゃないんだ」


  陸虚は静かに言った。


 シオンが目を見開く。


 「……どういう、こと?」


 「僕の故郷は、こことは違う世界にあってな。このことを知ってるのは……校長と、ノア、そして――今のあんただけだ」


「ノア……」


 シオンの眉がわずかに動いた。


 唇を尖らせ、ふっと視線を逸らす。


 けれど、数秒後。


「……ふーん、じゃあ……その“大事な秘密”を私にも話したってことね」


 口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。


「隠す気はなかったよ。ただ、話しても分かりづらいからさ」


「で? あんたの世界の“魔法”って、どう違うの?」


「こっちじゃ魔力核心がどうとか、段階を踏んで法則に至るとかあるだろ?僕の世界じゃ……一つの“金丹”がすべてを司る。その中に、法則、道、全部詰め込むんだ」


 シオンの目が輝いた。


「それ……見せてくれない?」


「いいよ。ちょっと待って……」


 陸虚は指先に霊力を集中させ、空間に浮かぶ投影を作り出す。


 そこに現れたのは、白と黒が絡み合うように回転する陰陽の金丹だった。


 だが――その表面は濁り、色は鈍く、回転もどこか重々しかった。


 「……毒、か」


 「うん。さっきのあの爆発、あれの毒素を全部吸わせた。……正直、ちょっとやばい状態だな。回転も遅くなってるし……浄化にも時間がかかる」


 シオンは神妙な顔つきでそれを見つめた。


「……でも、きれい。これが、あなたの“力の核”なのね」


「まあな。おかげで霊力…魔力の流れは安定するけど……今は本当に限界ギリギリって感じ」


 陸虚は金丹の投影をそっと消しながら、ふっと笑った。


「……で、次は君の番じゃないの?」


「えっ?」


「僕の世界のこと、力のこと……ぜんぶ話した。だったら、シオン、今度は君が“どうして”オレリスに来たのか、話す番だろ?」


シオンは少しだけ眉をひそめて、ぷいっとそっぽを向いた。


「別に、大した理由なんてないわよ……」


「へぇ?」


「ただ……あの家の連中、私に魔法を勉強させてくれなかっただけ。“研究に成果のない魔法なんて、時間の無駄”とか言ってね。」


 そう言って、シオンはどこか悔しそうに唇を噛んだ。


「でも私、どうしても諦めたくなかったの。だから、ちょうど旅立つリブィ先生に無理やりついてきて……ここに来た。それだけよ」


 陸虚はしばらく黙ったあと、少しだけ声のトーンを落とした。


 「……家のこと、寂しくないか?」


 その言葉に、シオンの瞳がわずかに揺れる。


 けれど――


 「……っ、知らない!!!」


 彼女は強く首を振って、わざとらしく視線を逸らした。

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