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魔法学校の方士先生  作者: 均極道人
第二章 エルフの里
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第二十一話 戦闘

 木々が揺れ、枝が砕け――

次の瞬間、それは姿を現した。


それは、まるで異形の狼人だった。


濡れたように全身を覆うのは、ねっとりと光る紫色の液体。


舌は異様に長く、だらりと垂れ下がり、涎と毒が地面に滴っている。


その両腕は、腕というより蠢く触手だった。


肉がねじれ、無数の先端が地面を叩きながら、獲物を求めるようにうねっている。


「やはり5級……」


異形の怪物は、じっと陸虚を睨みつけていた。


だが次の瞬間――まるで“本能”が危険を察知したかのように、素早く視線を逸らし、商隊の後方へと跳ねるように突進した。


「くっ、後ろか――!」


だが、陸虚の反応はそれより早かった。


右手を掲げ、天へと雷を呼び寄せる。


「――神霄雷槍!」


轟音と共に、雷光が槍の形を成し、空間を貫いて怪物の背中に直撃した。


ズドンッ!!


怪物の身体が宙を舞い、木々をなぎ倒しながら吹き飛ぶ。


その体には、雷槍によって碗の口ほどもある巨大な穿孔が残されていた。


焦げた肉片と毒の液体が地面に飛び散る。


だが――


「……回復してる……?」


怪物の傷口は、粘液とともにじわじわと再生し始めていた。


肉がうねり、破れた皮膚がぬるりと閉じていく。


陸虚は眉をひそめ、短く息を吐いた。


「……あいつを生かしておくわけにはいかない。一気に決める!」


地面を蹴り、雷光をまといながら前線へと飛び出す。


その手には、黒き雷が渦巻いていた。


「――陰雷龍!」


空に黒雲が渦巻き、雷鳴が轟く中、巨大な黒雷の龍が姿を現す。


雷の龍は咆哮と共に空を駆け、怪物めがけて牙を剥いた。


それに応じるように、怪物も吠え声を上げながら膨張する。


筋肉が膨れ上がり、紫色の触手がうねり、体表の毒が蒸気となって吹き出す。


「グアアアアアアアア!!」


黒雷と腐毒の魔獣――空間を割るような激しい衝突が始まった。


雷と毒が交差し、森が震え、地が裂ける。


戦況は――明らかに陸虚が優勢だった。


だが、その瞬間。


怪物の瞳がぎらりと光り、頭を僅かに傾ける。


その口から、信じられないほど濁った叫びが漏れた。


「キィィィィィ……!」


地面のあちこちが膨れ上がり、無数の小型魔獣が地中から這い出してくる。


腐った狼、目のない蛇、膨張した鼠――それぞれが毒をまき散らしながら商隊へと突進する!


「まずい……こいつ、考えて動いてやがる!」


陸虚はすぐに魔力を分散させ、防御結界を展開。


紫の障壁が商隊を包むが、力の一部を裂かれた彼の雷龍は次第に薄れていく。


怪物は笑うように吠え、再び陸虚に飛びかかる――


「陸先生、気を取られないで! 私たちだけでも、これくらいは何とかなるわ!」


シオンが鋭く叫びながら、次の矢を弦にかける。


その矢尻には、特別に加工された魔力爆薬が装填されていた。


「――撃ち抜くわよ……!」


ズガンッ!!


放たれた矢が小型魔獣の群れの中で爆ぜ、轟音と共に周囲の敵を吹き飛ばす。


一方、商隊の傭兵たちも負けてはいなかった。


剣士、斧使い、盗賊、弓兵――それぞれが武器を手に、小型魔獣たちをまるで草を刈るように次々となぎ倒していく。


「こっちは任せろ! 陸先生はデカいのを頼む!」


血気盛んな傭兵が叫ぶ声に、陸虚はほんの一瞬、口元を引き締めて頷いた。


「……これで、お前の手の内も大体わかった」


陸虚の目が細く鋭く光る。


その瞬間――彼の両腕から、怒涛の雷が放たれた。


「神霄雷槍――四連発!!」


バチィィィィ――ッ!!


雷光の槍が次々と放たれ、怪物の身体を地面へと四方から貫き、磔のように固定する。


呻き声をあげる暇もなく、雷の渦がその身を包む。


「――陰雷龍・純陰解放!!」


上空から雷雲が裂け、黒き雷龍が現れた。


吠え声と共に、雷龍はその巨体を振るいながら、怪物を丸ごと呑み込むように襲いかかる――!


眩い閃光と轟音が世界を支配し、そして……沈黙が訪れた。


地面には、焼け焦げた土と、ただ一つ。


淡く紫に光る、純粋な魔力を宿した水晶が、静かに転がっていた。

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