第十七話 任務
ティアリアの頂点
机の上には、淡く輝く薬液がガラス瓶に次々と注がれていた。透き通った液体は、青と金が混じるような光沢を帯び、瓶口から溢れる魔力の波動はただ近づくだけで癒しの気配を感じさせる。濃密でありながらも決して重たくなく、空気までもが浄化されたかのようだった。
オグドンは最後の一滴を丁寧に瓶に注ぎ入れ、魔封栓でしっかりと封をしてから、瓶を隣の収納箱に収めた。そこには既に、十数本の高級な回復薬が整然と並べられていた。
そのとき、扉が静かに開いた。
「失礼します。」
陸虚がシオンを連れて中に入ってきた。彼女の視線が瓶に向けられ、ほんのわずかに眉が動く。
「おや、陸先生、シオンもいる、珍しい組み合わせだ」
「実は……」
陸虚は自分たちの用件を手短に説明した。
「いろんなタイプの魔法陣に対応できる魔力コア? あるにはあるけど、あれ結構レアなんだよね~。……ま、そうだな。今度ひとつ、ワシの代わりに依頼こなしてくれたら、なんとか用意してやるよ。」
「本当ですか、ありがとうございます。」
「まだお礼を言うのは早いぞ。この依頼、簡単ってわけじゃないからな。でもお前なら問題ないだろう。」
シオンは隣でぷくっと頬を膨らませ、
「いつの間に校長先生とそんなに仲良くなったのよ……」
と、小さな声で文句を漏らした。
「はは、そういえば、この任務、シオンにも関係あるだよな。」
「私も?」
「毎年この時期になると、エルフ族の領地に高級回復薬剤を届けに行くんだが……その道中には呪われた地帯があって、感染した魔獣が出る可能性がある。まあ、普通ならシフに任せるところなんだが、今年は家の事情で無理らしいんだ。そこで陸に頼みたいってわけさ。あなたの実力なら、仮に5級の魔獣が出たとしても、十分対処できるじゃ」
オグドンは笑いながら付け加えた。
「まあ、任務そのものはシオンに直接関係するわけじゃない。ただ、行き先がエルフ族の領地だってだけだ。」
それを聞いたシオンは、ほんの一瞬、表情を曇らせたが、すぐに無表情に戻った。
「別に、私には関係ないから……」
「一緒に行くの、行かないの?」
「行かない!」そう言い放つと、彼女は振り向きもせずに出て行った。
「陸からもう一押ししてみな。シオンのお母さん、今でもよく様子を聞いてくるんだ。君と一緒に行けば、向こうも喜ぶだろうしさ。」
オグドンはそう言うと、一通の手紙を取り出して陸虚に手渡し、続けた。
「エルフ族の領地に着いて薬剤を渡す時、この手紙をエルフの女王に渡してくれ。そうすれば、陸が欲しがっていた魔力コアを手に入れられるはずだ。」
陸虚は素直に手紙を受け取り、軽く頷いた。
「分かりました。」
陸虚はすぐに後を追いかけ、ティアリアの出口でシオンを見つけると、軽く肩を叩いた。
「だから、行かないって言ったじゃない。」
「別にいいけど?行きたくないなら、無理に連れて行こうなんて思ってないし。たださ、せっかく行くんだから、何か欲しいものとか、持ってきてほしいものくらいあるだろ?」
「本当に?」
シオンは半信半疑といった表情で彼を見つめた。
「校長には「たまには帰って顔を見せてやれ」って言われたけど、帰りたくないなら、誰が何を言っても無駄だろ?」
「ヘェン!」
「精霊の森の周囲にある呪われた土地か……。呪い魔法だったら、僕の雷魔法で浄化できるかもしれないけど、もし影の魔法だったらどうしようかな〜、困っちゃうな〜。そばに知識が豊富で、しかも優しくて気が利くアシスタントがいてくれたら、どんなに助かるか……なんて、そんな都合のいい人、いるわけないか〜。」
シオンはピクリと耳を立て、興味を隠しきれない様子だったが、素直になれず、「一緒に行く」と言い出せずに、何度も言おうとしては口をつぐんでいた。
「ま、別にいいけどさ。ああ、そうだ、明日の朝、学校の東門から出発だったな。…うん、間違いない、朝一だ。」
言い終えると、にやりと得意げに笑いながら、悔しそうに歯ぎしりしているシオンを見つめた。
見透かされたことに気づいたシオンは、顔を真っ赤にして悔しそうに叫び、「バカ!」と捨て台詞を吐き、一目散に走り去った。
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